「場合によっては、敵を倒すよりも先に吊り橋の死守を優先する必要がある」
「確かにそうですね。落ちちゃったら終わりなわけですし」
むしろ、敵よりも吊り橋の死守をメインにしてもいいくらいだ。
「むむむ、僕ちんの火魔法イターラじゃ吊り橋の縄を燃やしてしまうかもしれないんだなぁ」
「あたしゃは縄を斬らないように注意すれば何とかなりそうさね」
やはり最も注意すべきなのは、吊り橋を死守しようとして、逆に自分で吊り橋の縄をダメにしてしまうことだろう。
こちらはそうした注意を払わなければいけないが、敵は好き勝手出来るわけだ。どう考えても、こちらが不利だな。
「俺とキャサリンさんは戦闘に問題なさそうだが、二人は戦闘手段を他に持っているか?」
第一試練を見る限り、俺とキャサリンは戦闘に関しては問題ない。奥平はイターラという火魔法を使っていたが、ここでは使いづらい。そして姫紀に関しては、攻撃系スキルを所持しているかどうかすら不明だ。
「ぼ、僕ちん、他に戦闘で使えそうなのは、手の平から水を勢いよく出すくらいしかできないんだなぁ」
「ご、ごめんなさい。僕補助魔法しか出来ません」
どうやら、二人に戦闘を期待することは出来なそうだった。
「そうか。なら基本的にはさっきのフォーメーションでいくか。俺とキャサリンさんで攻撃して、姫紀は出来そうなら補助魔法を使う。そして奥平はその護衛だ」
「わかりました!」
「了解さね!」
「ぶひゅひゅ! 僕ちん姫紀たんを守るんだなぁ!」
そうして、俺たちはそれぞれの役割を決めると、再びゴールを目指して吊り橋を進み始めた。
◆
それから何度かゴブリンが現れたが、問題なく処理している。意外だったのは、吊り橋を落とそうとしてくるのは三回に一度ほどであり、攻撃的に向かってくる方が多かった。
逆に面倒だな。いつ吊り橋を攻撃してくるのか分からない以上、常に神経をとがらせる必要がある。
「また普通に攻撃してきましたね」
「しょせんはゴブリンなんだなぁ!」
しかし、それでも相手はゴブリン数匹ということもあり、次第に慣れていった。
こういう時程、気を付けるべきだよな。俺が制作者なら、そろそろ何か仕掛けようと考えるが。
そう思った時だった。前方に新たな敵が現れる。
「むむむ! あれはオークですぞ! オークは性欲が強いゆえに、ルインたんと姫紀たんは気を付けるんだな!」
「そりゃ、あたしゃも気をつけなきゃいけないさね!」
「キャサリンのくっころとか地獄絵図なんだなぁ」
「あ“? 何か言ったかい?」
「じょ、冗談なんだな」
どこか楽観視しているのか、二人は軽口をたたいている。だが、目の前のオークの数は三匹であり、俺とキャサリンが戦闘を熟す関係上、オークを倒すのは簡単にいきそうにはない。
「ふざけている場合じゃないぞ。俺とキャサリンさんで一匹ずつ仕留めるから、残り一匹が向かってきたら奥平が足止めするんだぞ?」
「ぶひゃッ!? な、何とか頑張るんだな!」
とは言ったものの、奥平がオークの足止めをできるとは思ってはいない。クエストで戦ったことのある俺にはそれが理解できた。
これは、何とか俺が二匹を足止めしつつ、キャサリンが先に倒してくれるのを待った方がいいな。
「行くぞ」
「あいさね!」
俺とキャサリンは、オークに向かって駆けだした。
「ぶぎぃ!」
「ぶぎゃぎゃ!!」
「ぶふぅ!」
何だか奥平みたいな鳴き声だな……。まあ、今更か。誰もそのことについて触れないし。
そんなことを思いつつ、俺はまず一匹目のオークとのすれ違いざまに横腹を切り付け、その後方にいるもう一匹の前に姿を現す。
「ぴぎぃいいい!?」
「ぶぎゃ!?」
オークは重鈍で小回りはあまり効かない。その代わり、オークは厚い脂肪と筋力を持っている。その重い一撃を喰らわなければ、どうということは無かった。
「ウインドスラッシュ!」
「ブグッァ!?」
新近距離から首を狙ったその一撃は、身長差故に下から上に向けて斜めに放たれ、その首を飛ばす。
ん? 予想と違って楽に仕留められたな。
俺はそんなことを一瞬考えたが、オークを一匹倒すとそのまま身体を反転させ、未だ腹部の痛みに悶えているオークの背中を斬り裂く。
「ぴぎゃ!?」
流石にナイフで切っただけじゃ、倒せないか。だが、それでいい。キャサリンは慎重に戦っているようだし、大丈夫だろう。ここでウインドスラッシュを使って消耗するのは避けたい。
ウインドスラッシュは想像以上に強力だったが、その分コストのかかる技だった。試練が何時まで続くか分からない以上、節約できるときは節約する必要がある。
まあ、俺が楽しみたいというのもあるんだがな。
オークの悲痛の声に、俺の口角が上がる。
ああ、ダメだ。ここでヤバい奴だと、パーティメンバーにバレるわけにはいかない。
試練で信頼と連携が大切ということは、流石に気が付いている。そこで快楽殺人者という歪んだ性癖を知られる訳にはいかなかった。
もったいないけど、あまり遊ばずに仕留めるか。
そうして俺は、オークの首を執拗にナイフで狙い、呆気なく撃破する。
オークって、こんなに弱かったか?
