東路回廊に来ると、最早ノーマルサハギンは現れることは無く、サハギンリーダーしか現れなくなった。
「ウェオーッ!?」
戦闘パターンが決まってきているので、奥平とキャサリンも苦戦することなくサハギンリーダーを倒していく。
「楽勝さね」
「ぶひゅひゅ、サハギンなんてもう敵じゃないんだな!」
この試練で、二人はだいぶ戦闘に慣れてきたな。正直俺も戦いたいが、パーティ全体の質が上がるのは無駄ではない。
「僕も戦ってはダメでしょうか?」
「姫紀にはまだ戦闘は早いな。普通のサハギンならともかく、サハギンリーダーと直接戦うのは止めた方がいい」
「そうですか……」
三つ目の大部屋で手に入れた電流イライラ棒を右手に持つ姫紀は、先ほどから戦いたくてうずうずしているようだった。しかし、これまで全く戦闘をしてこなかった姫紀が、いきなりサハギンリーダーと戦うのは危険だろう。
せめてゴブリン程度の敵なら、戦わせるのもありなんだがな……。
そんなことを思いながら、俺たちは進んで行く。そうして到頭、最後の生贄ポイントに辿り着いた。
「それじゃあ、行ってくるんだな」
「ああ、頼む」
今回も同様に、奥平は鼻歌まじりに生贄ポイントである黒い十字架に近づいて磔にされると、黒い炎に奥平が身を焼かれる。
「ぶひゃああああ!!?」
「奥平さぁああああああああん!!」
相変わらず奥平は痛みが無いのにもかかわらず、大げさな声を上げた。それにつられるように、姫紀の叫びが周囲に鳴り響く。
「これで、生贄ポイントは全て熟せたな。次の大部屋が勝負だ」
俺は一人そうごちる。本来ならば、これでプレイヤー側は最後の一人になっているはずだ。それに対する最後の試練。大部屋は生半可なものではないだろう。
「僕ちん復活なんだな!」
それから五分後、奥平が固有スキルの効果で復活を果たす。
なんだかんだで、奥平には世話にはなったな。奥平がいなければ、この試練は相当きついものになっていたはずだ。まあ、直接言うと調子に乗りそうだから言わないが。
俺は心の中で奥平に感謝をしながら、開いた門をパーティメンバーと共に潜る。
「次が最後だ。気を引き締めていくぞ」
「あいさね」
「はい!」
「了解なんだな!」
皆に声をかけて、門を抜けた東の回廊を進み始めた。
◆
おかしい。敵が全く出てこない。
東の回廊を歩いていると、モンスターが一匹も出てこなかった。周囲には波打つ音と、和風庭園から聞こえてくる鹿威しが静かに鳴り響いている。
「なんだか不気味さね」
「そうですね」
まるで、嵐の前の静けさだな。この先の大部屋が、それほどまで厳しいのかもしれない。
敵が出てこないとしても、俺たちは警戒を維持しながら東の回廊を進んだ。そうして、その後何も起こることが無く、最後の大部屋の前まで辿り着く。
ようやくこれで最後だな。どんな強敵が現れるのか、楽しみだ。
「みんな、気を付けていくぞ」
「どんな敵が出てきても倒して見せるさね!」
「僕ちんのマジックショットが火を噴くんだな!」
「サポートは任せてください!」
パーティメンバー全体が意気込みを口にすると、開いた扉から俺たちは大部屋に入る。
さて、どんな敵が来る?
大部屋に入ると、そこは薄暗い墓地のような場所だった。
「不気味なんだなぁ」
「敵はおばけでしょうか?」
「剣で斬れないと少し困るさね」
これまでと違う雰囲気に、緊張と不安が込み上げてくる。だが、それでも進まないわけにはいかないので、俺たちは何時敵が出てきてもいいように、警戒しながら奥へと向かう。
何だ? 敵が出てこない……この大部屋はなんなんだ?
どこか冷たい風が吹く暗い墓地だが、敵が一向に出てこなかった。更に、どれだけ歩こうとも終わりが見えてこない。
突破するには、何か条件があるのか?
そう思って墓石や枯れ木を確認しても変化は無く、クリア条件が全く分からなかった。
「どうすれば突破できるのか、分からないな」
「敵が全く出てこないさね」
「何だか怖くなってきました」
俺たちは、変わらない現状に頭を悩ませる。そん中、奥平が何か閃いたかのように笑みを浮かべた。
「僕ちん、分かっちゃったんだな! きっと、敵が出たくなるようにすればいいんだな!」
「それは、どういう意味だ?」
俺がそう訊き返すと、奥平はおもむろに墓石に手の平を向け、スキルを発動した。
「こうすればいいんだなぁ! マジックショット!」
「え?」
「罰当たりさね!」
なんと、奥平は墓石を破壊し始め、マジックショットを連発していく。
なるほど……確かに、墓石を破壊すれば何か出てきそうだが、何だか嫌な予感がするな。
しばらくそうして奥平が墓石を破壊していると、ようやく何もなかった大部屋に、変化が訪れる。
「あれは……」
俺たちの前方と左右を挟み込むように、見覚えのある黒い十字架が現れた。
「生贄ポイントなんだな」
「なんで……」
「な、何か現れるさね!」
黒い十字架が現れるや否や、それを背にするように人型の何かが出現し、徐々に形が整っていく。そして、最終的にその人型の何かは、これまた見覚えのある人物へと変化する。
「酷いんだなぁ!」
「僕ちんを生贄にするなんて!」
「苦しい、熱い、痛いんだなぁ!」
そこに現れたのは、三人の奥平だった。それぞれ怨み言を口に出している。
「奥平が出てきたぞ」
「これを倒す必要があるのかい?」
「ぼ、僕奥平さんとは戦えません……」
「僕ちん、こんな不細工じゃないんだな!」
本物の奥平は一人外れたことを言っているが、キャサリンと姫紀は戦うことを少し躊躇っているようだった。
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