015 ショップ再び

 ホームに戻ってくると、オークの返り血で真っ赤だった衣服の汚れが嘘のように無くなっていた。

 ふう、盗賊の討伐から帰還した時も思ったが、衣服や装備品がきれいになるのは助かるな。

 ブーツを脱ぎ六畳間に上がると、窓辺の椅子に腰かける。

 今回は儲かったな。

 チェインクエストをクリアーしたことにより、所持金は10,000メニ―を超えていた。

 これだけあれば、生活に最低限必要な物を買うことができそうだ。今日はある程度稼いだし、少ししたら買い物にでも行くか。

 そうと決まれば、俺は十分ほど休憩しつつ水分補給などを済ませて、再びホームから転移する。目的地は、もちろんショップだ。

 因みに、オークの魔石は二つとも棚に置いてきた。

 昼前には決闘騒動でまともに買い物できなかったし、今度こそ必要ものを購入しよう。

 ◆

 相変わらず広々としたエントランスホールに来ると、行き交う人々や談笑、歩行音が数多く聞こえてきた。

 ここは賑やかだな。だからこそ、面倒な奴も多いのだろうが。

 俺は巨大な案内板を眺め、行き先をあらかじめ決めておく。

 必要な物が足りなければその都度買えばいい。今は生活をするのに何もかも足りなすぎる。

 目的地を決めると、俺は淡々と道中何度かナンパをされつつも進んでいく。今回はチャラ男の時のような面倒を起こさないために、事前に男だと言って興味が無いと断った。

 むむ、なぜこうも頻繁に声を掛けられるんだ? やはりこの耳と尻尾が原因か? あとは少女のような容姿が関係しているのだろうが、こればかりはどうしようもないしな。

 度重なるナンパにイライラしつつも、俺は目的地の一つである100メニ―ショップに辿り着いた。

 へぇ、初心者プレイヤーに多少なりとも配慮しているんだな。

 商品棚を見て回ると、中には100メニ―以上しそうな物がいくつも並んでいた。

 これは買いだな。

 俺はスマホを呼び出すと、アプリにもあるショップの項目を選択して商品のバーコードを読み込む。すると、アプリ内のカゴに商品が追加された。

 今使ったショップのアプリは、当初ネット通販のように使うのかと思ったのだが、実際にはこうようにして商品の取引に使われるものだった。

 引きこもりは許さないってことだろうな。

 そんなことを思いつつも、俺は必要な雑貨をアプリで読み込み追加していく。

 とりあえずこんなものだろう。

 カゴに入れたのは、コップや皿、箸などの食器類、食器用洗剤、石鹸、雑巾、タオル、歯ブラシ、歯磨き粉、トイレットペーパー、ごみ箱、クッション、調味料、他にも役立つものを多数選んだ。

 無人レジに向かい、アプリの購入用バーコードを表示して読み込ませる。

 なるほど。ホームに送るか、選択してアイテムポケットに移動することができるのか。

 もちろん俺は全てホームに転送しておくことにした。支払いもスマホから自動で引かれる。

 ん、この世界には消費税が無いんだな。助かるが、ゲームだしそういうのはあまり関係ないのだろうか。

 なんとなくそんな事を思ったが、それ以上特になにも思わず、俺は続いていくつか目的の店を回っていく。

 思ったよりたくさんお金を使ってしまった……明日もたくさん稼ぐ必要があるな。

 それから無事にホームに戻ってくると、部屋の中央に段ボール箱がいくつか置かれていた。

 転送した商品は段ボール箱に包まれてくるのか。段ボール箱分得したな。

 ブーツを脱いで六畳間に上がると、ショップで購入してそのまま装備していた黒いフード付きローブを脱いで椅子にかける。因みに、このフード付きローブは帰りに見かけて思わず衝動買いしてしまった。

