032 獣人たちへの説得

「確かに死にかけたことを恨まないと言えば嘘になるが、これまでの獣人の扱いを考えれば襲われたのも納得することができる」
「なに? お前に何が分かる!」
「ほら、やっぱり恨んでいるにゃ!」

 俺はあえて恨んでいると言った。ここで恨んでいないと言う方が嘘っぽいからだ。当然、獣人の二人は警戒を強めた。しかし、話はここで終了ではない。

「獣人の扱いについてはエバレスの町に滞在し、ブラウの話を聞くことで少しは理解したつもりだ。そもそも、俺はこの国の人族ではない。だからお前ら獣人に差別意識はそもそも無いし、こうして行方不明になったブラウを探しにも来たわけだ」
「むっ……」
「でも……」

 俺の言葉を最低限聞く気にはなったのか、罵声を浴びせてくることは無くなった。それに加え、俺は一人ではない。

「そうです。ミカゲさんは獣人である私に良くしてくださいましたし、こうして奴隷狩りから助けて頂いたじゃないですか。べガルさんたちの境遇も理解していますが、ここは同族である私の言葉を信用していただけないでしょうか」

 ブラウが俺を信用できる人物だと、そう援護射撃をしてくれた。正直これはかなり助かるので、思わず笑みが浮かびそうになるが、寸前で何とか堪える。

「確かに、ブラウは同族で信用ができる。短い間だったが、お前の真面目さは理解している」
「も、もしそれで、こいつが良いやつだとしたら、あたしのしたことは……」

 よし、だいぶ揺らぎかけているな。ここはとっておきを出す場面だろう。

 俺はここで、大きな賭けに出ることにした。とっておきの情報とは、当然ベサルたちのことだ。

「実はブラウにも内緒にしていたことだが、俺は何人か獣人の子供を保護している。ベサルという名前に聞き覚えはあるか?」

 俺がベサルの名を口にした時だった。ベサルの父親だと思われる白い虎頭の男が、強い反応を示す。

「なっ!? ベサルだと!? そいつは俺の息子だ! おい、いったいどこにいる! ま、まさか監禁しているのか!!」
「お、落ち着け!」

 ものすごい勢いでまくし立て、俺に掴みかかってきた。

「ぬっ、すまない。だが、もう二度と会えないと諦めていた息子の名前が出たのでつい……どうか、ベサルに合わせてくれないだろうか。俺にできることなら何でもすると約束をする」
「あ、ああ、当然会わせよう。だが条件がある。ベサルは今俺の隠れ家にいるんだが、そこに来てもらうことと、決して情報を他者に漏らさないことを約束してくれ」
「わかった! 我がべガルの名にかけて誓おう。もし違えれば、この命いかようにしてくれても構わない!」

 相当ベサルに会いたいのか、べガルと名乗った白い虎頭の獣人は、誓いを口にする。

 まあ、来たら最後外に出すとは言っていないがな。仮に出るとしても、ホームに戻ってくるように仕向けるか。

「あ、あたしも連れて行ってほしいにゃ! ベサルはあたしにとって、弟みたいな子だったにゃ! あたしも当然、我がノワレの名にかけて誓うにゃ!」

 すると、それを聞いていた黒猫の獣人少女、ノワレも誓いを宣言した。

「ミカゲさん、それ本当ですか!? やっぱり貴方は私の知るこの国の人族と違いますね! 私もついて行っても良いですか? もちろん、他言しないと誓います!」

 続いてブラウも誓いを口にする。だが、ブラウはルチアーノの元へ送り返す必要があったので、少しホームに連れて行ってもいいかと考えたが、ここで一人だけ連れていかない訳にもいかず、了承することにした。

 ブラウから最悪ルチアーノに情報が渡る可能性もあるが、仮にそうだとしても、ルチアーノなら悪いようにはしないだろう。もし何かあれば、それこそ逃げればいい。エバレスの町には未練はないしな。

 いずれ能力については、遅かれ早かれ知られるのは仕方ないと考えていたので、もしもルチアーノに気づかれた場合には、素直に諦めることにする。

「わ、我々も同伴してもよろしいでしょうか?」

 俺の話を聞いた残りの獣人たち四名も、こうしてベサルのいるホームへとついてくることになった。

 よし、全員来るようだな。下手に何人か残られる方が面倒だ。

「わかった。これから俺の隠れ家に案内するが、その前にまずはこいつらの身包みを剥がないか?」
「え? ああ、了解した」

 こいつら装備が整っているし、剥がなきゃ損だよな。

 俺の言葉に獣人たちは戸惑いながらも、冒険者風の男たちから装備を剥ぎ取っていく。それを一か所に集めてもらい、獣人たちの目の前でホームの倉庫へと転送して見せた。

「なっ!?」
「物が消えたにゃ!?」
「これはいったい!?」

 ブラウも含め、当然獣人たちは目の前の現象に、驚きを隠せないようだ。これからホームに連れていく関係上、見せても問題ないと判断をした。

「これは、俺のスキルの一端だ。隠れ家に転移することができる。ちなみにこれも、内密に頼むぞ」
「て、転移!? そんな貴重なスキルを持っていたのか!?」
「す、凄いにゃ……」
「転移なんて、最上位ランクのスキルじゃないですか、勇者級ですよ……もしかして」

 ブラウが何かに気が付いたようだが、知らんふりして説明を始める。

「悪いが一度に全員を転移するには、一か所にまとまってもらう必要がある。全員移動してくれ」
「わ、わかった」
「了解にゃ」

 そう指示を出して、俺も含めて合計八人が一か所に纏まるようにして集まった。獣人の子供の時とは違い、現在では完全に接触していなくても、転送することができるようになっている。

「よし、では俺の隠れ家、ホームに転移するぞ」
「頼む」
「緊張するにゃ」
「転移をこの身で体験出来る日がこようとは……」

 そうして俺は獣人たちを連れて、ホームへと転移した。


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