036 獣人解放と戦利品

 ランディルが去ったあと、俺たちは牢屋馬車に囚われている獣人たちを解放した。

「助かりましたべガル。しかし、他の仲間が……」
「みんな、遅れてすまない……」
「っ! そこにいるのは人族!? なぜ!?」
「大丈夫にゃ。ミカゲは人族だけど信用できる人物にゃ!」

 俺が人族ということでひと悶着あったが、それもべガルとノワレの説得によって、落ち着きを取り戻す。

 続いて、奴隷狩りたちの装備などをを剝いで行く。

 こいつ、確かランディルが雇い主とか言っていたな。見るからに、他の奴と違って身なりが良い。

 俺が最初に仕留めた男は、他の冒険者風の男たちと違い商人風の格好で、体型も太かった。肩からはショルダーバッグのような物をかけている。俺はそれを手に取って中身を調べると、驚くべきことが起きた。

「これは……」

 ショルダーバッグの中は闇に包まれており、手を入れると脳内に様々な物が浮かび上がる。食料や貴重品、俺の目印の石もあった。

 明らかに、普通じゃないな。このバッグの中は異空間なのか?

 試しに食量の入っている木箱を取り出してみると、ショルダーバッグの口以上の大きさをした木箱が現れる。

 これは凄い。なるほど。獣人たちの拠点が略奪しつくされていた謎が解けたな。このバッグがあれば、荷物なんて関係ないだろう。だが、大きな家具などが打ち捨てられていたことから、もしかしたら容量などもあるのかもしれないな。

 そんなことを思いながらも、俺は商人風の男から他にも剥いでいく。指には宝石の指輪や、おしゃれなナイフなども身に着けていた。この男が裕福だったことがうかがえる。

 金銭も結構持っているし、数か月は余裕で暮らせるな。

 思わず笑みを浮かべながら、他にも何かないかと調べていると、近くから叫び声が聞こえてきた。

「ひ、人族! ……え?」
「ど、どこにゃ! 人族なんていないにゃ!」
「ノワレ……それ……」

 現場に駆け付けると、そこには複数の獣人たちと、ノワレがいる。ただし、ノワレの耳や尻尾が無くなっており、代わりに人族の耳がついているが。

「なんにゃ? ……!? あ、あたしの耳と尻尾が無いにゃ!」

 他の獣人の指摘に気が付き、ノワレは自分の耳と尻尾を触ると、そこに本来あるはずのものが無いことに気が付いて騒ぎ出す。それと同時に、ノワレが手に持っていた鉄の指輪が二つ地に落ちる。その瞬間、ノワレの耳と尻尾は元の姿へと戻った。

 これは……。

 俺はその指輪が原因ではないかと手に持ってみるが、特に変化はない。

「あ、戻ったにゃ。よ、よかったにゃ……」
「ノワレ、この指輪はどうしたんだ?」
「その指輪はかにゃ? そこの石の上に置かれていたにゃ」

 ノワレがそう言って、近場の二十センチほどの高さをした平べったい石を指さす。

 明らかに人為的な気がする……どう考えても、ランディルが置いていったに違いなかった。

 どうしてそのようなことをしたのか、詳しいことは分からない。だが獣人と仲良くと言っていたことや、俺たちがランディルの利になるということから、わざと置いていったのだと判断をした。

 これを使って人族の町へと、獣人を連れて行けということなんだろうな。

 指輪は全部で三つあった。二つはべガルとノワレ用だとして、もう一つは予備ということだろうか。

 俺はそんなことを考えながら、もう一度ノワレに指輪を渡してみる。

「ノワレ、この指輪を手に持ってくれ」
「? 分かったにゃ……にゃ!? また耳と尻尾が無くなったにゃ!?」

 ノワレに指輪を渡すと、やはり獣の耳と尻尾は無くなり、代わりに人族の耳が現れた。

 なるほど。この指輪はつまり、人化の指輪という訳か。上手く使えば、通常戦力を底上げできるな。

 普段俺はソロで活動しているが、俺の能力を知っているべガルやノワレが加われば、かなり楽ができるはずだと踏んだ。

「それは人化の指輪だ。それを身に着けている間は、どうやら人族に化けられるらしい」
「そ、それは凄いにゃ。これを使えば、人族の町に侵入出来るにゃ」
「でもノワレ、私たちには隷属の首輪があるわ」
「そ、そうだったにゃ!」

