「ここは?」
転移した先は待合室ではなく、豪華なレストランのような場所だった。正面上部には、でかでかと『前半戦1位おめでとう!』という看板が掲げられていた。
「見るからに、レストランさね」
「うわぁ、こんな豪華なレストラン初めてです!」
「ぶひゅひゅ、それよりもみんな、上を見るんだな! 僕ちんたちが一位なんだな!」
俺たちが周囲を見渡していると、奥平も看板に気がついて指をさした。
まさか本当に一位を取れるとはな。これから後半戦もあるが、素直に喜んでおこう。
「わぁああ! やりましたね!」
「一位とは幸先がいいさね!」
「ぶひゅひゅ! 僕ちんたちは最高のパーティなんだなぁ!」
三人は一位ということに喜び、声を上げた。俺もそこに混じって、言葉をかける。
「ああ、やったな。この調子で後半戦も一位を目指そう」
「当然さね!」
「そうですね! もちろん一位を目指しましょう!」
「僕ちん頑張るんだなぁ!」
そうして、俺たちはしばらく喜びの余韻に浸ると、気になっていたレストランのテーブルに注目をする。そこには、豪華なレストランに合ったコース料理が並んでいた。
「ぶひゅぅ。あれ、おいしそうなんだなぁ。あれって、食べていいのか気になるんだなぁ」
「そうですね、とても美味しそうです!」
「待ちな。罠かもしれないさね」
「少し様子を見てみるか」
俺はそう言うと、料理の置かれたテーブルに近づき、おかしなところがないか確認をしてみると、何やら透明な画面が出現した。
_____________________
食事を摂るには料金が必要です。
コース料理
1食=500EP
購入数を入力してください。
_____________________
これは……食事を摂るには、ここまで獲得したEPから払えということか。それにしても、500EPは高い。
前半戦を一位で通過したことによって、俺たちは追加で500EPを獲得している。だが、ここにきて食事にかかる費用が500EP×4人分ということは、合計で2,000EPも必要だった。
一位の加算分を合わせて、現在のEPは14,110ほどある。問題は、目の前の食事をどうするかだよな。2,000EPは第一試練の獲得EPと同数だ。簡単に使える額じゃない。
俺が頭を悩ませていると、そこにパーティメンバーがやってくる。
「どうしたんですか? ……この料理、こんなに高いんですか!?」
「流石に2,000EPは高すぎさね」
「ぶひゅぅ。でも、僕ちんお腹が空いたんだなぁ……」
この試練が始まってからまともな食事を摂っていないこともあり、俺たちはかなり空腹感を覚えていた。
くそ、どうする? 食事を摂るか? しかし、それだと2,000EPもかかってしまう……。
少しの間、俺はどうするべきか思考し始める。
そもそも、食事を摂らなかった際のメリットは、当然EPの節約だ。そしてデメリットは、空腹による身体能力への影響や、メンタル的な部分になる。
それを理解した時、俺は決断を下した。
「問題ない。食事を摂ろう」
「ええ? いいんですか!?」
「2,000EPもかかるのにいいのかい!?」
「やったんだなぁ! 流石ルインたん!」
奥平以外のメンバーは、俺が食事を摂ることを選択したことに驚いているようだ。しかしよくよく考えれば、このイベントはようやく半分ということになる。ここで食事を摂らずにパフォーマンスが低下したほうが危険だと、俺はそう考えた。
「イベントはまだ半分だ。EPは確かに報酬や後半戦で重要になるらしいが、それで腹を空かせたのを理由に、負けてしまっては意味がない。後半戦も一位を目指すためには、万全であることが重要だと判断した」
俺がそう説明をすると、三人は納得したように頷く。理性ではもったいないと思っていても、やはり空腹には耐えられなかったらしい。
「そういう理由なら、納得さね」
「はい、実は僕お腹ペコペコでした!」
「僕ちんお腹が減りすぎて痩せそうだったんだなぁ!」
「そういうことだ。皆席に座ろう」
俺はスマホでEPを支払うと、席に着いた。目の前には、豪華なコース料理が並んでいる。
店員がいない関係で順番に運ばれることは無く、全部出そろってはいるが、こっちの方が俺好みだな。高級レストランのマナーとかそもそも知らないし、好都合だ。
「さっそく頂くんだな!」
「わぁ、どれから食べようかな!」
「ここにきて初めてのごちそうさね!」
三人も俺と同じようで、高級レストランのマナーなど知らないようだった。みんなそれぞれ好きなように食べ始める。
なんだ。みんなマナーなんて気にしていなかったのか。俺も好きに食べるとしよう。
そうして、俺たちはしばらく食事を楽しんだ。
___
__
_
「もう食べられないんだなぁ!」
「ごちそうさまでした!」
「最高だったさね」
無事に食事を終えると、俺たちは食後の休憩をとることにした。俺はこれからのことを思い、装着するスキルについて改めて考える。
後半戦は最初の説明であった通り、トーナメント戦になるはずだ。つまり、他のプレイヤーパーティとの戦いになる。試合前に多少時間はあるだろうが、今は少しでも現状のスキルについて把握する必要があるはずだ。
そう考えた俺はとりあえず、第四試練で不覚にもラーニングしてしまった奥平のスキルを確認する。
____________________________________
名称:イタズラな風
CP:2
【説明】
どこからともなくイタズラな風が吹く。
____________________________________
……本当に使えないスキルだな。それに、CP2とか初めて見たぞ。
俺はラーニングしてしまったイタズラな風というスキルに対して、落胆してしまう。
貴重なスキルの控え枠が、こんなスキルに使われてしまうとは……もし消せる時が来たら、真っ先にこのスキルを消そう。
俺はそう決意すると、続いて現在のスキル欄を開く。
_____________________
CP 75/135
固有スキル
【ラーニング】【精神耐性】
装着
【偽装/30】【ウインドスラッシュ/20】
【パリィ/10】【威圧/5】【火炎纏い/10】
控え
【クリスタルブレス/100】【クリーン/5】
【シールドバッシュ/10】【イタズラな風/2】【】
_____________________
基本的には、このままのスキル構成で行こう。クリスタルブレスはやはり小回りができないし、他のスキルがあまり装着出来なくなる。シールドバッシュもオーガ戦の時のように使用することは難しい。というよりも、現状赤鬼の小太刀でダメージを与えられなかったら、なんちゃってシールドバッシュでどうにかなるとは思えない。
そういう考えから、シールドバッシュを控えに回し、余った枠に火炎纏いを装着している。火炎纏いは最後の手段として、一応考えていた。
火炎纏いは火属性耐性が無い現状、俺にもダメージが発生する。下手をすれば相手よりも被害が大きいかもしれない。だが隙を作ったり、何かから抜け出すのには使えるはずだ。
ただ問題なのは、火炎纏いを使ったことによるパーティメンバーの反応になる。しかしそれを恐れて負けてしまうよりは、知られてしまう方が余程ましだと考えた。
よし、準備はとりあえず万全だな。あとは後半戦が始まるまで、しばらく待機するだけか。
そうして暇になった俺は、高級レストラン内を少し歩くことにした。
コメントを残す