短編

空き缶を蹴飛ばせば世界は終わる。

 それは、雪の降る寒い日だ。 俺は苛ついていた。バイトの面接には落ちるし、停めていた自転車は盗まれ、しまいに犬の糞まで踏む。 泣きっ面に蜂とはまさにこのことだ。 だから、転がっていた空き缶を何となく蹴飛ばしてしまった。 今日はついていない。…

氷結世界のロルド

 世界は氷に包まれていた。 草木や家、人々までもが氷の彫刻となり果て、最早国々すらもまともに機能はしていない。 まるで水面が氷結するかのように、世界は氷で満ちていた。 そんな氷結世界のとある村に、一人の男が目を覚ます。「ここは……」 男の名…

違法神を狩る執行神、異世界と地球ダンジョンブームに今日もため息を吐く。

「あなたには異世界へと召喚される代わりに、好きな能力を授けましょう」 傲慢にも僕にそう言って空中から見下す存在がいる。当然それは女神なんだけれども、まるで虫を見るような眼だ。「いえ、別に能力はいりませんよ」「なに?」「他に欲しいものがあるの…

サブヒロインのその後を考えたら悲しくなった。

「完結した……くそがッ!」 俺は嘆くようにそう叫ぶと、手に持った漫画本『モブの俺が高根の花を振り向かせたくて』の12巻を床に叩きつけた。(王道恋愛漫画だもんな。ヒロインと結ばれるだろうとはわかっていたけど、主人公をずっと支えてきた幼馴染が報…

過去の俺から今の俺へ。今の俺から未来の俺へ。

「はぁ……」 ため息が不意に出る。たった今、俺は二十六歳になってしまった。二十歳を過ぎてからは早いとはよく言うが、実際あっという間だ。これでは三十を迎えるのもそう遅くはないだろう。「まずい……本当にこれはまずいな」 現実を逃避するかのように…

違法転生にはご注意を。

 みんなは知ってるだろうか、異世界転生という言葉を。ああ、わかっている。もう聞き飽きたということぐらいは。それくらい異世界転生、または異世界転移というものはありふれている。それはもう、異世界転生させる理由が適当じゃなないかと思えるくらいには…

※死後に異世界はありません。

 ふと思うんだ。死んだらこれまでの人生は幻で、本当の自分が目を覚ますんじゃないのかって、それこそ異世界にでも行けるんじゃないのかと……。 ――ビルから少年が飛び降りた模様――遺書が残されており――学校ではいじめが――『何で――が! 返してよ…

愚者は失ったものに手を伸ばす。

遠くに見える景色が美しかった。私には、眩しかったのだ。届かないものに手を伸ばす私は、|滑稽《こっけい》であったであろう。皆には簡単に手に取れるそれが、私には、私には果てしなく遠いものだったのだ。あぁ、何故だろう。何故なんだろうか。以前は私も…

心の積み石

 悲しい。悲しみがこみ上がっていく。 とめどない絶望がある。 これからどうしよう。という不安がある。 不甲斐ない自分に憤りを覚える。 どこへ行けばいいのだろう。 どこに向かえばいいのだろう。 どこへ辿り着くのか……。 果てしない。この道は、…