037 騒動の終わりと次に向けて

 ホームに戻ってくると獣人たちは驚きと共に、ベサル達を見て喜んだ。その後エレティアとの遭遇でひと悶着あったが、それも以前と同じように解決する。

「ミカゲ殿、この度は誠にありがとうございました。我ら獣人を助けてくれたこと、生涯忘れません」

 全員の安全が確保されたからか、べガルがその場で片膝をついて礼を言ってきた。

「そうか。だが安心するのはまだ早い。お前らにはその忌まわしい隷属の首輪がついているだろう?」
「そうですが、この首輪は装着した者やその権利を与えられた者以外に外すことはできないと聞いています。無理に外そうとすれば、首輪を付けられたものは死ぬことになるでしょう」

 べガルはそう説明をしてくれるが、問題は無い。何故ならば、隷属の首輪は既に外した経験があるからだ。

「それについては問題ない。隷属の首輪を外せることは、お前の息子であるベサルで実証済みだ。あいつらには隷属の首輪がついていないだろ?」
「た、確かに……まさか本当にこの隷属の首輪を外せるのですか!?」
「外せるぜ! あんちゃんは凄いんだ!」

 驚き戸惑っているべガルの元に、ベサルがやってきて嬉しそうにそう言った。

「そういう訳だ。その隷属の首輪を外すが、問題ないか?」
「も、もちろんですとも! 是非この首輪を外してください!」
「わかった」

 俺はべガルに近づくと、その隷属の首輪をべガルのすぐ横に転送する。それによってべガルから隷属の首輪が外れ、首輪は隙間が無い大きさに縮んだ。

「おお! まさか本当に外れるとは! み、ミカゲ殿! 出来れば他の者の首輪をお願いしたいのですが!」
「ああ、当然外そう」
「こ、この恩は忘れません!」

 そうして、獣人たちにつけられていた隷属の首輪を、俺は次々に外していった。

「これで自由にゃ! ミカゲ本当にありがとにゃ!」
「なっ!?」

 ノワレの隷属の首輪を外すと、そう喜んで抱きついてくる。その柔らかい身体が押し付けられた。

「あー! カミ!」
「な、なんにゃ!」

 すると、それを見ていたエレティアがノワレを引きはがし、俺の腕に抱きついた。まるでおもちゃを取り返す子供のようだ。

「うー!」
「シャー!」

 何故か険悪な雰囲気になる二人だが、俺はエレティアの腕から抜け出すと、付き合ってられないのでその場を離れる。

「カミ!」
「あっ! どこに行くにゃ!」

 背後から何か聞こえたが、俺は無視してブラウの元へと向かう。ブラウには言わなければならないことがあった。

「ブラウ。少しいいか?」
「はい。何でしょうか?」

 ブラウに話すのは、ルチアーノの依頼についてだ。捜索依頼を出されているので、冒険者ギルドに行く必要があることを伝えた。しかし、それを聞いたブラウの反応というと。

「ミカゲさん。ルチアーノさんに僕が死んだと伝えてください。死体は残っておらず、これだけが残されていたと」

 そう言って、ブラウは自分のつけていた牙のネックレス外し、俺に渡してくる。

「いいのか?」
「はい。死んだことにした方が、ここに残りやすいと思ったので。あ、私もこのホームに住んでもいいですか? 元々私は自分の知らないことを体験するために、いずれは旅に出ようと考えていました。ミカゲさんといれば、それも叶いそうな気がするんですよね」

 ブラウの決意は硬そうであり、俺としても魔力の徴収元が増えることはありがたいので了承することにした。

「わかった。ルチアーノにはそう伝えておこう」
「ありがとうございます」

 ブラウにそう約束を交わすと、しばらくしてから冒険者ギルドに向かう。そこでは俺の帰りを今か今かと待っていたルチアーノが駆けよってくる。

「み、ミカゲ君! そ、それで、どうだったんだい!?」
「……残念だが」
「そ、そうか……詳しい話を聞かせてくれないかい?」
「わかった」

 ルチアーノに連れられて奥の部屋に行くと、俺は早々にルチアーノへと牙のネックレスを渡す。

「これが東の森に落ちていた。死体は……残っていなかった」
「そうか……何となくわかっていたよ。消息を絶ったのは昨日だ。普通に考えて、生存は絶望的だろう。ミカゲ君を責める気はないよ。こうして遺品だけでも持ってきてくれたことに感謝するよ」

 ルチアーノは気を落としながらも、お礼を言って牙のネックレスを受け取った。

「依頼の方も、成功として謝礼を支払おう。今回は無理を言って済まなかったね」
「いえ」

 そうして依頼報酬を受け取ると、 俺は冒険者ギルドを出てホームにへと帰還する。

「そうですか……ありがとうございました。これからはよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそよろしく頼む」

 ブラウに報告を終えた後、握手をしてホームの一員として迎え入れた。ブラウ自身が決めたこととはいえ、どこか寂しそうな表情をしているが、それも直ぐに引き締める。

「これからは、このホームがより良くなるために働きますね!」
「ああ、お前の知識には期待している」
「任せてください!」

 それからブラウとの会話を終えると、次にべガル達の元に向かう。

「お前たちはこれからどうするんだ?」
「できれば、このホームを拠点にしつつ、捕まった仲間を少しでも解放したいと思うのですが、よろしいでしょうか? ここに住まわせてもらっているのは承知ですが、今も囚われた仲間は多いのです」

