034 最初の生贄ポイント

「デルタアタックさね!」
「マジックショットなんだな!」

「ギョエーッ!?」

 大部屋を出て西側の回廊に着くと、キャサリンと奥平が率先して戦闘を行っている。

 まあ、先ほど消耗しすぎたし、戦闘に参加できないのは仕方がないか。

 俺は現在、最後尾を歩いて背後を警戒する役割を熟している。といっても、前方から相変わらずサハギンが襲って来るだけなので、実質休憩をしているようなものだった。

 今の内に、スキルを変更しておくか。

 後方に警戒をしつつも、俺はスマホを取り出し、スキルを並び変える。流石にクリスタルブレスをセットしたままでは、もしもの時に小回りが利かない。

 スキルはこんなものでいいか。

「ぶひゃひゃ! 僕ちん最強なんだな!」
「サハギンはもう敵ではないさね!」
「お二人ともお疲れ様です!」

 すると、キャサリンと奥平が戦闘を終えたのか、喜びの声を上げていた。

 思ったよりも、二人の戦闘は安定しているようだな。これなら、俺が出なくても何とかなりそうだ。

 そう思った直後だった。

「ウォッ!」

 そこに、赤色のサハギンが現れる。どことなく、普通のサハギンよりも動きが軽やかだ。

「あ、あれはサハギンリーダーなんだな!」

 単独で出てきたが、ここは俺が戦うべきか?

 そう思って俺が一歩出た時だった。

「ルイン。あんたは下がってな。ここはあたしゃらだけで戦うさね」
「そ、そうなんだな! 何でもかんでもルインたんに頼る訳にはいかないんだな!」
「ぼ、僕もお二人を支援します!」

 どうやら、俺抜きで戦うようだ。少々不安に感じるが、ここは信じて見るべきだろう。確かに、俺におんぶに抱っこで勝ち進んで行くのは違うしな。

「ああ、分かった。俺は見ているよ。だが、もしもの時は手を出すからな」

 そうして、三人はサハギンリーダーと対峙する。

「ウオッォ!」

 まず先に動いたのは、サハギンリーダーだ。サハギンとは違い、しっかり槍を使う知能はあるようで、槍を前に突き出しながら駆けてくる。

 サハギンリーダーというだけあって、サハギンより頭は良さそうだな。だが、所詮はサハギンか。

「マジックショットなんだな!」
「ウェオ!?」

 奥平のマジックショットをもろに喰らい、サハギンリーダーが体勢を崩す。

「聖なる光りよ! キャサリンさんに力を与えて!」
「行くさね! デルタアタック!」

 そして、隙だらけのサハギンリーダーに、姫紀の補助魔法を受けたキャサリンがデルタアタックを叩きこむ。

「ウェオーッ!?」

 思ったより弱かったな。

 サハギンリーダーは、呆気なく倒れ消え去っていく。

「や、やったんだな!」
「ふん、あまり普通のサハギンと変わらなかったさね!」
「やりましたね!」

 しかし、俺無しで特殊な個体に勝てたことが嬉しいのか、三人は盛り上がっていた。

 サハギンリーダーは、あれでも普通のサハギンより強いはずだ。だがそれ以上に、三人の連携とダメージが大きかったのだろう。

 俺はそう結論付けた。

 その後は、特に変わったことは無い。強いて上げれば、サハギンリーダーがサハギンを引き連れて現れたことだろうか。しかし、それでも三人は難なく撃破することができた。そして、到頭俺たちは辿り着く。

