022 第二の試練『勇気の吊り橋』

「場合によっては、敵を倒すよりも先に吊り橋の死守を優先する必要がある」
「確かにそうですね。落ちちゃったら終わりなわけですし」

 むしろ、敵よりも吊り橋の死守をメインにしてもいいくらいだ。

「むむむ、僕ちんの火魔法イターラじゃ吊り橋の縄を燃やしてしまうかもしれないんだなぁ」
「あたしゃは縄を斬らないように注意すれば何とかなりそうさね」

 やはり最も注意すべきなのは、吊り橋を死守しようとして、逆に自分で吊り橋の縄をダメにしてしまうことだろう。

 こちらはそうした注意を払わなければいけないが、敵は好き勝手出来るわけだ。どう考えても、こちらが不利だな。

「俺とキャサリンさんは戦闘に問題なさそうだが、二人は戦闘手段を他に持っているか?」

 第一試練を見る限り、俺とキャサリンは戦闘に関しては問題ない。奥平はイターラという火魔法を使っていたが、ここでは使いづらい。そして姫紀に関しては、攻撃系スキルを所持しているかどうかすら不明だ。

「ぼ、僕ちん、他に戦闘で使えそうなのは、手の平から水を勢いよく出すくらいしかできないんだなぁ」
「ご、ごめんなさい。僕補助魔法しか出来ません」

 どうやら、二人に戦闘を期待することは出来なそうだった。

「そうか。なら基本的にはさっきのフォーメーションでいくか。俺とキャサリンさんで攻撃して、姫紀は出来そうなら補助魔法を使う。そして奥平はその護衛だ」
「わかりました!」
「了解さね!」
「ぶひゅひゅ! 僕ちん姫紀たんを守るんだなぁ!」

 そうして、俺たちはそれぞれの役割を決めると、再びゴールを目指して吊り橋を進み始めた。

 ◆

 それから何度かゴブリンが現れたが、問題なく処理している。意外だったのは、吊り橋を落とそうとしてくるのは三回に一度ほどであり、攻撃的に向かってくる方が多かった。

 逆に面倒だな。いつ吊り橋を攻撃してくるのか分からない以上、常に神経をとがらせる必要がある。

「また普通に攻撃してきましたね」
「しょせんはゴブリンなんだなぁ!」

 しかし、それでも相手はゴブリン数匹ということもあり、次第に慣れていった。

 こういう時程、気を付けるべきだよな。俺が制作者なら、そろそろ何か仕掛けようと考えるが。

 そう思った時だった。前方に新たな敵が現れる。

「むむむ! あれはオークですぞ! オークは性欲が強いゆえに、ルインたんと姫紀たんは気を付けるんだな!」
「そりゃ、あたしゃも気をつけなきゃいけないさね!」
「キャサリンのくっころとか地獄絵図なんだなぁ」
「あ“? 何か言ったかい?」
「じょ、冗談なんだな」

 どこか楽観視しているのか、二人は軽口をたたいている。だが、目の前のオークの数は三匹であり、俺とキャサリンが戦闘を熟す関係上、オークを倒すのは簡単にいきそうにはない。

「ふざけている場合じゃないぞ。俺とキャサリンさんで一匹ずつ仕留めるから、残り一匹が向かってきたら奥平が足止めするんだぞ?」
「ぶひゃッ!? な、何とか頑張るんだな!」

 とは言ったものの、奥平がオークの足止めをできるとは思ってはいない。クエストで戦ったことのある俺にはそれが理解できた。

 これは、何とか俺が二匹を足止めしつつ、キャサリンが先に倒してくれるのを待った方がいいな。

「行くぞ」
「あいさね!」

 俺とキャサリンは、オークに向かって駆けだした。

「ぶぎぃ!」
「ぶぎゃぎゃ!!」
「ぶふぅ!」

 何だか奥平みたいな鳴き声だな……。まあ、今更か。誰もそのことについて触れないし。

 そんなことを思いつつ、俺はまず一匹目のオークとのすれ違いざまに横腹を切り付け、その後方にいるもう一匹の前に姿を現す。

「ぴぎぃいいい!?」
「ぶぎゃ!?」

 オークは重鈍で小回りはあまり効かない。その代わり、オークは厚い脂肪と筋力を持っている。その重い一撃を喰らわなければ、どうということは無かった。

「ウインドスラッシュ!」
「ブグッァ!?」

 新近距離から首を狙ったその一撃は、身長差故に下から上に向けて斜めに放たれ、その首を飛ばす。

 ん? 予想と違って楽に仕留められたな。

 俺はそんなことを一瞬考えたが、オークを一匹倒すとそのまま身体を反転させ、未だ腹部の痛みに悶えているオークの背中を斬り裂く。

「ぴぎゃ!?」

 流石にナイフで切っただけじゃ、倒せないか。だが、それでいい。キャサリンは慎重に戦っているようだし、大丈夫だろう。ここでウインドスラッシュを使って消耗するのは避けたい。

