「僕ちんの最強伝説の始まりなんだなぁ!!」
待合室に戻ってくると早々、奥平がどや顔で自画自賛をし始めた。
確かに最後役に立ったのは認めるが、目の前のこいつを見ていると、何だか釈然としないな……。
「あんたが凄いのは分かったよ。けれど、少しは落ち着きな!」
「ぶひゅ!?」
キャサリンに叱られて、奥平はようやく落ち着きを取り戻した。
「あ、あの、奥平さんって凄い力を持っているんですね! 僕、おどきました!」
「流石姫紀たん。僕ちんの凄さが分かったようだね。ぶひゅひゅ。僕ちんは、寿命の数だけ復活できるんだなぁ! しかも、一か月たつと残機が補充される。まさに無敵なんだな!」
「す、凄いです!」
自慢げに自らの固有能力について説明しだした奥平に、俺は驚きを隠せない。手の内を喋りだしたこともそうだが、その出鱈目な効果についてもだ。
「本当に凄いさね……」
「俺もそう思う」
これまで会ったプレイヤーの中で、一番ヤバい固有スキルじゃないのか? 現状分かる限りだと、先ほどの試練の時はやられてもおよそ五分で復活していた。更に、復活直後は五秒ほど半透明の無敵状態になる。かなり凶悪だ。
それが奥平の言った通り寿命の数だけ生き返ることができ、減った分も毎月補充されると考えれば、最強候補の固有スキルだろう。
「まぁその代わり、一年で五年寿命が縮まるデメリットがあるんだなぁ」
「……」
「……」
「……」
先ほどの勢いが嘘のような奥平の呟きに、皆が言葉を失った。
「だ、大丈夫ですよ! 寿命は増やせる機会があるって噂ですし、なんとかなりますよ!」
「そ、そうさね。その力があれば寿命をきっと増やせるさね!」
「このイベントの報酬で寿命を延ばせる可能性もきっとあるはずだ」
思わず、俺も含めた三人で奥平を励ます。
「う、うう。ルインたん、姫紀たん。それとついでにキャサリン。ありがとうなんだなぁ!」
何だかしみじみとした空気になったが、試練はまだ終わってはいない。俺たちは五分ほど待合室で休憩してから、次の試練へと進むことにした。
装着するスキルは、元に戻しておこう。クリスタルブレスは強力だが、それだけに隙が多すぎるし、多用出来ない。
そうして、皆がそれぞれ準備を完了すると、スマホからイベント専用アプリを立ち上げ、次の試練に進む。スロットマシンのように回転する画面にストップをかけると、ゆっくりと動きを止めて、次の試練が選ばれた。
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第二の試練『勇気の吊り橋』
どこまでも続く先の見えない吊り橋を渡り切ろう!
道中にいくつもの敵が立ちはだかるぞ!
吊り橋から落ちたらまず助からないから気を付けよう!
全滅したら失敗だぞ! この試練で稼いだEP没収に加え、二時間の待機命令が出されるよ!
渡り切ったらクリア!
倒した敵によってボーナスが加算されるぞ!
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第二試練は、俺好みの戦闘系のようだ。
俺は内容に満足しながら、次の試練が行われる場所へと転移した。
◆
「ひえっ、た、高いですね……」
転移早々、俺たちの目の前には、どこまでも下に続く崖の底と、横幅役五メートルはありそうな巨大な吊り橋が広がっている。底の見えない高さに、姫紀が思わずそんなこと声に出した。
「ぎゅふふ、第二試練も僕ちんの力で楽勝なんだな!」
「戦闘ならあたしゃにまかせな!」
そんな姫紀とは対照的に、奥平とキャサリンはやる気満々だ。俺も、同様に試練に対して高揚している。
ようやく、敵と戦えるな。どんな敵が出てくるのか、今から楽しみだ。
「どこまで続いているのか分からない以上。できるだけ急いで先に進もう。案外、他のチームとやらは短時間で終わる試練かもしれないからな」
「了解さね」
「わかったんだな!」
「はい!」
俺はパーティメンバーに声をかけると、皆それぞれ武器を抜く。相変わらず俺とキャサリン以外は初期装備の棍棒だが、無いよりはましだ。
よし、行くか。
そうして、俺が前に出て最初の一歩を踏み出す。吊り橋は木製であり、踏み込むと僅かに軋む音がした。
おいおい、これって場合によっては壊れる可能性があるんじゃないのか?
