「「「マジックショットなんだなぁ!」」」
「なっ!? みんな避けろ!」
俺たちが躊躇っていると、偽奥平三人が一斉に攻撃を仕掛けてくる。
「ぶひゃああああ!!?」
「お、奥平さぁああああああああん!!」
すると偽奥平の放ったマジックショットは、全て本物の奥平に命中してしまう。当然本物の奥平は、光りの粒子になって消え去っていく。
「僕ちんたちの怨みを思い知ったんだなぁ!」
「少しは僕ちんの痛みを理解したんだな!」
「焼かれるのは痛くて怖かったんだな!」
本物の奥平にそんなことを言っても意味はないと思うが……まあ、本来ならそんなこと分からないか。
実際生贄になった仲間たちが蘇って、怨み言をぶつけてくれば、躊躇してしまう可能性が高かった。更にその実力も、元となった者と同等だと思われるので大変厄介だ。
これを本来一人で対処する必要があるとすれば、かなり面倒だな。
「ルイン、どうするさね!」
「ぼ、僕はどうすれば!」
対応に困り、キャサリンと姫紀が指示を求めてくる。それに対して、俺が言う言葉は決まっていた。
「あれはどう見ても偽物だ。本物は恨んでいなかっただろ? なら、躊躇わずに倒すぞ」
「わ、分かったさね!」
「さ、サポートは任せてください!」
そうして、俺たちが偽奥平を倒す方向で決めた時だった。
「必殺! イタズラな風なんだな!」
「ルインたんの服をめくるんだな! イタズラな風!」
「姫紀たんのおへそが見たいんだなぁ! イタズラな風!」
本物の奥平がこれまで見せなかった固有スキルを、偽奥平たちが発動する。それによって、驚くべきことが起こった。
「な、なんだ!?」
「ふぁああ!?」
どこからともなく風が巻きあがると、俺と姫紀の白いシャツがめくれ上がる。その風がシャツを押し上げるように、鳩尾辺りまでの肌をあらわにした。
≪スキル『イタズラな風』をラーニングしました≫
なっ!? こんなくだらないスキルに貴重なスキル枠が!?
恥ずかしさよりも、このよくわからないスキルをラーニングしてしまった方がショックであり、怒りが込み上げてくる。
「許さんぞ……ウインドスラッシュ!」
「ぶぎゃ!?」
俺は怒りに任せてウインドスラッシュを放ち、偽奥平を一人撃破する。
「むぅ! いくら奥平さんに似ていても、容赦しませんよ!」
「びぎゃあああ!?」
姫紀は相当恥ずかしかったのか、電流イライラ棒を振るって偽奥平を攻撃した。電流が全身に流れて偽奥平が叫びをあげると、そのまま撃破されて消え去る。
「それじゃあ、あたしゃは残りを倒すさね。デルタアタック!」
「ばぎゃああああ!?」
最後の一人はキャサリンが難なく倒し、偽奥平は全ていなくなった。すると、墓地の霧が晴れて、前方に扉が現れる。この大部屋をクリアしたということだろう。
所詮、奥平だったな。
そんな酷い事を思いながら、俺たちは一応本物の奥平の復活を待った後、大部屋を出た。
「ぶひゅぅ。酷い目に遭ったんだな。まさか自分に殺されるとは思わなかったんだなぁ」
「奥平さん、次エッチな風を起こしたらビリビリしますからね!」
「ぶひゃ!? え、冤罪なんだなぁ!?」
姫紀はあの風が相当恥ずかしかったのか、奥平に電流イライラ棒を見せつけて忠告をする。それに対する奥平は当然身に覚えが無いので、焦りながらも冤罪を主張した。
まるで、電車で冤罪を突きつけられる会社員のようだな。
俺は二人を見てそう思いながら、前方に視線を向ける。そこには当然、南の回廊が続いていた。
この回廊を抜ければ、ようやく長かった第四試練も終わりだな。しかし、最後の最後で何が起こるのか分からない以上、気を引き締めて行こう。
「そろそろ先に進むぞ。この回廊が最後なんだ、集中していくぞ」
「わ、わかったんだな!」
「あいさね!」
「わかりました!」
そうして、俺たちは南の回廊を進み始めた。
「ギョギョ!」
「ウォッ!」
「ギョベベ!」
しばらく進むと、案の定サハギン達が現れる。だが、今更サハギンなど相手になるはずもない。
「ウインドスラッシュ!」
「デルタアタックさね!」
「マジックショットなんだなぁ!」
俺も加わり三人でスキルを発動すれば、サハギン集団は瞬く間に消え去っていく。
「ギョエーッ!」
「ウェオーッ!」
「ギョエーッ!」
この程度なら、相手にもならないな。
その後に現れるのは、普通のサハギンかサハギンリーダーくらいのもので、俺たちは破竹の勢いで進んで、簡単に最後の門まで辿り着く。だが、そこには敵が待ち構えていた。
「……ギョ」
あれは、キャサリンが大部屋で戦ったサハギンエリートじゃないか?