 ウインドスラッシュは想像以上に強力だったが、その分コストのかかる技だった。試練が何時まで続くか分からない以上、節約できるときは節約する必要がある。

 まあ、俺が楽しみたいというのもあるんだがな。

 オークの悲痛の声に、俺の口角が上がる。

 ああ、ダメだ。ここでヤバい奴だと、パーティメンバーにバレるわけにはいかない。

 試練で信頼と連携が大切ということは、流石に気が付いている。そこで快楽殺人者サイコキラーという歪んだ性癖を知られる訳にはいかなかった。

 もったいないけど、あまり遊ばずに仕留めるか。

 そうして俺は、オークの首を執拗にナイフで狙い、呆気なく撃破する。

 オークって、こんなに弱かったか?

 終わってみれば、そんな感想が零れてしまう。レイディアスとの練習試合は、思った以上に効果があったようだった。

「デルタアタック!」
「ぴぎぃッ」

 どうやら、キャサリンも丁度オークに勝ったようだな。何やらスキルを使ったようだが、残念ながら確認はできなかったか。

 見た感じオークの身体には逆三角形の傷が出来上がっているので、それが関係しているのだろうと解釈した。

「ふう、初めて戦ったけど、オークっていうのは凄いタフさね」

 そう言ってキャサリンが剣に付いた血を飛ばし鞘に納める。

「キャサリンさんお疲れ様です! それとルインさん凄かったです! あっという間にオークを二匹も倒すなんて!」
「ルインたん震えるほどかっこよかったんだなぁ」

 やはりというべきか、二人は俺の戦いを見ていたらしい。
 
 思った通りだ。悪い癖を我慢してよかった。もし見られていたら、関係にひびが入っていたかもしれない。

「丁度昨日オークを倒すクエストを受けたばかりだったから、動きが分かっていたのが大きい」
「それでも凄いさね。あたしゃは結構苦戦したよ。オークの攻撃が思ったよりも強力だったから焦ったさね」

 それは相性の問題だと思うが、キャサリンには凄いことらしかった。

 何はともあれ、これで先に進めるな。

 オークの死体はそのまま光の粒子となり消え去る。ちなみにイベントだからか、今のところドロップアイテムは無い。

「出てくる敵にオークが現れた以上、今後はゴブリンだけの時よりも気を引き攻めていくぞ」
「あいさね」
「了解なんだな!」
「はい!」

 全員の返事を聞くと、再び前進を始める。

「うう、僕、役に立っているのでしょうか?」

 しばらく進んでいると、姫紀がなにやら深刻そうにそう呟いた。

「姫紀たんはそこにいるだけで役に立っているんだな」
「そうさね。あんたはもしもの時には必要不可欠さね」
「そうでしょうか?」

 この第二試練が始まってから、姫紀は特にすることなくついて来ているだけだった。祈りの結界を発動しようにも、それより先に戦闘が終了してしまうのが実情だ。

「姫紀の補助は消耗が激しいし、この先強いモンスターがいる可能性もある。その時に使えなかった方がむしろ危険だ。だから必要のない戦闘で無理に使わない方がいい。温存するのも必要なことだから、気にしなくていいぞ」
「ルインさん……ありがとうございます」

 そうだ。きっとこの先、吊り橋の最後には強い存在が待ち構えているに違いない。いったいどれほどの強さなのか、今から楽しみだ。

 その時姫紀の力はきっと役に立つ。だから、今使わないのが正解だ。

 そうして、俺たちが先へと進むと、吊り橋の中央に場違いなものが現れた。

「あ、あそこに宝箱があるんだな!」
「何であんなところにあるのでしょうか?」
 
 それは、金色の縁で彩られた赤い豪華な宝箱。どう考えても罠にしか見えない。

「いや、罠じゃないのか?」
「そうさね。こんな橋の真ん中にあるなんて怪しいさね」

 これは、試されているな。空けなければ問題ないが、もしかしたら役立つものが入っているのかもしれない。だが、空けた結果橋が崩落することも考えられる。

 どうしたものかと考えていると、奥平が不意に宝箱に近づいた。

「僕ちん、こういう時は必ず空ける派なんだな!」
「あ」
「へ?」
「うそだろ……」

 奥平が何のためらいもなく、目の前の宝箱を開いてしまった。


目次に戻る▶▶

ブックマーク
0

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA