040 最後の試練

「「「マジックショットなんだなぁ!」」」
「なっ!? みんな避けろ!」

 俺たちが躊躇っていると、偽奥平三人が一斉に攻撃を仕掛けてくる。

「ぶひゃああああ!!?」
「お、奥平さぁああああああああん!!」

 すると偽奥平の放ったマジックショットは、全て本物の奥平に命中してしまう。当然本物の奥平は、光りの粒子になって消え去っていく。

「僕ちんたちの怨みを思い知ったんだなぁ!」
「少しは僕ちんの痛みを理解したんだな!」
「焼かれるのは痛くて怖かったんだな!」

 本物の奥平にそんなことを言っても意味はないと思うが……まあ、本来ならそんなこと分からないか。

 実際生贄になった仲間たちが蘇って、怨み言をぶつけてくれば、躊躇してしまう可能性が高かった。更にその実力も、元となった者と同等だと思われるので大変厄介だ。

 これを本来一人で対処する必要があるとすれば、かなり面倒だな。

「ルイン、どうするさね!」
「ぼ、僕はどうすれば!」

 対応に困り、キャサリンと姫紀が指示を求めてくる。それに対して、俺が言う言葉は決まっていた。

「あれはどう見ても偽物だ。本物は恨んでいなかっただろ? なら、躊躇わずに倒すぞ」
「わ、分かったさね!」
「さ、サポートは任せてください!」

 そうして、俺たちが偽奥平を倒す方向で決めた時だった。

「必殺! イタズラな風なんだな!」
「ルインたんの服をめくるんだな! イタズラな風!」
「姫紀たんのおへそが見たいんだなぁ! イタズラな風!」

 本物の奥平がこれまで見せなかった固有スキルを、偽奥平たちが発動する。それによって、驚くべきことが起こった。

「な、なんだ!?」
「ふぁああ!?」

 どこからともなく風が巻きあがると、俺と姫紀の白いシャツがめくれ上がる。その風がシャツを押し上げるように、鳩尾辺りまでの肌をあらわにした。

≪スキル『イタズラな風』をラーニングしました≫

 なっ!? こんなくだらないスキルに貴重なスキル枠が!?

 恥ずかしさよりも、このよくわからないスキルをラーニングしてしまった方がショックであり、怒りが込み上げてくる。

「許さんぞ……ウインドスラッシュ!」
「ぶぎゃ!?」

 俺は怒りに任せてウインドスラッシュを放ち、偽奥平を一人撃破する。

「むぅ! いくら奥平さんに似ていても、容赦しませんよ!」
「びぎゃあああ!?」

 姫紀は相当恥ずかしかったのか、電流イライラ棒を振るって偽奥平を攻撃した。電流が全身に流れて偽奥平が叫びをあげると、そのまま撃破されて消え去る。

「それじゃあ、あたしゃは残りを倒すさね。デルタアタック!」
「ばぎゃああああ!?」

 最後の一人はキャサリンが難なく倒し、偽奥平は全ていなくなった。すると、墓地の霧が晴れて、前方に扉が現れる。この大部屋をクリアしたということだろう。

 所詮、奥平だったな。

 そんな酷い事を思いながら、俺たちは一応本物の奥平の復活を待った後、大部屋を出た。

「ぶひゅぅ。酷い目に遭ったんだな。まさか自分に殺されるとは思わなかったんだなぁ」
「奥平さん、次エッチな風を起こしたらビリビリしますからね!」
「ぶひゃ!? え、冤罪なんだなぁ!?」

 姫紀はあの風が相当恥ずかしかったのか、奥平に電流イライラ棒を見せつけて忠告をする。それに対する奥平は当然身に覚えが無いので、焦りながらも冤罪を主張した。

 まるで、電車で冤罪を突きつけられる会社員のようだな。

 俺は二人を見てそう思いながら、前方に視線を向ける。そこには当然、南の回廊が続いていた。

 この回廊を抜ければ、ようやく長かった第四試練も終わりだな。しかし、最後の最後で何が起こるのか分からない以上、気を引き締めて行こう。

「そろそろ先に進むぞ。この回廊が最後なんだ、集中していくぞ」
「わ、わかったんだな!」
「あいさね!」
「わかりました!」

 そうして、俺たちは南の回廊を進み始めた。

「ギョギョ!」
「ウォッ!」
「ギョベベ!」

 しばらく進むと、案の定サハギン達が現れる。だが、今更サハギンなど相手になるはずもない。

「ウインドスラッシュ!」
「デルタアタックさね!」
「マジックショットなんだなぁ!」

 俺も加わり三人でスキルを発動すれば、サハギン集団は瞬く間に消え去っていく。

「ギョエーッ!」
「ウェオーッ!」
「ギョエーッ!」

 この程度なら、相手にもならないな。

 その後に現れるのは、普通のサハギンかサハギンリーダーくらいのもので、俺たちは破竹の勢いで進んで、簡単に最後の門まで辿り着く。だが、そこには敵が待ち構えていた。

「……ギョ」

 あれは、キャサリンが大部屋で戦ったサハギンエリートじゃないか?

