彼女殺しのデスハザード

 狭間黒栖はデスハザードとして、自分とは関係の無い異世界のヒロインを殺し、その世界にいる主人公格の人物を覚醒させ、覚醒エネルギーを手に入れるという役目を背負っていた。しかし、因果応報だろうか、下校中クラスメイトの天橋白羽が発したデスハザードという名をきっかけに、物語は動き出す。並行世界から現れたデスハザードが白羽の命を狙い、それを退けると次は黒栖がデスハザードとして、並行世界の白羽を殺さなければいけなくなる。生き続けるために白羽を守り、白羽を殺すという矛盾に苦悩しながらも、二人は支え合い、いつしか真相へと辿り着く。

 

  • 001 一線を越えた世界

    「えっ……」 不意に背後から|貫手《ぬきて》による攻撃を受けた少女は、僅かに声を|漏《も》らした。その貫かれた|個所《かしょ》は確実に少女の心臓を捉え、死に至らしめる。「ゆ、ユリス!」 突然の出来事に少年は声を上げた。しかし、攻撃した何者か…

  • 002 宿命の始まり

     場が沈黙する。部外者のいない通学路に、|黒栖《くろす》と|白羽《しろは》を観察するかの|如《ごと》く、デスハザードの白い単眼模様が二人を見つめていた。 それはほんの僅かであるが、黒栖と白羽には永遠に感じられる。 その中で、黒栖はこの状況に…

  • 003 嵐の前の静けさ

     黒栖は自分の通う高校、|陸央《りくおう》高等学校から、徒歩二十分のところにある1Kマンションの二階に住んでいる。 あれから無事に帰宅した黒栖は、ドアポストに入っている封筒を手に取った。 そこには、数枚の一万円札が入っている。これは異世界に…

  • 004 並行世界での戦い

     黒栖、いや、デスハザードの視界には、見覚えのある教室が映り込んでいた。 茜色に染まる空からは、光が差し込んでいる。「なっ!?」「う、嘘……」 すると、不意に声を駆けられた。デスハザードは左方へと体を向ける。そこには多少癖のある黒髪に、僅か…

  • 005 帰還後の学校

    「……くそがっ!」 自分の世界に戻ってくると、黒栖はそう言わずにはいられなかった。 握りしめた両手から僅かに血が流れる。 救う事ができなかった。いや、そもそも救う事はできないのだ。「……そうだ。白羽は」 思わず、視界を飛ばして白羽の安否を確…

  • 006 知ってほしい想い

     どうしたものだろうかと、黒栖は溜息が出そうになる。 現在、黒栖の自宅には白羽がいた。部屋をキョロキョロと見渡しながらも、緊張した面持ちでベッドに腰かけている。 黒栖といえば、椅子に座り両手を膝に置く姿勢は、まるで就職面接を控えた者のようだ…

  • 007 伝わったからこそ

     黒栖と白羽は、お互いに死んでほしくないと思っている。確かな絆が生まれた瞬間だった。 しかし、それをあざ笑うかの如く、それは起こる。 前兆。それは黒栖をデスハザードとして、異世界に呼び寄せるもの。「……どうやら、行かなければならないようだ」…

  • 008 ドツボにはまる

     とあるビルの屋上に、黒栖はいた。 日はとうに過ぎ、今は翌日の昼過ぎだ。 何故このような場所にいるのか、黒栖もよくは理解していない。あえて言えば、心にぽっかりと穴が空いたようであり、それを紛らわすため、どこか高いところで風にあたりたかったの…

  • 009 愚かなる閃き

     おしゃれなカフェに、|黒栖《くろす》と|姫紀《ひめき》は向かい合わせで座っていた。 姫紀はホイップクリームに、様々なフルーツが盛り合わせてあるコーヒーゼリーを、幸せそうに頬張っている。 そう、プリンではなく、コーヒーゼリーだ。このカフェの…

  • 010 迫られる選択

    「……」「……」 黒栖は|咄嗟《とっさ》の行動だったとはいえ、姫紀を抱き寄せた。その事に後悔はない。 しかし、今までに感じた事の無い、取り返しのつかない感情に襲われ、言葉を出すことができなかった。 白羽もあまりの出来事に、黙り込んでしまう。…

  • 011 選択の結果

     自宅を出た黒栖は、現在白羽を追いかけている。  白羽を追いかけて、いったいどうするというのか。追いかけないのが正解のはずだと、黒栖は自分にそう問いかける。 しかし、理性ではそう分かっていながら、実際は逆のことをしている。 追いかけて、白羽…

  • 012 能力値の割り振り

     黒栖は使い慣れてきた覚醒エネルギーを纏う。黄金の光が黒栖の身体をを包み込み、能力を引き出す。「くっ!」「死ねぇ!」 正面から受け止めたデスハザードの手刀。その戦い方は、黒栖の知るデスハザードとは、少々違う感じがした。 そう、デスハザードも…

