門を抜けて西の回廊に来ると、本来生贄によって人数が減る関係上からか、モンスターの襲撃頻度が少なくなっている。
やっぱり、奥平の固有スキルって反則だよな。イベントのルールの裏を突いて復活しているし。
奥平本人は残機という固有スキルを強いとは思っているものの、どうやらそこまで反則とは思ってはいないようだった。
「ぶひゅぅ。僕ちんもバッタバッタと無双できるような固有スキルが良かったんだなぁ」
「なに言ってるんだい! あんたの固有スキルは十分すぎる以上に凄いさなね! そんな贅沢言ってるんじゃないよ!」
そういえば、奥平はチャラ男と命斗の試合を見ていたんだよな。あの二人の固有スキルは、確かに目立つが、俺からすればデメリットがあるものの、何度も復活することができる奥平のスキルの方が凶悪だと思う。
それこそ、ものすごい強さを持った者が奥平の固有スキルを手にすれば、手を付けられない存在になるはずだ。
「僕も戦える固有スキルが良かったです」
「なんだい。姫紀もかい。あたしゃのデルタアタックと比べたら、二人とも反則さね」
姫紀の固有スキルは、補助系としてはかなり強力だ。広範囲から個人まで選ぶことができ、能力の上昇や物理的な結界として役に立っている。
何度も効果を受けている割には、姫紀の固有スキルをラーニング出来ないんだよな。もしかしたら希少価値が高いスキルほど、ラーニングし辛い傾向にあるのか?
二人のやり取りを聞いて俺はそんなことを思う。
それと、キャサリンの固有スキルは奥平と姫紀に比べると目減りしてしまうが、使いやすいく威力も出るので、実際戦闘では大いに役に立っている。
「そういえば、ルインさんの固有スキルってやっぱり耳や尻尾と関係あるんでしょうか? あのかっこいいクリスタルブレスは普通のスキルの様ですし」
「僕ちんもその辺きになるんだな!」
これは、不味いな。この耳と尻尾、さらに付け加えれば紅と碧のオッドアイに銀髪も、全てナビ子が行ったことだ。決して固有スキルではない。しかし、だからといって違うというのもややこしくなる。ラーニングを教えるのは論外だ。
俺は迷った末、否定も肯定もしない返事をすることにした。
「特にこれといった効果はないな。ほとんど役に立たない上に、目だって仕方ない。困ったものだよ。まあ、レッサーウルフの件には流石に驚いたけど」
今はパーティメンバーだけということもあり、フード付きローブのフードは下ろしている。だが、人の多いところでは頭部を隠さないと面倒に巻き込まれてしまうので、圧倒的にマイナス面が大きい。
「そうなんですか? 」
「可愛いは正義なんだな!」
「あんた苦労してるんだね」
なんだか同情的な空気が流れてきたので、一応辻褄が合うようにいくつか付け加えておく。
「まあ、俺にはそれ以外にウインドスラッシュやパリィなどがあるから、そこまで苦労している訳ではないけどな」
「なるほど」
「確かに、あの技は凄いさね」
「ルインたんの戦闘は美しいんだな!」
そんな風にやり取りを交わしつつ、俺たちは回廊を進んだ。
「ウッオ!」「ウオウオ!」
そこに、サハギンリーダーが二匹現れた。だがそれも、奥平とキャサリンによって瞬時に撃破される。
「ウェオーッ!」「ウェオーッ!?」
リーダーなのに二匹同時に現れるんだな。
俺は後方でゆっくりしながら、そんなどうでもいいことを思った。
「楽勝なんだな!」
「こりゃ案外、この試練はあたしゃ等にとって有利かもしれないね!」
その後も、現れるサハギンやサハギンリーダーを悉く打倒していく。
おかしい。確かに、本来のバランスを考えれば、これくらいが丁度いいのかもしれない。だが、これまでの試練の悪辣さを考えれば、もっと強敵や一度に多く出てく来ても可笑しくないのだが……何かあるのか?
疑り深い俺は、試練がスムーズに進むことに対して疑問を覚える。しかし、その理由が分からず、頭を悩ませた。
「あ、もう大部屋の扉が見えてきましたよ!」
「あっという間だったんだな!」
そんなことを考えている間に、俺たちが大部屋の扉まで辿り着くと、大部屋の扉はゆっくりと音を立てながら開いていく。
ここまでは何だか不気味だったが、先に進まない訳にもいかないか。
「いくぞ」
「あいさね!」
「了解なんだな!」
「はい!」
不安がっても仕方がないか。それに何が出てきても、食い破ればいいだけだしな。
俺は自分にそう言い聞かせると、パーティメンバーと共に次の大部屋へと入った。
コメントを残す