011 男にナンパされる男の娘

「俺ちゃんの名前は遊野チャラ男あそびのちゃらお! こう見えてちょー誠実! ねえねえ、かわい子ちゃんの名前、俺ちゃんに教えてくれなーい?」

 なんだこいつは……。

 俺は突然すぎる出来事に戸惑いを隠せない。

 そもそもチャラ男って本名なのか? すごい名前だな。

「あれあれ? 緊張しちゃってる? ちょーかわうぃーんだけど!」

 そう言ってチャラ男がショーケースを背にする俺に迫る。

 流石に気持ちが悪い。ぶっ飛ばすか? いや、そもそもショップは戦闘禁止エリアだったという説明をチュートリアルで受けている。破れば罰則は免れない。

 しかし、それはチャラ男にも言えることで、行き過ぎたセクハラ行為に対しても罰則があるはずだ。ただし、男が男に対するセクハラ行為の場合はどうなるのか不明だが。

 現に、チャラ男はセクハラ行為の罰則を恐れているのか、俺に接近しても触れることは無い。

 どうする? 隙を見て抜け出すか? それとも助けを呼ぶか?

 こうしたナンパに対する対処法を知らない俺は、戸惑いたびたび脳裏に思い浮かぶ”殺す”という選択を排除していく。

 ああ、もう面倒くさいな。腹は減ったしイライラする。適当に罵倒して追い払うか。

 ようやくその選択に辿り着き、俺がチャラ男に向けて罵倒しようとしたときだった。

「とっととそこを――」
「そこの外道! その子を解放しろ!」
「あ?」

 突然そう言って一人の少年が現れた。

 見た目は黒髪黒目のぱっとしない十代後半の少年であるが、その顔には余裕が滲み出ている。しかしそれもそのはずで、少年は周囲のプレイヤーとは違い、兜のない黄金の全身鎧を身に着けていた。

「その子は僕の彼女だぞ! 気安く近づくな!」
「なにぃ!?」

 少年の言葉にチャラ男が驚きの声を上げた。しかし、少年の発言に俺はつい反論してしまう。

「いや、彼女じゃないから」
「え?」

 まさか反論するとは思わなかったのか、少年は鳩が豆鉄砲をくらったような表情だ。

 助けてくれたのだろうが、彼女扱いされて身の毛がよだったぞ。それに、それを受け入れたら何かまずいことになりそうな予感がしたし。

「ぷッ、ははッ! だっせぇ! 振られてやんの!」

 俺がそんな風に考えていると、チャラ男は我慢の限界だったのか、笑い声を上げながら少年を指さす。

「な、なんだよそれ! そこは助けられて僕に惚れる流れだろ!! それにお前! 笑うな! 笑うんじゃない!」

 思い通りにいかなかったことに腹が立ったのか、少年は地団駄を踏むとチャラ男と俺に詰め寄った。

「ぶッ、俺ちゃんになんか用か、キンキラ小僧?」
「お、お前! 許さないからな! それとそこのメスガキもだ!」
「め、メスガキ?」

 流石にその暴言で俺もカチンとくる。性別を間違われるのはもうどうでもいいとしても、メスガキとまで言われる筋合いはない。

「そうだ! どうせこんなチャラチャラした奴に尻尾を振るメスガキビッチなんだろ!」
「は? お前、相当死に――」
「その暴言は見過ごせないっしょ!」

 俺の発言途中にもかかわらず、チャラ男が激怒して少年に突っかかる。

「ひっ……いや、だったらどうしたというんだ! 俺と決闘でもするか?」
「上等だ! 俺ちゃんがぶっ飛ばしてやんよ!」
「ふ、ふはは! 力の差も理解できない間抜けか!」

 売り言葉に買い言葉。いつの間にか少年とチャラ男が決闘することになっていた。

「かわい子ちゃん! 俺ちゃんができる男ってところを見ていてくれっしょ!」
「僕が勝ったらその子も目が覚めるだろう。尻尾を振るべきなのはどちらかということがね!」

 いつの間にか、勝った方のどちらかに着いていくみたいな状況が生み出されていた。それを見て途端にしらけてきた俺は、そこで空気を読まない。

「いや、もういいよ。あとは二人で好きにやってくれ。お腹が空いたし、じゃあな」
「ちょ、ちょっと待つっしょ!」
「そこは最後まで見届けろよ!」

 そう言って二人は慌てて俺の前に回り込んでくる。

「どっちが勝ったとしても、着いていく気はさらさらないよ?」
「え?」
「なんで?」

 どうやら二人の中では、勝利した者が俺をそのまま連れていけると本気で思っていたらしい。

「それに、何よりも面倒だ。メリットが感じられない」

 俺がそういうと、マジかよこいつ? といった風な表情が返ってくる。

「わ、わかった。そういえばさっき君はお腹が空いていたとか言っていたよな! 決闘を見に来てくれるなら食べ物を提供しよう!」
「なっ! お、俺ちゃんだって見に来てくれるなら昼飯代奢ってやるっしょ!」
「ふはは、貧乏人は無理しない方がいいよ?」
「く、キンキラ小僧の分際で……」