  • 013 校庭での死闘

     黒栖は、自らが通う高校、|陸央《りくおう》高等学校の校庭に転移してきた。 隔離された人のいないその場所に、デスハザードの姿が無い。「くたばれ!」「!?」 その瞬間、背後からデスハザードの声と共に手刀が迫る。デスハザードは、黒栖が転移してく…

  • 014 自業自得

     隔離された場所から無事に戻って来た黒栖は、元々いた公園のベンチに座っている。 戦いには勝利したが、これで最悪な事態が二つも判明してしまった。 それは、デスハザードが現れるのは一度だけでは無かった事、そして、白羽と離れていても現れるという事…

  • 015 二人の想い

    「あの女の子はいないんだね」「っああ、あいつは金で雇っただけだ」 入って早々の言葉に、黒栖は慌ててそう答えた。しかし、それが誤解を招く結果となる。「え……お金で作った関係……?」「い、いや、違うぞ! 何か勘違いをしている!」「勘違いって………

  • 016 赤面の勘違い

     一つ問題が解決すれば、即座に次の問題が現れるのは、世の必然だろうか。「え? という事は、黒栖君はずっと私の事を監視していたの?」「あ、ああ」「もしかして、着替えやお風呂、それに、お、おトイレも……?」「待ってくれ、流石にそこまで覗いてはい…

  • 017 一つ屋根の下

    「それでその、今日は私が黒栖君の家に泊まるって事でいいのかな?」 白羽は、緊張しながらも、そう話を切り出す。今になって意識し始めたのか、つい周囲に視線を動かしてしまう。「いや、転移の事を考えれば、白羽の家の方がいいと思う」「そ、そうだね」 …

  • 018 道化の男

     翌朝、黒栖は何事もなく目が覚めると、即座に自宅へと帰ろうとしたが、そこは白羽に止められ、朝食をごちそうになる。 食パンに、生ハム、サラダとスクランブルエッグなど、手軽なものだが、どれも美味であり、黒栖は瞬く間に完食した。 その後、白羽がお…

  • 019 最悪の呼び出し

     教室に入ってからしばらく、黒栖の周囲は大変騒がしかった。 というのも、以前金魚の糞の|如《ごと》くつきまとってきた者たちと、旺斗を見限って黒栖に鞍替えしようとした者たちが、黒栖に媚びを売って来たのだ。 最早、旺斗のクラスカースとは地に落ち…

  • 020 それぞれの覚悟

     デスハザードとしては、二度目となる並行世界。 その場所は河川敷であり、川を越えれば、すぐそこは隣町である。 目の前には当然、並行世界の黒栖と白羽がいた。既に|疲弊《ひへい》しきっているのか、並行世界の黒栖の息は荒く、まるで先ほどまで戦って…

  • 021 復讐を願う者

     そこは、砂漠地帯だった。肌を焼くような暑さに、砂丘以外には変化のとぼしい場所。人が生きるには、厳しい環境だ。 しかし、その過酷な砂漠地帯に、三人の男女がいた。そして、そのうちの一人、尖ったような硬い髪質の茶髪に、悪戯好きに見える顔立ちをし…

  • 022 因果は巡る

     二回目の並行世界を経て、その翌日の土曜日黒栖と白羽は、現在商店街に来ていた。 その道中、白羽がとあるおしゃれなカフェが気になり、今は黒栖と共に休憩中だ。もちろんそのおしゃれなカフェとは、以前黒栖が姫紀と来ていた所である。 白羽が注文したコ…

  • 023 二人の誓い

    「おらッ! フレアボム!」 初手を放ったのは、ゴタロウだ。火の魔法を有しているのか、左手からバスケットボール程の火の玉が黒栖めがけて飛んでくる。「白羽、飛ぶぞ!」「え!?」 だが、それをわざわざ迎え撃つ気は黒栖にはない。白羽の手を握ると、手…

  • 024 黒栖VS復讐者

    「てめぇ、俺から逃げられると思っている訳じゃないだろうな? 俺はお前を絶対に許さねえ。例え逃げ続けたとしても、お前を追い続けてやる」 ゴタロウが校庭に辿り着くと、額に青筋を浮かべながら、黒栖にそう言い放つ。「そうか、だがもう逃げないから安心…

  • 025 その者の末路

    「おいおい、まだ死ぬんじゃねえぜ! てめえには、まだ絶望してもらうんだからな!」「ぐあっ!」 ゴタロウはそう言って、黒栖からどす黒い長剣を抜き取ると共に蹴りを放つ。黒栖は抵抗できず、地面へと転がった。「あぁ、いい気分だぜ! この剣は最高だ!…