だが、そうだとしても進むしかない。俺はそのまま先へと足を動かす。それに続きパーティメンバーもついてくる。
「ひぃっ!? こ、これ、大丈夫なのでしょうか?」
「ぼ、ぼくちん少しぽっちゃりだから心配なんだなぁ」
「あ、あたしゃもこれが終わったら、少しダイエットした方がよさそうさね」
四人が吊り橋に乗ると、軋む音が大きくなった。
本当に壊れないか心配になってきたな……。
その不安から、急ぐ予定にもかかわらず、その足取りは遅くなってしまう。
くそ、横風も強いな。吊り橋が揺れている気がするぞ。
更に、恐怖を煽るかのように、強風が吹き荒れていた。
「ぎゃぎゃっ」
「ギギィッ!」
するとしばらくして、何やら前方から声が聞こえてくる。霧で見えなかったが、何やら生き物がいるようだった。
「むむむ! 霧の向こうにゴブリンが二匹いるんだな!」
「え!?」
「この状況でよく見えたな」
「僕ちんのモンスター眼鏡の効果なんだな!」
どうやら、奥平の丸眼鏡は特殊なアイテムだったらしい。
「せ、戦闘かい? あ、あたしゃが行くよ!」
吊り橋に少し慣れてきたのか、キャサリンが戦うと名乗りを上げる。
「なら、俺も行こう。奥平は姫紀を守ってくれ」
「る、ルインたんが僕ちんにため口を! ぶひゅひゅ! これは心の距離が近づいてきた証拠なんだな! 僕ちん、ルインたんのために姫紀たんの騎士になるんだな!」
「お、おねがいします」
ついため口を使ってしまったことで、奥平が何やら言っているが、今は気にしないことにした。
「ぎぎぃ!?」
「ぎゃっぎゃっ!」
そしてようやく霧の向こうから、緑色の醜い短身長のゴブリンたちが見え、向こうもこちらの存在に気が付く。
「い、行くさね!」
「ああ、ッ――!?」
俺とキャサリンがゴブリンに突貫しようとした時だった。ゴブリンがこちらに目もくれず、それぞれ左右の吊り橋の縄に飛び乗って縄を齧り始める。
「あ、あいつら縄を噛んでいるんだなッ!」
「ま、まずいよ! どうしよう!」
くそっ!
直ぐにどうにかなるとは思えなかったが、俺たちの心は大きく揺さぶられた。縄が切れてしまったらそれをきっかけに、橋が落ちてしまうのではないかと。
ウインドスラッシュを使うか? いや、それで縄が切れたら本末転倒だ。
俺はレイディアスからラーニングしたウインドスラッシュの効果を思い出す。
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名称:ウインドスラッシュ
CP:20
【説明】
一部の武器限定。
発動方向に風の刃を放つ。
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その効果は、発動方向に風の刃を飛ばす遠というシンプルなものではあるが、未だ使用したことが無く、遠距離から狙いが定まるとは思えなかった。
ゴブリンが縄を噛み切る前に、急いで仕留めるしかない。
俺はそう判断すると、その場から全力疾走でゴブリンに迫る。キャサリンは速くは走れないようで、俺に追いつけない。
「ぎぎ!?」
遠距離からは無理だが、至近距離ならば外さないはず! まずは一匹目ッ!
「ウインドスラッシュ!」
遠距離では自信は無かったが、至近距離であれば外すことは無い。発動した緑色の三日月状の刃が、ゴブリンの首をはねて後方に飛んでいく。死体はそのまま糸が切れたように、橋の下の奈落へと落ちていった。
「ぎぎゃッ!?」
残されたもう一匹のゴブリンがそれに気が付き騒ぎ出すが、同じように至近距離からウインドスラッシュを放って仕留めた。
「ふぅ」
一瞬焦ったが、何とかなったな。しかし、出来れば一撃ではなく甚振りたかったが、仕方がないか。
「ルイン。あんた流石さね!」
ようやく追いついてきたかキャサリンがそう感心の声を上げた。
「す、すごかったです!」
「ルインたんつよつよなんだなぁ!」
奥平と姫紀もそう言って合流する。
「いや、今回はどうにかなったが、次はどうなるか分からないぞ。それに、これで敵がどんな行動を取るか何となく分かったしまったしな」
「あっ、橋を落とそうとしてくるってことですよね……」
「その通りだ。もし仮に橋が落とされたら、全員奈落の底に真っ逆さまだ」
つまり、その瞬間試練は失敗ということになる。
「それは……少々まずそうさね」
「僕ちんも流石に空は飛べないんだなぁ」
またもや純粋な戦闘では無いことに俺は苛立ちを覚えてしまうが、そう考えたところでどうにもならない。
どこまでこの吊り橋が続いているのか不明だが、いずれにしても、途中で橋を簡単に落とす何かがあっても可笑しくはないな。
第一の試練の嫌らしさを思い出せば、それが無いとは考えられなかった。
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