 すると、そこまで俺に決闘に来てほしいのか、二人がスマホを取り出して交換申請を送ってきた。

 この交換申請はスマホにあるアプリの一つであり、プレイヤー間でメニ―やアイテムポケットの中身の取引を行うことができる。

 ……食べ物と昼飯代……よし、他のプレイヤーがどんな戦いをするのかも気になるし、決闘を見に行くか。

 そうして、俺は少年からは焼肉弁当とオレンジジュースを貰い、チャラ男からは1,000マニーを受け取った。

「あ、あの子すごいな」
「さっそく姫プレイかよ……」
「かわいい顔して策士だぜ」
「ぶ、ぶひぃ! ぼ、僕ちんも貢ぎたいんだなぁ!」

 遠巻きに見ていた野次馬たちも、今の出来事に対して面白おかしく盛り合っているようだ。

 ……なんか俺の評判悪くなったか? まぁ、仕方がないのかもしれないが。

「おい! 野次馬ども! この僕短橋命斗たんばしめいととここにいるチャラ男とで決闘を行う! 見たいものは『バトル』に移動してくれ! タイトルは『勇者命斗大勝利!』だ!」
「ぷははッ! なんだよそのタイトル! お前中二病ってやつか!」
「ふん! 笑っていられるのも今の内だ!」

 そう言って、短橋命斗たんばしめいとと名乗った少年とチャラ男は、やじ馬たちを連れて移動し始めた。

 バトルか。ショップの後に行こうと思っていたから、ある意味良かったのかもしれないな。

 そんなことを思いながら、当然俺も後に続く。

 そうして、エントランスホールに辿り着くと、それぞれが青い魔法陣に乗り、出現したウィンドウからバトルを選択して移動した。

 ◆

 バトルに移動すると、そこはショップとはまた違ったエントランスホールが広がっている。

 正面には巨大な案内板があり、それぞれの試合によって場所が違うよだった。他にも売店やモニタールームなどの施設もある。

「個人利用の場合は……こっちだな。みんな! 僕についてきたまえ!」
「ちっ、偉そうに」

 俺が案内板に見入っていると、命斗が野次馬を含め誘導し始めた。

 それにしても、意外と利用者は少ないんだな。

 辺りを見渡せば、大きさの規模に対してプレイヤーの数が少ないように見えた。

 何かしらの理由があるのか? まあ、現状知りようもないか。

 そうして、誘導されるままとある部屋に辿り着いた。そこには、タッチパネル式の機会が一面に並び、天井近くの壁にはモニターが同じように一面並ぶようにして備え付けられている。

 なるほど。あの機械で受付を済ませるのか。それと上のモニターは現在利用しているプレイヤーの映像か? よく見れば左下にタイトルのようなものが表示されてるな。

『現在練習中。観戦者募集中!』
『ユニィのマジカルステージ☆彡』
『モンスターと対戦!』

 そういうことか、つまりあのモニターを見て興味を持てば、目の前の機械を使って観戦に行けるという訳か。

 モニターを見れば、案山子型のモンスター相手にひたすら拳を振るう男や、魔法を放つ少女。そして豚のようなモンスター相手に逃げ惑う男が映っていた。

 そうか、ここではモンスターと戦うこともできるのか。観戦設定みたいのをオフにできるようであれば、俺のラーニングのスキルと相性がよさそうだし、あとで試してみるか。

 モニターの光景に思わず高揚していると、いつの間にか決闘の設定が終わっていたようだ。

「よし、これでもう逃げることはできないからな!」
「上等っしょ! キンキラ小僧にはぜってぇ負けねぇぞ!」

 そう言って二人が機械を操作すると、その場から忽然こつぜんと消え去る。

「おお、消えたぞ」
「俺たちも行こうぜ!」
「なんだかわくわくするな!」

 野次馬たちも機械を操作して、観戦場に向かった。

 俺も行くか。

 皆に続くように、俺も機械を操作するため、タッチパネルに触れる。画面には、まず初めに参戦か観戦を選び必要があり、当然俺は観戦をタップする。

 なるほど。チュートリアルでも軽く説明を受けていたが、バトルは基本この六種類があるのか。

 画面には、どのバトルを観戦するのか選ぶ必要があり、以下のものが表示されていた。

 ・PvP
 ・PvM
 ・チームマッチ
 ・チームマッチ(M)
 ・デスマッチ
 ・デスマッチ(M)

 六種類といっても、実質は三種類のようなものであり、対象がプレイヤーなのかモンスターなのかという違いだ。

 今回は、命斗とチャラ男の決闘なのでPvPを選択する。その中から『勇者命斗大勝利!』というものをタップすると、俺の視界は暗転してその場からワープした。


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