終わってみれば、そんな感想が零れてしまう。レイディアスとの練習試合は、思った以上に効果があったようだった。
「デルタアタック!」
「ぴぎぃッ」
どうやら、キャサリンも丁度オークに勝ったようだな。何やらスキルを使ったようだが、残念ながら確認はできなかったか。
見た感じオークの身体には逆三角形の傷が出来上がっているので、それが関係しているのだろうと解釈した。
「ふう、初めて戦ったけど、オークっていうのは凄いタフさね」
そう言ってキャサリンが剣に付いた血を飛ばし鞘に納める。
「キャサリンさんお疲れ様です! それとルインさん凄かったです! あっという間にオークを二匹も倒すなんて!」
「ルインたん震えるほどかっこよかったんだなぁ」
やはりというべきか、二人は俺の戦いを見ていたらしい。
思った通りだ。悪い癖を我慢してよかった。もし見られていたら、関係にひびが入っていたかもしれない。
「丁度昨日オークを倒すクエストを受けたばかりだったから、動きが分かっていたのが大きい」
「それでも凄いさね。あたしゃは結構苦戦したよ。オークの攻撃が思ったよりも強力だったから焦ったさね」
それは相性の問題だと思うが、キャサリンには凄いことらしかった。
何はともあれ、これで先に進めるな。
オークの死体はそのまま光の粒子となり消え去る。ちなみにイベントだからか、今のところドロップアイテムは無い。
「出てくる敵にオークが現れた以上、今後はゴブリンだけの時よりも気を引き攻めていくぞ」
「あいさね」
「了解なんだな!」
「はい!」
全員の返事を聞くと、再び前進を始める。
「うう、僕、役に立っているのでしょうか?」
しばらく進んでいると、姫紀がなにやら深刻そうにそう呟いた。
「姫紀たんはそこにいるだけで役に立っているんだな」
「そうさね。あんたはもしもの時には必要不可欠さね」
「そうでしょうか?」
この第二試練が始まってから、姫紀は特にすることなくついて来ているだけだった。祈りの結界を発動しようにも、それより先に戦闘が終了してしまうのが実情だ。
「姫紀の補助は消耗が激しいし、この先強いモンスターがいる可能性もある。その時に使えなかった方がむしろ危険だ。だから必要のない戦闘で無理に使わない方がいい。温存するのも必要なことだから、気にしなくていいぞ」
「ルインさん……ありがとうございます」
そうだ。きっとこの先、吊り橋の最後には強い存在が待ち構えているに違いない。いったいどれほどの強さなのか、今から楽しみだ。
その時姫紀の力はきっと役に立つ。だから、今使わないのが正解だ。
そうして、俺たちが先へと進むと、吊り橋の中央に場違いなものが現れた。
「あ、あそこに宝箱があるんだな!」
「何であんなところにあるのでしょうか?」
それは、金色の縁で彩られた赤い豪華な宝箱。どう考えても罠にしか見えない。
「いや、罠じゃないのか?」
「そうさね。こんな橋の真ん中にあるなんて怪しいさね」
これは、試されているな。空けなければ問題ないが、もしかしたら役立つものが入っているのかもしれない。だが、空けた結果橋が崩落することも考えられる。
どうしたものかと考えていると、奥平が不意に宝箱に近づいた。
「僕ちん、こういう時は必ず空ける派なんだな!」
「あ」
「へ?」
「うそだろ……」
奥平が何のためらいもなく、目の前の宝箱を開いてしまった。
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