ここは、道場か?
中に入ると、そこは道場のような内装をしていた。床や壁は木造であり、窓からは光りが差し込んでいる。中央には、まるで試合でも行うかのように白線が浮かび上がっていた。
何だここは? この大部屋でいったい何をさせられるんだ?
「あ、あんなところに看板があるんだな!」
俺がこの大部屋について考えを巡らせていると、奥平が部屋の隅にある看板を発見する。近づいて確認してみると、以下の内容が書かれていた。
『この大部屋を突破したければ、先鋒、中堅、大将を選び、試合に勝利せよ。ルールは相手を倒せば何でもありだ。先に二勝したチームの勝ちとする。なお敗北した場合には、二時間待機した後、先に進むことを許可する。順番はスマホをかざした者から先鋒、中堅、大将となる。試合中外部からの支援は反則になるため注意されたし』
なるほど。これは凄く俺好みだ。当然、大将の方が強い敵になるはず。
俺がそう思っていると。
「これは、敵大将が出る前に二勝すればいいさね」
「確かに、それが得策なんだな!」
「え?」
二人の考えに俺は思わず、そんな声を零してしまった。
「ルイン、どうしたんだい?」
「いや……何でもない。それなら、俺は前の疲れがたまっているし、大将にさせてもらえないか?」
俺は強敵と戦う可能性を得るために苦肉の策として、そう発言をした。
「それなら仕方がないさね。あたしゃとルインで楽に二勝できると思ったんだがね」
「ルインたん無理は良くないんだな。敵は僕ちんに任せるんだな!」
「ルインさん大丈夫ですか?」
何が流石なのかよくわからないが、どうやら納得してくれたみたいだ。俺が大将になるようにしっかりと誘導しよう。
「敵大将が一番強かった場合、通常通り先鋒が一番弱い可能性が高い。そこでこちらの先鋒は奥平がやるのはどうだろうか。そして、中堅は何とも言えないが、どちらでも対応できそうなキャサリンに頼みたい。そして大将は俺が務める。仮に敵の大将が弱かった場合は、どちらかに負担が行くかもしれないが、そこは時の運になるだろう」
俺の言葉に、若干二人は考えるしぐさを見せるが、最終的に俺の考えに賛成してくれた。
「分かったさね。ルインの指示に従うよ」
「仮に僕ちんの相手が強敵でも、勝ってみせるんだな!」
「僕は今回見守っていますね。補助魔法を使用したら反則になるようですし」
そうして、無事に順番が決まったので、俺たちは奥平から看板にスマホをかざしていく。すると看板が一瞬光り、順番が登録された。
強敵とは戦いたいが、もしも戦えないとしても問題はない。体力の温存に繋がるし、まだ試練は途中だ。この先強敵が待ち受けているだろう。
そんなことを考えていると、奥平の体が光って強制的に部屋の中央付近へと転移した。そして奥平の目の前には、王冠を身に着けた青い筋骨隆々の肉体を持つ男が現れる。右手には黄金のトライデントを持ち、黒いブーメランパンツと赤いマントがよく目立つ。だが、その頭部だけが場違いなものだった。
「我が名はサハギンエンペラー。サハギンの頂点である!」
そう、頭部はサハギンと変わりなく、青い金魚の姿をしている。
「ぶひゃひゃ! 顔だけサハギンって爆笑なんだな! ぶひゃひゃ!」
「貴様! 許さぬ!」
奥平はサハギンエンペラーを見て腹を抱ええて笑はじめ、対するサハギンエンペラーは当然怒りをあらわにしている。そんな二人の頭上に、十秒のカウントダウンが開始された。
10.9.8.7.6.5.4.3.2.1.0
「マジックショ――「ぬぅんッ!」――ぶぎゃ!?」
奥平がマジックショットを発動しようとした瞬間、サハギンエンペラーが重そうな黄金のトライデントを振り上げ、奥平の頭上から一気に叩き潰した。
「お、奥平さぁああああああああん!!」
「呆気なかったさね……」
「あのサハギンエンペラー、強いな」
動きは一度しかみれなかったが、第二試練で戦ったオーガよりも強そうに見える。真剣勝負ということもあり、今戦えば俺も負けたかもしれない。
ある意味、奥平が先鋒で助かったな。
少しすると、奥平の体はその場から消え去り、俺たちの近くで復活した。どうやら奥平の固有スキルとは関係なく、試合に負けても生き返ることができるらしい。
「ぶひゅぅ。あんなの勝てるはずないんだなぁ……」
「あんたが出たのは無駄ではないさね。さて、次はあたしゃの番だよ! 奥平が負けたからあたしゃは負けられないさね!」
「キャサリンさん! 頑張ってください!」
そうして、次にキャサリンが中堅として中央に転移する。その相手は、緑色のサハギンだった。
「あれはサハギンエリートなんだな!」
