無事に戻ってきたようだな。
視界が戻ると、俺はホームである六畳間の部屋にいた。
「……はぁ、そこまでうまくはいかないか」
戻ってくると同時に、俺は左手に掴んでいた大きめの袋が無くなっていることに気が付いた。
どうやら、持って帰れるといっても限度があるみたいだな。
実際、ズボンのポケットに入れていた魔石や小銭袋はそのままだし、二本のナイフも腰に装備したままだ。アイテムポケットの方は、当然無事に持って帰れている。
つまり、アイテムポケット以外で持ってかれるのは、身に着けることが可能であるか、或いは衣服のポケットなどに入れることができるかどうか、ということだろう。
まあ、何でもかんでも持って帰れる方がおかしいよな。そのことを知れただけで行った価値はあった。
クエストで手に入れた物を持って帰れることは、チュートリアルで学んでいる。しかし、それは全てではない。
チュートリアル全体でも言えることだが、あえて教えなかったこともあるのだろう。
そう納得すると、俺はブーツを脱いで部屋に上がる。
ん? あれだけ血を浴びたというのに、きれいになってるな。
気が付けば、盗賊の返り血で真っ赤に染まっていたシャツやズボンが新品同様と見間違うほどきれいになっていた。
他を確認すれば、ブーツには泥が付いておらず、棍棒はもちろんのこと、盗賊から奪ったナイフが二本とも汚れが落ち清潔感にあふれている。
どういうことだ? クエストから帰ってくると、装備している物は自動的にきれいになるのか?
そんな疑問を浮かべながらも、清潔になったことに不満はないので今は気にしないことにした。
さて、大きめの袋を持ち帰れなかったのは残念だったが、戦利品は他にもある。
俺は棍棒を適当に壁に立てかけると、広々とした草原の見える窓に近づき、アイテムポケットから持ち帰ってきた物を取り出した。
まず出したのは、縦横60cmほどの正方形をした木製テーブルに、左右に同じく木製の椅子を一脚ずつ設置する。
そして設置したテーブルの上には、特殊なランタンを一つ置いた。このランタンの下部にはボタンが一つあり、押すことで火ではなく光の玉が辺りを照らす仕掛けになっている。
このランタンが希少かどうかは分からないが、盗賊が持っていたことに驚いた。おそらく、クエストでは生き残りの盗賊となっていたので、何らかの理由で元の拠点から持ち出していたのかもしれない。
まあ、そのことは今更どうでもいいのだけれど、このランタンはどうやら魔石で動いているようだ。
逆さまにして裏面を見ると、電池のように取り付けることができるようになっていた。
この部屋には暗闇を照らすような物は無かったし、このランタンを持って来れたのは幸いだったな。
うんうんと腕を組んで頷くと、俺は続いて玄関に向かう。玄関を正面に見た場合、左側には蛇口がある。そうなると必然的に右側には丁度スペースがあるので、これ幸いにと持って帰ってきた木製の棚を設置した。
よし、これで持って帰ってきた物は概ね設置したな。
アイテムポケットに残ったのは、五百グラムの肉ブロックだけだ。どいうやら、正式名称はホーンラビットの肉らしい。
アイテムポケットの枠がもう少し多ければよかったんだがな……まあ、椅子を二脚収納したときに、同じアイテムなら一枠で済むことが分かったから、今後はなるべくそれを意識しながら使うことにしよう。
それとちなみにだが、アイテムポケットに入れていたものは装備している物と違ってきれいにならないらしい。実際テーブルや椅子などは薄汚かった。
さて、次はどうするかな。
床に転がっている魔石と、ズボンのポケットしまっていた魔石を棚に置きながら、俺は今後のことを考える。
クエストの報酬で1,500メニー増えたことで、現在所持金は4,499メニ―だ。まだまだ無駄遣いすることはできない。
けれども、生きていくためには必要な物も存在するのも確かだ。
それを強く知らしめるがごとく、俺の腹がぐ~と音を鳴らしている。
スマホを取り出して時間を確認すれば、丁度お昼を示していた。俺の腹時計は意外と正確のようである。
生のホーンラビットの肉はそのままでは食べられないし、この部屋に蛇口はあってもコンロは無い。
「ショップに行くか」
空腹に耐えかねた俺は、新たに蛇口で1メニー支払って水分補給をすると、玄関の青い魔法陣に乗って選択画面からショップを選んでワープした。
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