高級レストラン内には、俺たち以外に人の気配がない。他のテーブルには食器類だけが置かれている。
キッチンや正面入り口から外に出ることは出来ず、唯一行けるのはトイレくらいだ。
トイレと飲水が無料なのは地味にありがたいが、やることが無いな。
レストランの一角には半球型のホールがあり、壁には大型モニターが設置されている。おそらく時間が来れば、ベントやナビ子から知らせが映るのだろう。
他のパーティメンバーに目を向ければ、みんな疲れているのか、椅子にもたれかかって眠っており、奥平に限れば床に転がっている。
俺も少し眠るべきか。やることは無いし、体力を回復させておく必要があるだろう。
そう考えた俺は、近くの椅子に座って、目を閉じた。
◆
『お待たせ! ようやく全四チームが前半戦をクリアしたよッ!』
『がはは! まあ最後のチームは時間切れだけどな!』
『そんなこと言っちゃあだめだよ。みんな頑張ったんだからねッ!』
『ナビ子の言う通りだな! がはは!』
まるで強制的に目覚めたかのように、ベントとナビ子が大型モニターに映った瞬間に意識が覚醒した。どうやら他のパーティメンバーもそうらしい。
「みんな、そろそろ後半戦が始まるかもしれない。説明をよく聴いておこう」
「わ、わかりました!」
「もうそんな時間さね」
「僕ちんもうちょっと寝たかったんだなぁ」
俺は三人に一応そんな風に言葉をかけると、モニターに集中した。
『さてさて、後半戦だけれども、最後に到着したチームにも一応休憩時間がひつようだから、十五分後に改めて説明をするよッ!』
『良かったな! 流石にその状態でトーナメントは厳しいだろう!』
『ああ、そうそう、説明は後からだけれど、一応各パーティの前半戦ランキングを表示しておくから、参考にしてねッ!』
『お前は相変わらず悪趣味だな! がはは!』
そう言い残し、巨大モニターの画面が切り替わる。そこには、前半戦のランキングが表示されていた。
1位
パーティ名:男の娘シスターズ
リーダー:清城瑠院
所持EP:12,110
2位
パーティ名:ユニィと下僕たち☆彡
リーダー:星川ユニ
所持EP:9,650
3位
パーティ名:臨時パーティ(仮)
リーダー:剣崎五郎
所持EP:5,680
4位
パーティ名:アブソリュートドラグーン
リーダー:外道田杉助
所持EP:2,110
順位を確認すると、他パーティとのEP差に喜びが込み上げるが、それ以上に問題があった。
何だこのパーティ名は!? 俺はこんなふざけた名称にした覚えはないぞ!!
パーティを組んだ当初は、パーティ名などにこだわりはなく、無記名で作った記憶がある。しかし、現状では男の娘シスターズという悪意塊のような名称になっていた。
「ルイン、あんた……」
「ルインさん。シスターズではなく、ブラザーズなのでは? それと、子が娘になっていますよ?」
「ぶひゅひゅ! ルインたんはやっぱり、男の娘という自覚があったんだなぁ!」
パーティ名を見て、三人は俺が名付けたと思ったのか、そんな言葉を送ってくる。
「ち、違う! 俺は無記名で登録したんだ! こんなふざけた名称にするはずがないだろう! きっと奴だ! ナビ子の仕業に違いない!」
俺はそう弁解をした。信じてくれるまでに、しばらくの時間を要してしまう。だが、何とか誤解だと信じてもらうことができた。
「まあ、ルインがあんな名称にするとは思えないさね」
「そうですよね。それにあれだと、僕とルインさんだけのパーティみたいになってしまいますし」
「ぶひゅぅ。それはそれで何だか残念なんだなぁ」
姫紀は一人だけずれているが、俺の名誉は無事に守られた。ナビ子にはこの件についても、いつか問いただしておこうと心に刻み込む。
そうして時間はあっという間に過ぎ、巨大モニターの画面が再び変わる。
『十五分経ったよッ! それじゃあ、イベント4444後半戦の説明を開始するよッ!』
『後半戦はトーナメントだ! 全部で試合は四試合! 一試合目と二試合目は勝ち抜き戦、三試合目と四試合目はチームデスマッチだ! がはは!』
『試合は前半戦の順位から決まるよッ! 第一試合は1位対4位、第二試合は2位対3位だよッ!』
『そして第三試合は負けたパーティの試合になり、第四試合は優勝パーティを決める試合になるぞ! がはは!』
説明を聞く限り、どうやら俺たちは第一試合に出ることになるらしい。相手は、4位のアブソリュートドラグーンということになる。
EPの差は丁度10,000か。後半戦はEPが関係するとイベントの当初に聞いた気がするが、そのところはどうなんだろうか。
俺がそう思っていると、どうやらその説明を今から始めるようだった。
『おやおや、EPの使い道が気になるようだねッ? EPは試合を有利にするために必要だよッ!』
『ただし、使い過ぎればそれだけ報酬が減るがな! がはは!』
『試合前にEPを使う場面があるから、その時に考えて使ってみてねッ!』
『逆にEPをケチると不利になることも忘れるなよ! がはは!』
なるほど。詳しくはその時になってみないと分からないということか。しかしこれは、EPを最も稼いだ俺たちが有利だな。
これから戦う相手の所持EPは2,110程度。逆に考えれば、相手はそれだけのEPしか使うことができない。
『簡単な説明はこれくらいかな? それじゃあ、そろそろ第一試合を開始しようか!』
『がはは! 第一試合は勝ち抜き戦だ! 試合の説明は直前に改めて教えよう!』
『お互いに死力を尽くして頑張るんだよッ!』
『第一試合は前半1位の男の娘シスターズと、4位のアブソリュートドラグーンだ!』
『どっちも凄いパーティ名だねッ!』
『片方はお前の仕業だろうが! がはは!』
『ありゃ、ばれた?』
そんな間の抜けたやり取りの途中で、俺たちは転移した。
やっぱり、パーティ名はナビ子のせいだったのかよ。
俺はそのことばかりが思考の大半を占めたが、無理やり頭の隅に追いやった。
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