 このフード付きローブのおかげで、帰りはナンパされずに済んだ。これからは普段から身に着けていようと思う。

 そう思いつつ、俺は段ボール箱から商品を取り出して床に並べていく。

 うん、そうだな。まずは気になっていた家具をきれいにしよう。

 購入した中から雑巾を手に取り、蛇口で湿らせてから絞り、盗賊の小屋から持って帰ってきたテーブルや椅子、棚などを拭いていく。

 うわっ、思ったより汚い。まだ床の方がきれいだ。

 新品だった雑巾は即座に黒いくなり、椅子に掛けていたフード付きローブは床に畳んで置いておく。

 この雑巾、汚くなっちゃったけど、他に洗う場所ないしこのまま流しで洗っちゃおう。

 黒い汚れた水を絞り出し、シンクの排水溝へと流していく。そして洗い終えた雑巾は窓を開けたところの左右にある物干し竿用の出っ張りにぶら下げておく。

 よし、これで家具の汚れはましになった。

 多少なりとも気になっていた部分を掃除出できたことに俺は清々しさを感じていた。

 後は今使わないものは他に収納場所が無いため木製の棚に並べておく。段ボール箱は寝具代わりに床に敷くことにして、購入したクッションは枕の代用品だ。

 因みに、フード付きローブは掛布団代わりの予定。

 続いて、トイレの床に安かった二ロール100メニーのトイレットペーパーを置いた。一応最初から一ロールだけトイレにはセットされていたが、無くなったときの替えは必須。

 安くて助かったけど、質は微妙だなぁ。仕方ないか。

 そうして、ようやく今回のメイン商品を手に取る。

 これで、死蔵していたホーンラビットの肉が食べられるな。

 購入したのは、携帯用マジックコンロと、フライパン。合わせて4,000メニ―。

 携帯用マジックコンロは、使用の都度お金が必要なタイプと、魔石を燃料として使用するタイプが売られていた。今回購入したものは後者の魔石を燃料にするタイプだ。

 使用のたびにお金が必要な方は安かったが、使い続ければ割に合わなくなるし、ここは思い切って高い方を購入した。

 やっぱり、火が無いと不便だよな。と言っても、俺はあんまり料理とかできないけど。

 置く場所が無いので、仕方なく床に携帯用マジックコンロとフライパンを重ねて置いておく。

 購入したのはこんなものかな。あ、あとごみ箱もか。

 最後に購入したごみ箱に視線を向ける。このごみ箱は、高さ三十センチほどで大きくはないが、必須とも言っていい能力があった。

 俺は実際に試してみるため、昼に食べた弁当の空き箱と割りばしをごみ箱に捨てると、ウインドウを呼びだす。そこには、一回10メニ―でごみを処分すると表示されていた。

 ごみの分別をする必要もなさそうだし、これは便利だな。

 俺はそのまま10メニ―を支払うと、弁当の空箱と割りばしが一瞬でどこかに消え去ってしまう。

 ……これ、間違って大切なものを捨てたら取り返しのつかないことになるよな。

 一応許可が無ければ持ち主以外ごみ箱にごみを捨てられないように設定できるようなので、設定しておくことにした。

 生活必需品はだいぶそろったが、8,000メニーくらい使ってしまった……。

 これで俺の所持金は約2,000メニ―。明日もしっかり稼がなくてはいけない。

 これ、プレイヤーの中には所持金不足で相当困ってる人多そうだけど、まあ、俺には関係ないか。

 そうして購入品の仕分けを終えると、無の時間が過ぎていく。つまり。

「暇だ」

 時刻はそろそろ午後六時。夕食としてホーンラビットの肉を焼いて食べるのも良いが、少し早い気もしていた。

 これは夕食前にもうひと稼ぎでもしてくるか?

 今日はもう仕事終了。という気分だっただけになんとなく気怠いが、時間を潰すための娯楽はこの部屋には無い。

 とりあえず、面白そうなのクエストがあったら受けるかどうか考えるか。

 フード付きローブを再び身に着けると、ブーツを履いて玄関の青い魔法陣に乗る。

 さて、良いクエストはあるかな?

 俺はウインドウを表示させ、出されているクエストに目を通す。

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 ランク:2
 名称:畑を荒らすスモールモンキーの討伐
 種類:限定 防衛
 制限時間:1時間

【概要】
 畑に現れるスモールモンキーをできるだけ多く討伐して追い払ってくれ!
 それと畑にはなるべく被害が少ないように頼む!

【報酬】
 ○防衛報酬500メニ―(防衛状況によって減少)
 ○スモールモンキー1匹×30メニ―
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 ランク:1
 名称:練習相手
 種類:限定 
 制限時間:1時間

【概要】
 剣の練習相手を募集。
 実力が高い者であれば好ましい。

【報酬】
 ○300メニ―からスタート。実力次第で報酬アップ
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 ランク:1
 名称:行方不明のじいちゃん
 種類:限定 
 制限時間:3時間

【概要】
 じいちゃんが森に山菜取りに行って帰ってこないんだ!
 頼む、じいちゃんを探してくれ!
 もしもの時は、遺品だけでも頼む。

【報酬】
 ○生存時2,000メニ―
 ○死亡時500メニ―
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 気になるのはこのあたりかな。

 まず畑を荒らすスモールモンキーの討伐は純粋にたくさん殺せるから楽しそうだ。

 次に練習相手のクエストは場合によっては何かスキルをラーニングできる可能性がある。
 最後に行方不明のじいちゃんは強敵が出ればチェインクエストが発生するかもしれない。
 悩みどころだな。

 俺は既に、何かクエストを受ける気満々だった。

 消去法で行けば、まず時間のかかりそうな行方不明のじいちゃんは除外だな。

 チェンクエストが発生すれば更に時間が必要になるだろうと俺は考えた。

 畑を荒らすスモールモンキーの討伐も、防衛クエストと考えると手数の少ない俺には厳しいか。

 最悪防衛できずにクエスト失敗も考えられるので、これも除外した。

 なら、ここはチュートリアル以降一度もラーニングできていないし、それも狙いつつ練習相手というクエストを選ぶとするか。

 そうして、次のクエストを受けることにした俺は、ウインドウの画面をタップしてその場から転移した。


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