ここは……すごいな。
目の前に広がったのは、特大ショッピングモールだった。
ショップっていうからもっと狭いのをイメージしたのだが、これは良い意味で予想を裏切られたな。
前後左右に伸びていく長い通路に、上を向けば吹き抜けになっていて上階が何層にも続いていた。そして今いる場所を説明するならば、巨大な魔法陣のあるエントランスホールと呼べるだろう。
「すげえ!」
「現代的だな……」
「剣とか売ってるのかな?」
「パーティメンバーを探すのもありだな」
「うひょ! かわいい子みーつけた!」
周りを見れば、次々にプレイヤーらしき人たちが現れては消えていく。実際、意識すればホームに戻るためのウィンドウが出現するようだった。
本当に、俺以外にもプレイヤーがいたんだな。それも、こんなにたくさん。
周囲にいる多くのプレイヤーの装備は、どうやらだいたい同じであり、初期装備のように見える。
数は少ないものの、剣や鎧といった他のプレイヤーよりも優れた装備を身に着けた者もチラホラ存在しているようだ。
もしかして先行プレイヤーか? いや、でもなんだか装備に統一感が無いし、違うのかもしれない。案外あのガチャガチャからは装備も出るのかもな。
そう結論付けると、俺はエントランスホール内にいくつもある案内板らしきものの一つに近づいた。
ふむ、なるほど。生活必需品や食材に加え、スキルショップに移動チケット販売店など、他にも様々なお店があるようだ。
スキルを買えることには驚いたが、おそらく安くはないはずだ。基本的にはラーニングでは取得できないスキルが必要になったら行けばいいか。
それと、移動チケットというのは、おそらくホームの青い魔法陣の選択枠にある移動という項目に関係しているのだろう。
たしか、ナビ子がショップには移動チケットが売っており、それを使ってホームから特別な施設などに行けるとのことだった。
金銭的に厳しい現状、まだ俺には必要ないだろうし、移動チケット販売店も後回しでいいだろう。それよりも、今は空腹を満たすのが先決だ。
そうして、俺は食材コーナーへと向かうことにした。フードコートもあるらしいが、やはり金銭的な理由から厳しいのであきらめる。
いつかお金とか気にせずに好きな物を食べたいなぁ……。
フードコートの広告には、平均1,000メニ―前後と表記されており、とてもではないが今の所持金で手を出すわけにはいかない。後ろ髪を引かれる思いではあるが、安い食材でしばらく食い繋ぐしかなさそうだった。
パンの耳とかもやしはあるかな? 安いイメージがあるけど。
今後メニ―がどれだけ稼げるのか確定していない以上、今はできるだけ安い物で済ませたかった。もちろん、できればおいしい物の方がいいことには違いないが。
それと生活していく以上、必需品とかも買う必要があるよな? むむむ、やはりどう考えても金が足りない。これは金になりそうなクエストとかどんどん受けていった方がよさそうだな。
そこでふと思い出すのは、クエスト画面に表示されていたとあるクエスト。その時はスルーしていたが、報酬は他と比べてよかったのを思い出す。
いや、あれは無いだろ。あれは。流石に無理だ。
俺は嫌な顔をしながら、そのクエスト内容を思い出す。
_____________________
ランク:1
名称:私を鞭で叩いてくれ!
種類:常時
制限時間:2時間
【概要】
私を鞭で叩いてほしい。
罵ったり特殊な衣装を着てくれれば別途報酬を出します。
男性女性ともに歓迎!
成果次第で指名依頼をお願いするかもしれません。
【報酬】
○500メニ― 条件次第で報酬アップ
_____________________
他のランク1の依頼が平均時給100メニ―なのに対して、この依頼は時給にして250メニ―だ。更に、条件を満たせば報酬アップに加え、指名依頼をされることもあるらしい。内容を無視すれば、かなりおいしい依頼だった。
戦闘が無いことを考えれば、確かにおいしい依頼なんだろうな。けれど、俺が熟した盗賊討伐はだいたい一時間でクリアーしたことを考えると、時給は1,500メニ―だ。こんな何かを失うような依頼を受ける必要はない。
俺はそう判断すると、クエストのことを頭の隅に追いやり、ショップ内を歩きながら見て回る。
本当にここはすごいな。いろんな店が多く並んでいるし、品ぞろえも豊富そうだ。いつかしっかりと見て回るのもありかもしれない。
そんなことを思いながら、しばらく歩いていると、なぜか周囲からチラチラと視線が集まっていることに気が付いた。
「おい、あれ見てみろよ! ケモミミ美少女がいるぞ!」
「ちっちゃくてかわいい!」
「ぶひぃ! ぼくちんハートを撃ち抜かれたんだなぁ!」
「獣化系の固有スキルなのか?」
くっ……やはりこの尻尾と耳は目立つのか……それと、俺は男なんだが……男だよな?
自分のことを最初から男だと思い込んではいるが、記憶が無いので実際どちらかは不明だった。しかし、だからといって人の視線が集まる中自分の性別を確認しない訳にもいかない。
居心地の悪い中、俺は自分の性別に疑問を持ってしまった。そして、ふと洋服店の前にあるショーケースのガラスに反射されている自分の姿を目にしてしまう。
うそ……だろ……。
思わず立ち止まり、自分の姿に見入ってしまう。
全体的にスラっとした150cmほどの低身長に、つり目がちの可愛らしい容姿をしていた。銀色の髪は肩まで伸びており、頭部と臀部には髪と同様銀色の耳と尻尾があり、その色から銀狼を彷彿とさせた。それに加え、特徴的な紅と碧のオッドアイはまるで宝石のようだった。
……俺って、女の子だったのか? いや、そんなはずは……。
ぱっと見低身長と容姿が相まって、美少女のようにしか見えない男の子。それが俺だった。
しばらくその現実に打ちひしがれていると、誰かが突然声をかけてくる。
「かわいい子みーつけた! ねえねえ、俺ちゃんと一緒におしゃれなカフェでお茶しなーい?」
「は?」
それは、程よく肌の焼けたチャラチャラした金髪の男だった。
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