サハギンが度々現れる以外に、特に変わったことは無い。順調に回廊を進んでいる。
今のところ問題は無さそうだが、そろそろ大部屋に着きそうだ。いったい、どんな試練が与えられるんだ?
真っすぐと続く回廊の奥には、大部屋らしき扉が離れた場所からでも確認できた。扉は巨大な木造であり、その奥に何が待ち構えているのかと、パーティメンバーの不安を煽っているように見える。
「もうすぐ、大部屋の前に着くぞ」
「ボス戦の予感なんだな!」
「今回は活躍してみせるさね!」
「補助は任せてください!」
だが、これまでの試練を超えてきたことで、パーティメンバーは扉の迫力に負けることなく、やる気に満ちていた。
これなら、大丈夫そうだな。さて、鬼が出るか蛇が出るか。
そうして俺たちが扉の前に辿り着くと、それを待っていたかのように、ゆっくりと音を立てて扉が開いていく。その奥は予想をさせないためなのか、真っ暗で何も見えなくなっている。
「行くぞ!」
俺は一声かけて、最初の一歩を踏み出した。それに、パーティメンバーが続く。
「ぎぎょぎょ」「ギョエーッ」「ギョエエ?」「ギョウ」「ギョギョギョ」「ギョイ」「ウオッ」「ギョイギョ」「ギョイ」「ギョギョギョ」「ギョッギョ」「ギョエーッ」
「あれは……」
「サハギンがいっぱいなんだな」
扉をくぐると、そこは長方形をした洞窟であり、入り口と出口の間には、深さ約三メートルはある堀のようになっている。そこに、サハギンが数十匹待ち構えていた。
「見てください! 横から水が出ています!」
「これは、早く出口に行かないとまずさね!」
更に、早くゴールしなければ水死は免れないと言わんばかりに、均等に並べられた天井付近の横穴から、ちょろちょろと水が湧き出ている。
これは急がないとまずいな。だがしかし、正攻法で行ってもあの数だ。結構ぎりぎりになる可能性が高い。それに、雑魚とはいってもあれだけいれば、ダメージは避けられないな。特にサハギンは槍を持っているし、不意を突かれるかもしれない。
俺はこの状況をどう打開するべきか、瞬時に頭を回転させて考える。正攻法ではゴール出来ても、消耗は避けられない。時間をかければ水位が上がり、見るからに水生生物であるサハギンの脅威が上昇する可能性があった。
だとすれば、一気に殲滅するしか方法は無いか。
その答えに辿り着くと、俺は行動に移すことにした。
「時間との勝負だが、一つ良い方法がある。協力してくれないか?」
「分かったんだな! 僕ちんはルインたんにもちろん協力するんだな!」
「あたしゃは何をすればいいさね?」
「ぼ、僕もご協力します!」
俺がそうパーティメンバーに問いかけると、迷いなく協力を申し出てくれる。そのことに、何だか俺は若干うれしくなりつつも、作戦を説明した。
「やることは簡単だ。俺のクリスタルブレスでサハギンを一気に殲滅する。そのために、まず姫紀は俺に補助魔法をかけてくれ。キャサリンは俺が万が一反動で吹っ飛ばないように後ろから支えてほしい。最後に奥平は、サハギンが何かしてこないか見張っていてくれ」
そう説明すると、三人は頷いて早速行動に移す。まずは姫紀が補助魔法をかけるために集中を始める。
この状況でスマホを操作するのを怪しまれるかもしれないが、仕方がないか。
クリスタルブレスは控えに回しているので、装着するためにはスマホで操作する必要があった。怪しまれることを承知で、俺はスキルを入れ替える。
「ルインたん、何をしてるんだな?」
すると案の定、奥平が不思議そうに声をかけてきた。それに対して俺は。
「ああ、実はクリスタルブレスは、チュートリアルで出てきたクリスタルドラゴンから生き残り、なおかつ一撃を与えたらナビ子が気に入ったとか言ってくれたスキルなんだ。ただCPが異常に多くて扱い辛さもあるから、普段は他に運良く手に入れたスキルをセットしているんだ」
そんな風に、真実にある程度の嘘を交えて説明をする。知られて一番困るのはラーニングであり、それさえ死守すれば、ある程度の事実は話した方がいいと判断をした。ここで話した真実は、クリスタルブレスが固有スキルではないこと、CPが高いこと、そして他にもスキルを持っていることだ。
