小説

過去の俺から今の俺へ。今の俺から未来の俺へ。

「はぁ……」 ため息が不意に出る。たった今、俺は二十六歳になってしまった。二十歳を過ぎてからは早いとはよく言うが、実際あっという間だ。これでは三十を迎えるのもそう遅くはないだろう。「まずい……本当にこれはまずいな」 現実を逃避するかのように…

違法転生にはご注意を。

 みんなは知ってるだろうか、異世界転生という言葉を。ああ、わかっている。もう聞き飽きたということぐらいは。それくらい異世界転生、または異世界転移というものはありふれている。それはもう、異世界転生させる理由が適当じゃなないかと思えるくらいには…

※死後に異世界はありません。

 ふと思うんだ。死んだらこれまでの人生は幻で、本当の自分が目を覚ますんじゃないのかって、それこそ異世界にでも行けるんじゃないのかと……。 ――ビルから少年が飛び降りた模様――遺書が残されており――学校ではいじめが――『何で――が! 返してよ…

愚者は失ったものに手を伸ばす。

遠くに見える景色が美しかった。私には、眩しかったのだ。届かないものに手を伸ばす私は、|滑稽《こっけい》であったであろう。皆には簡単に手に取れるそれが、私には、私には果てしなく遠いものだったのだ。あぁ、何故だろう。何故なんだろうか。以前は私も…

心の積み石

 悲しい。悲しみがこみ上がっていく。 とめどない絶望がある。 これからどうしよう。という不安がある。 不甲斐ない自分に憤りを覚える。 どこへ行けばいいのだろう。 どこに向かえばいいのだろう。 どこへ辿り着くのか……。 果てしない。この道は、…

001 巻き込まれた者

 寝て、起きて、ダンジョンに行って、寝て、起きて……変わり映えのしない、いや、死んでしまえばそれまでの毎日を俺、|天動御影《てんどうみかげ》は過ごしていた。 この世界にダンジョンが発生して約百年、世界は疲弊してくたびれている。 モンスター大…

001 始まりのガチャガチャ

 どこまでも続く真っ白な空間に、俺、|清城瑠院《せいじょうるいん》は立ち尽くしていた。 夢の世界なのか、はたまた幻なのか、全く見当もつかない。「ここは……」 見渡す限りの真っ白な空間。シミ一つないような場所に、ポツンと場違いにも二つのテーブ…

001 一線を越えた世界

「えっ……」 不意に背後から|貫手《ぬきて》による攻撃を受けた少女は、僅かに声を|漏《も》らした。その貫かれた|個所《かしょ》は確実に少女の心臓を捉え、死に至らしめる。「ゆ、ユリス!」 突然の出来事に少年は声を上げた。しかし、攻撃した何者か…