奥平がすぐさま敵の名称を知らせてくれる。どうやら、サハギンエリートというらしい。見た目は、先ほどのサハギンエンペラーとは違い、普通に緑色のサハギンだ。
「あんた強そうだね」
「……ギョ」
サハギンエリートは見た目こそ緑色のサハギンだが、その槍の構えには隙が無く、武人を彷彿とさせた。
「悪いけど、後が無いから負けられないさね。行くよ!」
「ギョ!」
キャサリンは言葉と共に前進し、サハギンエリートも動き出す。
「デルタアタックさね!」
「ギョッ!」
得意のデルタアタックを放つキャサリンに対し、サハギンエリートは水の壁を生成して攻撃をやり過ごした。
「あんたやるさね!」
「……ギョ」
デルタアタックを無効化したサハギンエリートは、そのままキャサリンに肉薄して槍で突く。狙うのはやはり、防御の薄そうなビキニアーマーに守られていない腹部だった。しかし、キャサリンのビキニアーマーは普通じゃない。守られていない部分にも、その防御力は適応される。
「今さね! デルタアタック!」
「ギョ!?」
槍が効かなかったことに驚愕するサハギンエリートだが、キャサリンの繰り出すデルタアタックにそれでも対応してなんとか回避してしまう。
あのサハギン、強いな。オーガよりはもちろん弱いが、それでもオークと比べれば確実に格上だ。
「不味いんだな。キャサリン押されているんだな」
「キャサリンさん……」
二人が心配する中、キャサリンは徐々にサハギンエリートに押され始める。現状は何とかビキニアーマーと鉄の盾の守りで凌いでいるが、それも時間の問題に見えた。
「これは、流石にまずいさね。あたしゃもこれだけは使いたくなかったけど、そうも言っていられないね……」
「ギョ?」
キャサリンはどこか諦めたように溜息を吐くと、唐突に声を上げる。
「ビキニアーマー、セクシーモードさね!」
「ギョギョ!?」
その瞬間、キャサリンのビキニアーマーに変化が訪れた。まずパンツがTバックになり。ブラの部分の面積が狭まっていく。元から強烈だったキャサリンの見た目が、更に増した。
「おげぇ!? いったい誰得なんだな!? 四十代の太ったおばさんのセクシー水着防具なんて地獄絵図なんだな!? ラノベだったら読者が消えるレベルの暴挙なんだな!!」
奥平の意見は散々だったが、間違っていないのも確かであり、俺でもあの姿は見たくはない。
だが、等のキャサリンは真剣なのか、奥平言葉に耳を貸さず、戦闘に集中しているようだった。
「くらいな! デルタアタック!」
「ギョ!?」
先ほどは何度も無効化されたデルタアタックだったが、セクシービキニアーマーになったからなのか、威力と速度が段違いになっており、サハギンエリートでも対処しきることができないようだ。
凄いな。キャサリン自身の能力値が全て上昇している。あれなら、俺ともいい勝負が出来そうだ。
「キャサリンさん頑張れー!」
そんな中、一人姫紀だけは真剣にキャサリンを応援している。その声援の効果なのか、キャサリンの動きが若干良くなった気がした。
「止めだよ! 連続デルタアタックさね!」
キャサリンの目の前に描かれるデルタアタックの三角形が二枚重なり、赤い六芒星となる。それがサハギンエリートへと見事叩きこまれた。
「……ギョフ」
そして到頭、キャサリンは強敵だったサハギンエリートを撃破する。
「す、凄いんだな!」
「ああ、まさかあんな隠し技を持っていたとはな」
「キャサリンさんかっこ良かったです!」
俺たちは戻ってくるキャサリンの活躍を絶賛した。そうして戻ってきたキャサリンのビキニアーマーは、どうやら元に戻っているようであり、時間制限などがあるのか、それとも任意で解除したかは分からなかった。
「あの姿だけは、もう勘弁さね。それと奥平、あんたが言った言葉は忘れないからね!」
「ぶひゃ!? あ、あれはジョークなんだな! きっとあの姿を見れば、みんな大喜びなんだな!」
キャサリンと奥平が騒ぎ出すが、その間に俺の出番が回ってくる。
さて、俺の相手はどいつだ? まあ、何となく予想がついているが。
そして俺が部屋の中央に転移すると、敵が現れる。
「ギョギョ!」
「そうなるよな……」
出てきたのは、普通のサハギンだった。試合は特に何もなく、一瞬で終わった。
「ギョエーッ!?」
こうして、二つ目の大部屋も無事に乗り越える。
「これでクリアなんだな!」
「これならルインが中堅でも良かったさね」
「僕も今度は役に立って見せます!」
「ああ、そうだな……」
本当に、俺が先に出ればよかった。まあ、今更仕方がないか。
俺は心の中で溜息を吐きながら、パーティメンバーと共に大部屋を出た。
さて、次は回廊の北エリアだ。生贄もまた何とかなるだろう。
コメントを残す