「ここにきて、サハギンエリート。何だか因縁を感じるさね」
「やっぱり、あいつは普通のサハギンと雰囲気が違うんだな」
「確かに、まるで武人のようですね」

 サハギンエリートは決闘だと言わんばかりに、俺のことを指さして手招きをする。もしかしたらこの中で、一番強い者を見抜いたのかもしれない。

 ほう。それは面白そうだな。

 俺は乗り気になって赤鬼の小太刀を握りしめると、一歩前に出ようとした――その時だった。

「マジックショットなんだなぁ!」
「ぎょ!?」

 奥平の不意打ちを見事に喰らったサハギンエリートが、床を転がっていく。

「……」
「あんまりさね」
「これは酷いです……」
「ゆ、油断しているのが悪いんだな!」

 奥平は場の空気に耐えられなくなったのか、開き直ってそんなことを口にする。

 まあここは決闘とか関係なく、全員で一斉にかかるのが正解だよな……。

 俺は溜息を吐きながらも、最終的にサハギンエリートに四人で攻撃することに決めた。

「これは試合じゃない、試練だ。全員でかかるぞ」

 そうして、サハギンエリートは哀れにもなすすべもなく倒される。

「……ギョフッ」

 最後の言葉が、どこか悲しそうだったのは気のせいだろう。

「なんだか、かわいそうでしたね」
「決闘、受けてやればよかったさね……」
「ぼ、僕ちんは何も悪くないんだなぁ!」

 キャサリンと姫紀はサハギンエリートを哀れだと思い、奥平は自分は悪くないと言い張った。

 サハギンエリートとは戦ってみたかったが、仕方がないか。

 その後サハギンエリートが完全に消え去ると、その後ろで存在感を放っていた最後の門が開く。

「これでクリアだ。みんな行くぞ」
「了解なんだな!」
「あいさね!」
「行きましょう!」

 俺たちは開いた門を潜る。するとそこは、この回廊の中央にあった日本庭園だった。その光景を見て、もしや追加で強敵が現れるかと身構えたが、そんなことは無く、クリア画面が現れる。

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 第四の試練『生贄の回廊』コンプリート!

 獲得EP
 ・仲間を生贄に捧げる+300EP×3=900EP
 ・大部屋クリア+250EP×4=1,000EP
 ・サハギン撃破+10EP×100=1,000EP
 ・サハギンリーダー撃破+30EP×30=900EP
 ・サハギンエリート撃破+50EP×2=100EP
 ・コンプリートボーナス+2,000EP

 獲得合計5,900EP

【コメント】
 えぇ。嘘でしょ……。この試練コンプリートしちゃったの?
 途中退場前提だったのに……。
 もう貴方たちがEP獲得数で一位でしょ。
 だってこの試練の合計EPだけで、およそ普通なら三試練分だよ?
 調子に乗って作るんじゃなったよ。
 まあでも、一応言っておくよ。おめでとう。
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 5,900EP? まさかの数字だな。これまでの試練と比べてもかなり多い。

 第一試練が2,000EP、第二試練が2960EP、第三試練が2,800EPだった。それを考えれば、5,900EPは普通ではない。

 合計で13,660EPか。これを超えるチームがいないことを祈るしかないな。いや、コメントに5,900EPが普通の試練およそ三つ分だとあるから、一試合2,000EPだとしても、四試合で8,000EPか。

 俺は13,660EPというその結果に満足をした。

 そう考えると、俺たちのパーティはかなり優秀だということになるな。特に、奥平の固有スキルは反則だろう。

 第一試練と第四試練は、特に奥平の功績が大きい。奥平がいなければ、クリア出来なかった可能性が高かった。

 奥平には感謝をしておくか。

 そんなことを思いながら、俺たちはクリア画面の確認を終えると、しばらくしてその場から転移した。


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