下手に嘘をついて、違和感を持たれるよりはましだろう。
「す、凄いんだな! あのチュートリアルに出てきたクリスタルドラゴンはヤバかったんだな! 僕ちんは残機の固有スキルで復活できたけど、スキルは貰えなかったんだな!」
どうやら、奥平はそれで納得してくれたらしい。それと、何気に復活の固有スキルの正式名称は、残機ということを知れた。
なんとか誤魔化せたか。これで、俺がスマホを操作しているのも説明が付くはずだ。
そうして、無事にスキルを入れ替えることに成功する。
「聖なる光りよ! ルインさんに力を与えて!」
姫紀の準備も完了し、補助魔法の光りが俺へと降り注ぐ。十分に時間をかけたからか、いつもよりも身体に力がみなぎってきた。
「よし、準備完了だ。キャサリン、頼むぞ」
「あいさね!」
俺がクリスタルブレスの反動で飛ばされないよう、キャサリンが俺の後ろから支えてくれる。
「それじゃあ、行くぞ! クリスタルブレス!」
そして、突き出された両手の平から、全力のクリスタルブレスが発動された。直線上に進んでいく大小さまざまな鋭いクリスタルが、サハギンたちを飲み込んでいく。
「ギョエーッ!」「ギョエーッ!」「ギョエーッ!」「ギョエーッ!」「ギョエーッ!」「ギョエーッ!」「ギョエーッ!」「ギョエーッ!」「ギョエーッ!」「ギョエーッ!」「ギョエーッ!」「ギョエーッ!」「ギョエーッ!」「ウェオーッ!」「ギョエーッ!」「ギョエーッ!」「ギョエーッ!」「ギョエーッ!」「ギョエーッ!」「ギョエーッ!」
「す、凄いさね……」
「わぁ……」
「圧倒的じゃないか、ルインたんは! なんだな!」
クリスタルの彫刻と化すサハギンたちは、死する最後に叫び声を上げていく。その光景が何とも心地よく感じた。
「はぁ、はぁ、はぁ、終わったぞ」
見渡す限り、全てのサハギンがクリスタルブレスによって息絶えている。流石に疲労感を隠せない俺は、息も絶え絶えにそう呟く。
「それじゃあ、今の内にゴールを目指すさね!」
「邪魔な彫刻は排除するんだな!」
「ルインさん、お疲れ様です。肩を貸します」
「ああ、助かる」
そうして、階段から堀に降りると、キャサリンと奥平は邪魔なクリスタルの彫刻と化したサハギンたちを壊していく。その後ろを、俺と姫紀が進んだ。
流石に、体力を消耗しすぎたかもしれない。だが、俺一人の消耗で抑えられたとも言えるか。
この方法で良かったのか、それとも正攻法で行く方が良かったのか、正しい方は分からない。だが、犠牲無く進めたのは事実だった。
よくよく考えたら、この第四試練では生贄を捧げる以上、途中で誰かがやられる訳には行かないんだよな。まあ、奥平が復活するから問題ないとも言えるが、他の仲間がやられるとクリアできる確率が減少する気がするし、これで良かったはずだ。
自分にそう言い聞かせて、俺たちは最初の大部屋を無事に突破した。ちなみに、大部屋のゴールも入り口と同じように巨大な扉になっており、その先は真っ暗で何も見えないのは同じだ。
次は、到頭最初の生贄ポイントがある西側か。
奥平が引き受けてくれることが決まっているとはいえ、本来は悪辣すぎる内容だ。誰しも、生贄にはなりたくはない。
第二試練のオーガと似たような状況だが、それ以上だよな。オーガの前で一人足止めをしても、生き残る可能性は僅かでもあるが、生贄にはそれが無い。即席パーティには厳しすぎる状況だ。
仮に、誰かを無理やり生贄にしたとなれば、次は自分かもしれないと、内側から崩壊していくことは免れない。そんな状況では、試練の突破などまず不可能だ。
俺たちは、その点恵まれている。パーティメンバー同士の関係も悪くはない。第四試練も、必ずクリアできるはずだ。
自信をもって、俺はそう言えた。
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