「ここにきて、サハギンエリート。何だか因縁を感じるさね」
「やっぱり、あいつは普通のサハギンと雰囲気が違うんだな」
「確かに、まるで武人のようですね」
サハギンエリートは決闘だと言わんばかりに、俺のことを指さして手招きをする。もしかしたらこの中で、一番強い者を見抜いたのかもしれない。
ほう。それは面白そうだな。
俺は乗り気になって赤鬼の小太刀を握りしめると、一歩前に出ようとした――その時だった。
「マジックショットなんだなぁ!」
「ぎょ!?」
奥平の不意打ちを見事に喰らったサハギンエリートが、床を転がっていく。
「……」
「あんまりさね」
「これは酷いです……」
「ゆ、油断しているのが悪いんだな!」
奥平は場の空気に耐えられなくなったのか、開き直ってそんなことを口にする。
まあここは決闘とか関係なく、全員で一斉にかかるのが正解だよな……。
俺は溜息を吐きながらも、最終的にサハギンエリートに四人で攻撃することに決めた。
「これは試合じゃない、試練だ。全員でかかるぞ」
そうして、サハギンエリートは哀れにもなすすべもなく倒される。
「……ギョフッ」
最後の言葉が、どこか悲しそうだったのは気のせいだろう。
「なんだか、かわいそうでしたね」
「決闘、受けてやればよかったさね……」
「ぼ、僕ちんは何も悪くないんだなぁ!」
キャサリンと姫紀はサハギンエリートを哀れだと思い、奥平は自分は悪くないと言い張った。
サハギンエリートとは戦ってみたかったが、仕方がないか。
その後サハギンエリートが完全に消え去ると、その後ろで存在感を放っていた最後の門が開く。
「これでクリアだ。みんな行くぞ」
「了解なんだな!」
「あいさね!」
「行きましょう!」
俺たちは開いた門を潜る。するとそこは、この回廊の中央にあった日本庭園だった。その光景を見て、もしや追加で強敵が現れるかと身構えたが、そんなことは無く、クリア画面が現れる。
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第四の試練『生贄の回廊』コンプリート!
獲得EP
・仲間を生贄に捧げる+300EP×3=900EP
・大部屋クリア+250EP×4=1,000EP
・サハギン撃破+10EP×100=1,000EP
・サハギンリーダー撃破+30EP×30=900EP
・サハギンエリート撃破+50EP×2=100EP
・コンプリートボーナス+2,000EP
獲得合計5,900EP
【コメント】
えぇ。嘘でしょ……。この試練コンプリートしちゃったの?
途中退場前提だったのに……。
もう貴方たちがEP獲得数で一位でしょ。
だってこの試練の合計EPだけで、およそ普通なら三試練分だよ?
調子に乗って作るんじゃなったよ。
まあでも、一応言っておくよ。おめでとう。
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5,900EP? まさかの数字だな。これまでの試練と比べてもかなり多い。
第一試練が2,000EP、第二試練が2960EP、第三試練が2,800EPだった。それを考えれば、5,900EPは普通ではない。
合計で13,660EPか。これを超えるチームがいないことを祈るしかないな。いや、コメントに5,900EPが普通の試練およそ三つ分だとあるから、一試合2,000EPだとしても、四試合で8,000EPか。
俺は13,660EPというその結果に満足をした。
そう考えると、俺たちのパーティはかなり優秀だということになるな。特に、奥平の固有スキルは反則だろう。
第一試練と第四試練は、特に奥平の功績が大きい。奥平がいなければ、クリア出来なかった可能性が高かった。
奥平には感謝をしておくか。
そんなことを思いながら、俺たちはクリア画面の確認を終えると、しばらくしてその場から転移した。
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