033 親子の再会と売り込み

「あんちゃん、帰ってき……父ちゃん!」
「べ、ベサル! ベサルなのか!」

 ホームに戻ってくると早々に、ベサルとべガルは鉢合わせ、互いの無事を喜び合う。

「ぱぱー」「おじさんだー!」「村のみんなだ!」

 それにつられて、他の子供たちも集まってきた。中には、父親や親戚の人物がいたようであり、感動で涙を流す者までいる。

「す、凄い。転移もそうですが、子供たちの保護も素晴らしいです」

 ブラウも、目の前の光景に良かったと涙を流し始めた。

 これはなかなか、恩が売れそうだな。この場所に残ってもらえる確率が増したかもしれない。

 俺がそんな皮算用をしていると、そこへエレティアがやってくる。

「カミ」

 どうやら、新しくやってきた獣人たちに警戒しているようで、俺のそばに近寄ると、何が起きても守るといわんばかりに、俺の右後ろで待機をし始めた。

「なっ!? そいつは教会の者じゃないか! どういうことだ!」

 やはりというべきか、ベサルのときと同じようにエレティアを見て、べガルは嫌悪感と警戒心をあらわにする。当然予想済みなので、ベサルも交えて説明をすることにした。今ではベサルたちもエレティアに対して仲間意識を持っており、肯定的だ。

「こいつは姿こそ人族の教会関係者だが、今で人族ではなく、ゾンビという魔物の一種だ。更に俺がこいつを従えている。既存の神への信仰を辞め、今では俺を信仰しているほどだ。だからこのエレティアは、人族でもないし、教会関係者でもない」
「そうだぜ。それにエレねえちゃんは、こう見えて優しいんだ。俺たちの面倒を見てくれるし、いつも怪我をしないか心配してくれんだ」

 俺とベサルは、エレティアを受け入れてもらえるように、獣人の大人たちを説得した。

「むぅ。すぐには信じられないことだが、貴方は恩人だし、息子であるベサルがそういうのなら、納得はしよう」
「こいつ、本当にゾンビなのかにゃ? 全然欠損していないし、臭くもないにゃ」
「魔物を従えるのって、この国じゃ邪教徒指定されるんじゃ……」

 べガルとノワレは俺を信用してくれたのか、概ね肯定的な反応だ。しかしブラウはそれとは別に、魔物を従えていることの方が心配のようだった。

「ブラウ。魔物を従えるのは何か問題なのか?」

 俺は思わず、ブラウにそう質問をする。仮に問題のあることならば、色々と考え直さなければいけない。

「あ、はい。魔物は邪のものであり、それを従えるのは邪神信仰をしていると捉えられてしまいます。邪神は主に魔族が信仰している神で、詳しくは分からないのですが、魔物を生み出したのも、その邪神だとアウペロ教では教えられています。つまり、このエレティアさんが教会の者に見つかった場合、最悪ミカゲさんは邪教徒指定をされて、大陸中に指名手配されてしまいます」
「そこまで不味いのか……」

 エレティアの正体は、今後益々知られるわけにはいかなくなったな。

 魔物を従えることがそこまで重大な事だと知らなかった俺は、今後のプランを一部変更せざるを得なかった。

 そのうち魔物を支配契約して、パーティに組み込む予定だったが、それは見直す必要があるな。くそ、面倒なことになった。

 俺が思考を巡らせていると、そこにべガルが真剣な表情で話しかけてくる。

「我々は貴方に助けられたし、子供たちを保護してくれた恩もある。そして、我々は獣人を差別する教会を憎み、当然アウペロ教の信仰はしていない。つまり、貴方が魔物を従えようと、我々は気にすることはありません」
「そうにゃ、あたしたちは少し違うからって、教会と違って差別なんてしないにゃ!」
「そ、そうか」

 どうやら俺が悩んでいると思ったのか、獣人たちが何も問題はないと励ましてくれた。

「もちろん私も、ミカゲさんが魔物を従えていても、気にはしません。この秘密は墓まで持っていきますよ!」

 ブラウも、エレティアのことについては内緒にしてくれるらしい。

 魔物を従えること自体がいけないことだとは、知らなかったな。この世界では当たり前すぎて、逆に知る機会がなかった。こういった当たり前のことで、今後何か問題が発生する可能性があるな。