 ノワレが人化の指輪の可能性に目を輝かせていると、そこへ捕まっていた獣人女性がそのように言葉を漏らす。確か人族に化けたところで、隷属の首輪が無くなることは無い。

 そういえば、べガルたちの首輪を外していなかったな。

 今更ながらそのことに気が付いた俺は、ホームに戻ったらまとめて外すことを決意した。

 その後は、残りの奴隷狩りの死体から装備を剥ぎ取ったり、周囲を警戒したりする。よく観察すれば、牢屋馬車が通った場所だけ木々が少ないことに気が付く。

 もしかして、馬車用の道か? なるほど。こんな狭い森の中で馬車を走らせていたのが少し疑問だったが、この道なら問題なく通れそうだな。もしかして、獣人たちもこの道を通ったのか?

 だとすれば、奴隷狩りに見つかったのも、この道が関係しているのではないかと考えた。地面を見れば、僅かに轍の跡が数本伸びている。

 逃げるのを優先するあまり、細かいところまで気が付かなかったのか。

 今思えば、奴隷狩りはここまで全てを計画していたのではないかと考えた。ブラウを囮に、戦力の高いべガルたちを遠ざけ、その隙に拠点を襲撃する流れだったのかもしれない。

 奴隷狩りたちの誤算は、俺がいたことだろうな。もし仮に俺がべガルたちと出会わなければ、拠点の獣人たちは連れ去られ、ノワレを人質にべガルたちもやられていたかもしれない。

 運が良いな。いや、もしかしてこれは必然かもしれない。

 そう思うのは、俺の称号スキルである『幸運の導き』が何か作用したのではないかと、そう考えた。獣人たちにすれば、俺との出会いはまさに運命的だろう。

 これが良い方向に転がれば良いけどな。

 ここで思い出すのは、ユニーク称号『奇跡の運に導かれし者』の一文。『あなたを破滅に追いやれる存在がいるとすれば、その者もまた運命に導かれし者だろう』というもの。

 あのランディルがそうだとすれば、うかうかしてはいられない。力を付ける必要があるな。

 ランディルには終始遊ばれていた。更には使えそうだからと情報やアイテムまで与えられる始末。つまり、ランディルにとって俺たちは全く脅威にならないということだ。

 もっと強くならなければ。

 改めとそう決意すると、俺たちは一度獣人たちの拠点に戻ることにした。牢屋馬車は放置して、繋がれた馬はホームに置くのは現状できないので、野に放つ。

 この時は転移を使うことは無く、残された獣人たちも各々自問する時間が必要だと考え、歩いて向かうことになった。

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「エンザム、お前は立派な戦士だった。最後にお前の言葉が無ければ、仲間が奴隷狩りに捕まったことに気が付くのが遅れただろう」
「みんな、最高の仲間、家族だったにゃ」

 獣人たちの拠点だった場所に戻ると、仲間の死体を丁寧に埋葬した。残された獣人は、その多くが力のない女性や子供、老人ばかりだ。若い獣人男性は、その多くが拠点を守るために散っていった。

 あの時は気が付かなったがこの鋭い断面からして、やったのはランディルだろう。特に無惨なのは、奴の仕業に違いない。

 俺はどこか虚しさを覚える。もう少し早く来ていればという思いが込み上げたが、過ぎたことを考えても仕方がない。

 それから全ての埋葬を終えると、いくつか残された家具を回収して、俺たちはホームに戻ることになった。

「大丈夫だ。ここにいるミカゲの隠れ家で、俺たちは安全に暮らすことができる。それを我がべガルの名にかけて誓おう」
「あたしもノワレの名にかけて誓うにゃ! ミカゲは信用できる人族にゃ!」

 転移することについて不安を覚えていた獣人たちをなんとか説得し、俺たちはホームへと転移した。


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