025 その者の末路

「おいおい、まだ死ぬんじゃねえぜ! てめえには、まだ絶望してもらうんだからな!」
「ぐあっ!」

 ゴタロウはそう言って、黒栖からどす黒い長剣を抜き取ると共に蹴りを放つ。黒栖は抵抗できず、地面へと転がった。

「あぁ、いい気分だぜ! この剣は最高だ! お前はそこで精々虫けらのようにいずっていろいろ! ヒャハハハ!」

 その言葉通り、黒栖はまともに動く事ができない。というのも、どす黒い長剣に貫かれた直後に、なにか禍々まがまがしいものが黒栖の身体に入り込んだのだ。
 それによって、まるで身体は病魔に犯されたように重く、そして麻痺毒のごとく行動を阻害されていた。

「さて、後はお前の彼女ヒロインを引きずり出すだけだが、どうやら間抜けにもこっちへ来るみたいだぜ?」
「なにッ!?」

 黒栖は思わず声を上げる。自分が殺されそうになったとしたら、きっと白羽は来てしまうだろうと予想していたのだ。しかし、実際それが現実となれば、たまったものではない。

 窮地きゅうちの状況に加え、まるで自分を殺す為だけに作られた、あのどす黒い長剣があるのだ。部分転移のカウンターが破られた以上、白羽を守る手立ては無いに等しい。

「ヒャハハハ! 今どんな気分だ? お前の愛する存在が、わざわざ殺されにやってくる気分はよぉ!」
「黙れ!!」
「ヒャハッ! 怒ったのか! 怒っちゃったのかぁ? ヒャハハハ! いい気分だぜぇ!」
「クソがッ!」

 ゴタロウの挑発に、黒栖はあせりからか乗ってしまう。白羽がこのままでは殺されてしまう。打つ手はなく、回避できそうにはない。どうすればいい? いったいどうすれば白羽を救えるんだという思いが、黒栖の脳内を駆け巡る。

 しかし、負傷と焦り、ゴタロウの挑発などによって心がかき乱される中で、打開策が思いつくはずもない。そうしている間にも、恐れていた時が到頭やってきてしまった。

「黒栖君!」
「く、来るなッ!」
「ヒャハハハ!」

 黒栖の名を叫んでやってくる白羽、逃げてほしいという思いの黒栖、そして、待ちに待っていたゴタロウ。その瞬間が、黒栖には非常にゆっくりと感じられた。様々な記憶が、走馬灯のように呼び起こされる。

『狭間君を見ているとね、何故だかとても心配になる。だから、どうか生きていてほしい。そう思ってしまうの』『何も言わなくていいから。大丈夫だよ』『あなたの心の支えになりたい。だから、私を置いて行かないで』『もう他の女の子のところに行っちゃだめだからね。私だけを見ていて』『私はずっと、黒栖君の側いるから』『私を頼って。一人で考えるだけじゃ、苦しいだけだよ』『私も黒栖君の罪を一緒に背負うから、二人で考えよう?』『最後に一つだけ、どうか死なないで』

 黒栖は手を伸ばす。動かぬ身体をってでも、白羽を守らなければと。それと同時に、ゴタロウがどす黒い長剣へと、炎を纏わせ始めた。

 何もできないのだろうか、このままでは白羽を奪われてしまう。本当に自分は全力を出したのかと、黒栖は思考を加速させる。心の中の深淵しんえんを呼び起す。何か手は無いか、何でもいい、白羽を救えるのならば、なんだってする。黒栖は、自身へと強く訴えかけた――その時。

『デスハザードはね。正義の味方なんだよ。だから、人質をとられた時は、この技を使うんだ。それはね――』

 声が聞こえた。明るく、はきはきとしたまぎれもない自分の声。まるで自分とは全く雰囲気が違う。だが問題はそれではない。見つけたのだ。手段を。

「ヒャハッ! くらいやがれッ! フレイムソードジャベリンッ!」

 ゴタロウがどす黒い長剣に炎を纏わせ終わると、それは炎槍えんそうと成りて、白羽に向け放たれた。命中すれば、白羽は跡形もなくなるだろう。そう、命中すれば。

次元の略奪者ディメンションスナッチ!」

 黒栖が、その言葉と共にひったくるかの如く、右手を振るった。その瞬間、白羽に放たれたゴタロウの攻撃は、次元ごと引き寄せられる。そう、ゴタロウ・・・・に向けて。

「あ? ――がぁああああああッ!?」

 ゴタロウは、自らが放ったフレイムソードジャベリンによって、その身を焼かれる。逃れようと必死にもがくが、身体に突き刺さったどす黒い長剣がそれを許さない。そして最後には、僅かに人としての原形を留めた何かと、それに突き刺さって直立している、どす黒い長剣だけが残った。


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