 そんな心配をしつつも、エレティアについてのは話はここで一旦終了とすることにした。現状では、それよりも重要なことがある。

「魔物のことについては理解した。みんなありがとう。それよりも、今後のことについて話さないか」

 俺がそう言葉を切り出すと、獣人たちは真剣な表情で耳を貸す。それを確認すると、俺は続いてある提案をすることにした。

「もしよければだけれど、獣人たちはこの隠れ家、ホームに移り住まないか? ここは確実に安全だと言えるし、敵に発見される可能性も限りなく低い」
「それは……本当に安全なのか?」
「確実なんて言われても、そう簡単には頷けないにゃ……」

 当然、移り住むことについては難色を示す。獣人たちは既に拠点を確保しているだろうし、現状安全なのだろう。そこを離れるだけの要因としては、まだ弱いらしい。

 まあ、そうだろうな。しかし俺のホームの安全性は確実だ。何しろ入り口は閉じているし、移動手段は現状俺の転送と、召喚だけだからな。

 獣人たちが納得してくれるように、俺は能力の一部を開示することに決めた。

「確実に安全だという理由をまずは話そう。第一に、このホームには出入口が無く、俺の転移、正確には転送と召喚だが、その方法以外には現状、このホームに出入りする術はない。これについては実際に、ホーム内を見てもらった方が早いだろう」
「出入口が無いのか?」
「それなら、敵は入ってこないにゃ」
「確かに、それなら安全そうですが、生活すると考えると……」

 何故かブラウも移り住むことについて真剣に考えているようだが、それを無視して、俺はホーム内を案内し始めた。

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「つまり、このホームには無限に出続ける水飲み場はあるし、定期的に実が復活するリプルの木がある。それに加え、俺が手伝えば外に買い物や狩りに行くことだって可能だ」

 俺は獣人を引き連れて回り、ホーム内に住む利点を説明した。ちなみに、リプルの木は魔力を送ることで、実が復活するのは実証済みである。

「す、凄いな……これなら、移り住んでも良いかもしれない」
「少し狭いのが問題だけど、安全性と便利さを考えれば問題ないにゃ」
「無限に出続ける水とリプルの木……出鱈目すぎますよ……」

 べガルとノワレは移住に肯定的になり、ブラウはその異常さに放心しているようだった。

 現状では狭いが、それも魔力が徴収出来れば、拡張することができる。このことも、アピールポイントとして教えておいた方がいいか。どうせ移住すれば、いずれ見せることになるだろうしな。

「狭さについても解消することができる。そもそも、このホームは俺のスキルで生み出した空間だ。条件はあるがこのように、拡張することも可能だ」

 そう言って、俺は壁の一部に廊下を創り出す。

「なっ!? 壁がかってに!?」
「道ができたにゃ……」
「あ、ありえませんよ……」
「へへ、あんちゃんはすげえだろ!」

 三人は開いた口が塞がらないようであり、何故かベサルは誇らしげだ。俺はそんな三人を尻目に、廊下を元の壁へと戻す。

「このように戻すことも可能だ。人数が増えれば、新しく部屋を作ることもできるぞ」
「す、凄すぎる。これなら、ここは我らの安住の地に成りえるかもしれない!」
「あたしは夢でも見ているのかにゃ。こんな条件の良すぎる場所、見つかるはずないにゃ」
「ミカゲさん、やはりあなたは……」

 ホームの将来性の高さも理解したことで、獣人たちはこのホームに移り住むことを、実質決定したようだった。ただ一人、ブラウだけが違う考えをしているようだったが。

 ブラウは、もしかしなくても俺を勇者だと勘違いしている節があるな。俺から話を切り出すことはしないが、尋ねられたら答えることにしよう。

 そうしてホームへの移住が、いかに魅力的なのかという説明を終了した。次はいよいよ、移住について獣人たちと詳しく話すことにする番だ。


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