 俺はしばらく考えるそぶりをするが、獣人が増えるということは徴収元が増えることを意味している。俺はべガルの願いを了承した。

「いいだろう。ただし、代表して誰か一名には俺の……眷属になってもらう。眷属になれば、俺への連絡やホームへの移動も楽になるだろう」

 支配契約をすればその者からの魔力徴収は出来なくなるが、念話のように離れていても意思のやりとりが可能になる。実際エレティアとも意思疎通出来ており、最近では離れていても届いてくることがあった。

 それに加え、支配契約をしていれば、その者を起点に召喚することができる。何か緊急時に念話を飛ばしてくれば、召喚で呼び戻すこが出来るのは利点だ。

 魔力徴収を欲張って獣人たちが全滅した方が赤字だろうしな。それに、獣人が増えればそのうち収支は黒字になる。いわば投資だ。

 俺はそう考え、支配契約というのは外聞が悪いので、眷属になる者を一人選出するようべガルに申しつけた。

「その眷属の任。このべガルが受けましょう!」
「あっ! ずるいにゃ! あたしも眷属になりたいにゃ!」
「わ、私も眷属になりたいです!」
「お、俺だってあんちゃんの眷属になりたいぞ!」

 すると、何故かべガル以外にも、ノワレやブラウ、ベサルまでが眷属になりたいと騒ぎ出す。しかし、支配契約はこちらから魔力を支払うこともあり、あまり多く作ることはできない。

「すまないが、眷属はそう頻繁に作ることは出来ないんだ。今回は、べガルに頼もうと思う」
「あ、ありがたき幸せ! このべガル、ミカゲ殿の為に誠心誠意尽くすと誓いましょう!」

≪獣人白虎種『べガル』に支配契約を実行致しますか?≫

 すると、エレティアを支配契約したときに聞こえてきたアナウンスが、久々に聞こえてきた。

 支配契約を実行しようとしたから、聞こえてきたのかもしれないな。

 俺はそう思いながらも、べガルに支配契約を実行した。

「お、おお!? これは!?」

 実行した途端にべガルが驚くと共に、俺の鳩尾あたりが赤く光ると、べガルの全身を赤い光が包み込んだ。

「どうだ? 俺との間に何か繋がったのを感じないか?」
「は、はい! 感じますぞ! ミカゲ殿が我が主だと、心の底から理解いたしました! それに、身体から力が溢れてくるようです。俺は以前よりも確実に強くなっていると自信をもって言えます!」
「なるほど。それは良かった」

 どうやら支配契約をすると、その対象は俺への忠誠心が高まると共に、強くなることができるらしい。

 エレティアが賢くなって喋れるようになったのは、これが原因か。それに、エレティアは少しずつだが成長している。つまり、支配契約が長くなれば長くなるほど、強くなるという訳だ。

 この理屈は、俺から魔力が送られ続けているのが原因だろうと考えた。魔力を断続的に受け取ることによって、支配契約を受けた者は強化されていくのだろう。

 そうしてその後は、囚われた獣人たちを探しに行くメンバーが選出され、べガルを含めた七人の獣人が行くことになった。ちなみにノワレはそのメンバーを辞退して、俺のそばにいるらしい。

「ミカゲには恩もあるし、あたしがしてしまったことの償いもする必要があるにゃ。だから、いつでもミカゲの近くにいて、命を守らせてもらうにゃ!」
「うー!」

 そう言ってすり寄ってくるノワレをエレティアが威嚇するが、それを軽く受け流して俺の右腕に自身の腕を絡めてきた。それに対抗するように、エレティアが左から俺の腕を自身の豊満な胸の谷間に入れる。

「にゃっ!? 大きければいいってわけじゃないにゃ!」
「うー!」
「はぁ……」

 そんなやり取りが面倒になり、俺は溜息を吐いて抜け出しすと、準備に取り掛かっていたべガルに人化の指輪を渡す。

「これがあれば、人族の町でやりやすくなるだろう。人族に化けるのは嫌かもしれないが、我慢してくれ」
「いえ、ありがたく預からせていただきます。必ずや、同胞を連れて戻ってきます!」
「ああ、期待している」

 そうして、獣人集団の出会いから始まった騒動は、ひとまず終わりを迎える。

 エバレスの町でやることは終わったな。そろそろ冒険者のランクもE級に上がりそうだし、そうすれば他の町でも、身分証明相代わりになる。

 F級までは、登録した町でしか身分証の代わりにならない。しかしE級以上であれば、同じ国の中に限り身分を保証される。そしてC級になると、他国に出入りすることが出来るということだった。

 E級に昇格したらC級を目指しつつ、北の帝国に向かおう。名印の石があれば、どこに行くのも自由だし、べガルたちの目的を阻害することは無いはずだ。

 そうしてそれから数週間後、俺は無事にE級へと昇格し、惜しまれつつもルチアーノとの契約冒険者を解消して、エバレスの町を出た。

 ダンジョン転移と勇者召喚に巻き込まれたが、正直俺には関係ない。この称号スキルを使っていずれは、俺たちが安心して住める安住の地を創造しよう。

 その夢が叶うまで、俺はこの世界で足掻き続ける。

 END


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