直感を頼りに森の奥へと進むが、一向にブラウを発見することができない。
くそ、やはり直感だよりで探すのは無謀だったか……。
徐々に俺は不安を覚えていくが、他に方法もないことも事実なので、森の中を駆け抜けていく。だがその時、あることに気がついた。
この方向……もしかして。
現在進んでいる方向の先に、とある集団がいることを感じ取った。それは、かつて俺を殺そうとした獣人集団だ。
なるほど。可能性はあるな。
目印の石から魔力を感じ取り、獣人集団がここからほど近いところにいることを理解した。このまま進めば、鉢合わせる可能性が高い。
どうする? 獣人集団のところにブラウがいるとすれば、殺されているということは無いはずだ。むしろ保護をされているのだろう。なら、このまま引き下がるのも手だが、ブラウがいる確証もない。最低限確認だけでもするか。それに、そろそ頃合いだと考えていたしな。
俺は覚悟を決めると、獣人集団のいる場所へと駆けだした。そして、到頭それを発見する。
「くそ! 人族ども! お前らに人の心は無いのか!」
木々の開けた場所に、見覚えのある白い虎頭の男が、鉄の剣を持って怒号を発していた。その背後に、幾人か獣人の姿も見える。
「はっ! 獣人は人じゃねえだろ!」
「そうだぜ! お笑いだ!」
「こいつが殺されたくなければ、おとなしくしてな!」
それに対するように、装備の整った冒険者風の男たちが複数人おり、人質として女性獣人の喉元に剣を突きつけていた。
「みんな、あたしのことは気にしにゃいで、こいつらを殺すにゃ!」
「うるせえ! 口を開くな!」
「ぐにゃっ!」
口を開いた黒猫のような特徴を持つ獣人の少女は、冒険者風の男に顔を殴られてあざを作る。
あの特徴的な語尾、もしかして俺の背後から心臓を突き刺したやつか?
思い出すのは、街道で襲われた時に最後、俺の背後から剣を突き刺すと共に、『恨んでくれて構わないにゃ』という言葉を残した存在だった。
どういう訳か知らないが、今はそいつが捕まっているということか。だがそれよりも、ブラウがいるのかが問題だ。
俺は茂みから身を隠しながら周囲を確認すると、獣人側にブラウがいることを確認することができた。やはりというべきか、獣人集団に保護されているようだ。
「ノワレさん! くっ、私が奴隷狩りにあったばかりに……」
「ブラウ、お前のせいじゃねえ、あの人族が卑怯者だっただけだ」
思った通り、ブラウは一度奴隷狩りにあったようだ。それがどういう訳か、獣人集団に助けられ、その内の一人が人質になる状況に繋がったらしい。
ブラウの消息が絶たれたのが昨日だと考えると、ブラウが助けられてからそれほど時間は経っていないのか?
俺はそんな事を考えながらも、状況を見守る。
「おいおい、顔は殴るなよな。後で楽しむときに萎えるじゃねえか」
「ははは、そりゃすまねえ!」
「お前はいつも獣人をボロボロにする。それは悪い癖だぞ」
男たちはまるで罪悪感は無いようで、楽しそうにそう笑い合う。
「くそっ、下種が……」
「ど、どうすれば……」
獣人たちは、人質を取られてなすすべが無いようだった。実際黒猫の少女以外にも、何人か捕まっている。
冒険者風の男は七人、獣人たちはブラウを含めて四人か。人質三人に同数の男がつくとしても、数的には四対四で拮抗しているな。
「お前ら、いい加減に武器を捨てろ! でなければ、見せしめに一人殺してもいいんだぜ?」
「そうだなぁ、このおっさんなんてたいした金にならないだろうし、こいつを処分することにするか」
男の一人が四十代ほどの獣人に刃を向けた瞬間だった。
「ま、前て! わかった。言う通りにするから殺さないでくれ!」
「べ、べガルさん、それじゃあ……」
「くっ、すまない」
そう言って獣人たちは武器を地面へと捨てていく。どう考えても悪手だが、仲間を見捨てられなかったのだろう。
愚かな奴らだな。少を犠牲にして大を生かすべきだが、まあそれができれば苦労はしないか。
「へへへ、それでいい。おい、お前らおとなしくしてろよ」
冒険者風の男たちが勝ち誇ったように笑みを浮かべると、そこから四人が動き、ブラウたちの元へ向かった。当然、人質側に残る男は三人となる。
やるなら、今しかないな。
俺は覚悟を決めると、人質側に素早く移動して、背後から男の一人をスラッシュで斬りつけた。
「え?」
男は首と胴体が離れ、即死する。その状況に呆気に取られていた残りの男二人にも、同様に斬りかかった。
「ぐえ!?」
「なっ」
相変わらず異常な切れ味を発揮するスラッシュによって、難なく二人の男を斬り伏せる。
「おい、何をぼさっとしている! 反撃の時だろ!」
「ッ! うおぉおおおお!!」
「なにっ!?」
俺が激を飛ばすことで、獣人たちはそれに突き動かされて武器を拾うと、未だに動揺を隠せないでいる男たちに襲いかかった。
「我らの恨みを思い知れ!」
「卑怯どもを始末しろ!」
「人族を殺せ!」
そこからは一方的であり、冒険者風の男たちはなすすべもなく倒されていく。
「こ、こんなはずでは……獣人愛者め……」
最後に残った男が俺を睨みつけてそう言うと、息絶えて地に伏した。これで、冒険者風の男たちは全滅したことになる。
問題は、ここからだよな。
「お前は、あの時死んだはず!?」
「確かに、あたしが殺したにゃ! なのに生きているなんて、ありえないにゃ!?」
獣人たちは警戒して俺から距離を取ると、白い虎頭の男と、黒猫の少女がそう言葉を口にする。そんな中で、一人だけ刺々しい態度ではない人物がいた。当然それは、ブラウのことになる。
「み、ミカゲさん! どうしてここに!? あ、もしかして、助けに来てくれたんですか! み、みなさん、この方は大丈夫です。私はこれまで、このミカゲさんに何度も助けられたんです。ですから、どうか矛を収めてください!」
ブラウはそう言って、獣人たちを説得し始める。
「どういうことだ? こいつは人族だぞ!? 助けたのもの、何か裏があるに違いない!」
「そうにゃ、それに、こいつはあたしらのことを恨んでいるはずにゃ!」
ブラウが説得を試みたところで、獣人たちの警戒が解かれることは無かった。
まあ、殺したと思っていた相手が生きていれば、復讐をしに来たと思うよな。だがそれも、間違ってはいない。
俺は、この状況をどうやって利用するべきか考えていた。獣人たちを助けたのはブラウのついでであり、見殺しにするよりも、恩を売った方が得策だと思ったからだ。
ホームの牢獄はまだ完成していない。こいつらを上手くホームに誘き出すためには、こいつらの警戒心を薄れさせて、来たいと思うようにしなければならないな。復讐は大事だが、感情よりも利益を優先するべきだろう。魔力の徴収を増やす方が、得策だ。
ホームで獣人たちを飼いならせば、魔力が多く手に入ることになり、実質俺自身を強化することに繋がる。獣人の子供たちだけでは魔力の収入が少なすぎる事を考えれば、復讐よりも先に、獣人たちを囲い込む方が先決だと考えた。
それにそうなれば、復讐はいつでもできる。むしろ、俺に利用されていると気が付かれずに、感謝させるのも一興か。
俺はそう決断すると、獣人たちをどのようにしてホームに導くか、思考を巡らせ始めた。
コメントを残す