「こ、これが生贄ポイントさね」
「ぶひゅぅ……分かっているけど、何だか怖くなってきたんだな」
「禍々しいですね……」

 俺たちの目の前には、黒い十字架が赤い魔法陣の上に高々と立っている。その後ろには、巨大な門があり、閂がかけられていた。

 生贄を捧げないと、先へは進めないということだよな。無理ならば、横にあるリタイアポイントから出ろというわけだろう。

 黒い十字架の横には、リタイアするための青い魔法陣が見える。全員で乗れば、おそらくリタイアできると理解した。

 だが、俺たちの生贄は既に決まっている。

「奥平。済まないが頼むぞ」
「わ、分かったんだな。ぼ、僕ちん。や、約束は果たすんだな」

 奥平はやはり恐怖を感じているのか、言葉が普段よりもどもり気味だ。

「お、奥平さん……」
「分かっていても、何だかかわいそうさね……」

 キャサリンと姫紀も、仲間を生贄に捧げなければいけないことに対して、心を痛めているようだった。だが、先に進むためには必要なことであり、生贄は避けられない。

「ぼ、僕ちんの男気、みているんだなぁ!」

 覚悟を決めたのか、奥平が黒い十字架の前に立つ。すると、奥平の体と黒い十字架が光り、いつの間にか奥平が磔にされていた。そして十秒ほど経つと、生贄が実行される。

「ぶひゃぁあああああ!!??」

 黒い十字架かの根元から、黒い炎が舞い上がり、奥平を焼き始めた。

「奥平さあああああん!!」
「くっ、見ていられないさね!」

 奥平は悲痛の声を上げながら、その身を焼かれていく。それを、俺たちはただ見ていることしかできなかった。

 これは、なんか違うな。嬉しくもなんともない。

 快楽殺人者サイコキラーである俺だったが、仲間がやられる姿に、喜びを感じることは無かった。逆に、やるせない気持ちが込み上げてくる。

「あ、あっ、奥平さん……」
「あんたは凄い立派だったさね」

 そして、永遠にも感じられた時間が過ぎ去り、奥平は光りの粒子となって消え去った。すると、生贄が完了したことで、その後ろの門の閂が無くなり、開いていく。

 この試練は、今までの試練の中で最も悪辣じゃないか。

 生贄の瞬間を目にしたことで、益々そう思うようになる。これで、次の生贄になりたいという奴は普通いるはずがない。即席パーティーであれば、途中リタイアするか、醜く争う者が大半ではないかと思ってしまう。

「奥平が復活するまで、待つことにするぞ」
「分かったさね」
「はい……」

 どこか傷心気味の二人にそう声をかけると、俺たちは奥平が固有スキルで復活すまでの間、無言で待ち続けた。
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「僕ちん! 復活なんだな!」

 五分ほどして、無事に奥平が元気よく復活を果たす。そこに生贄にされたことによる精神的な影響はみられない。

「あ、あんた大丈夫なのかい!?」
「む、無理しなくてもいいですよ!」
「そうだ。何なら少し休憩を取るべきだ」

 当然、奥平が無理をしていると思った俺たちは、奥平にそう声をかける。しかし、等の奥平はというと。

「ぶひゅひゅ! ルインたんと姫紀たんに心配されて僕ちん幸せなんだな! でも、心配いらないんだな! 何故なら、僕ちんほとんど痛みを感じていないんだな!」
「へ?」
「どういうことだい!?」

 奥平は何ともないと、笑いながらそのことを説明し始める。

「僕ちんの固有スキル残機には、他にも効果があるんだな。その一つが、痛みをほとんどカットするというものなんだな! 前に矢に脳天貫かれても、蚊に刺された程度だったんだな! でも、恐怖と驚きで、どうしても声は出てしまうんだな!」

 奥平の固有スキルには、そんな効果もあったらしい。

 どおりで、火炙りにされたのにもかかわらず、ピンピンしているわけだ。けど、恐怖自体は本物だろうし、あまり無理はさせられないな。

「はぁ、あんたが何ともなければそれでいいさね」
「奥平さんが無事で良かったです」
「ぶひゃひゃ! 僕ちんは無敵なんだな!」

 そうして、俺たちは最初の生贄ポイントを無事に乗り切ることに成功をした。

 これで残りの生贄はポイントはあと二つか。生贄は奥平のおかげでどうにかなりそうだが、問題は大部屋だな。これに関してはあと三つもある。簡単にはクリアできないだろう。

 大部屋に対する不安を覚えながらも、俺たちは門を通り、先へと進んだ。


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