  • 026 戦いのあと

    「黒栖君ッ!」「白羽……」 ゴタロウに勝利したものの、黒栖が重症という事実には変わらず、急いで駆け寄った白羽が、黒栖の上半身を支えるように抱きしめる。「どうしよう、どうすれば」 白羽は未だに流れ続ける黒栖の出血を見て、動揺を|露《あら》わに…

  • 027 どす黒い長剣

     白羽が気を失うとそれに合わせたかのように、残りの球体が消滅する。そしてその場に残されたのは、あのどす黒い長剣だけだった。「クソッ、どうすれば」 黒栖は白羽を抱きかかえながら、いったいどうなってしまうのかという、|漠然《ばくぜん》とした不安…

  • 028 戦う理由

    『あの方は、試練を司っておる。それによる報酬が、先か後かの違いはあるがの』「それはどういう……」 どす黒い長剣が話す内容に、黒栖はとてつもない嫌な予感がしていた。試練と報酬。では、この地獄のような現状とは――『お主も気がついたであろう。そう…

  • 029 繋がった記憶

    「白羽、もう大丈夫なのか!」 黒栖はソファから立ち上がり、白羽と向き合う。すると黒栖は、白羽の様子がいつもとはどこか違うような、そんな違和感がした。「黒栖君……あなたは本当に黒栖君なの?」「え?」 白羽が問い掛けてきた内容は、そんな突拍子も…

  • 030 幸せの温もり

    「な、何を突然言っているんだ!?」 白羽の言葉に、黒栖は思わずそう言葉を返す。しかし、それに対して白羽は一歩も引く気はない。「私は本気だよ? だってね、記憶を思い出した事で、今がどれだけ幸せな時間なのか気がついたの。だから、その幸せを少しで…

  • 031 技の開発

    「|次元の略奪者《ディメンションスナッチ》」 黒栖はその言葉と共に右手を前方に振るうと、能力が発動しておよそ五メートル離れた場所にあるもの、クマのぬいぐるみが一瞬にして黒栖の右手に収まる。「わっ、すごい!」「そうか?」「うん!」 それを間近…

  • 032 壊れた世界

     黒栖がデスハザードとして、並行世界に姿を現す。周囲を見渡すと、どうやらその場所は白羽の自宅のようだった。「ん?」 しかしそこで、デスハザードは何とも言えない違和感を覚える。いや、違和感と言うよりも、確実におかしかった。白羽の自宅には、見覚…

  • 033 タイムリミット

    「――ッ、はぁ、はぁ……」 気がつけばデスハザードは、この並行世界に来る前にいた場所、学校の屋上にいた。隔離世界にいる以上、周囲に人の気配は存在しない。「無理だ……俺には、できない……」 そう言葉を口にして、頭を抱えるデスハザードは、どうし…

  • 034 幸せなひと時

     並行世界で白羽を殺すことができないまま、黒栖は元の世界にある学校の屋上に戻ってきてしまった。 身体からはタイムリミットを過ぎたことによるペナルティなのか、覚醒エネルギーが多く失われてる。それに伴って疲労感が襲い、肉体的にも、そして精神的に…

  • 035 絶望的な状況

     現れたデスハザードを確認した瞬間、黒栖は勝てないことを悟り、白羽を連れて転移する。「無駄だ」「諦めろ」 しかし、デスハザードは当然追ってくる。|追撃者《チェイサー》の能力を使い、即座に居場所を特定されてしまうのだ。 一対一でもぎりぎりの戦…

  • 036 心の奥底

     白羽が死んだ。 その事実を、黒栖は受け入れられなかった。これまで何のために戦って来たのかと、分からなくなってしまう。 失わないために、努力してきたつもりだった。だが、並行世界の白羽を殺さなかったという甘さのせいで、全てが台無しになってしま…

  • 037 永遠の無

     黒栖は、未だ隔離世界にいた。自身の時空魔法によって、その状態を維持し続けている。 目の前には、時を止めて朽ちることのなくなった白羽の遺骸。それをずっと眺めていた。 何がいけなかったのだろうか。どうすればよかったのだろうと、自問自答を繰り返…

  • 038 覚醒エネルギー

    「嘘……だろ……」 並行世界からやってきたデスハザードを、黒栖は難なく撃破した。時空魔法の枷が無くなった黒栖にとって、最早デスハザードは相手ではない。 あれから、白羽を自宅のベッドに寝かせた黒栖は、並行世界からやってきたデスハザードを強制転…

  • 039 再会

     あれから何日も経過していた。黒栖は赤眼のデスハザードとして、いくつもの並行世界へと訪れていく。「足りない。まだ足りない」 覚醒エネルギー得るために、殺戮を繰り返している。同じ世界の黒栖やデスハザード、白羽も関係なくだ。数をこなしているから…

  • 040 狂いと復讐

     黒栖は赤眼のデスハザードとして、何度も並行世界の白羽を殺し、その魂を奪い続けた。そのついでに、デスハザードと黒栖も殺害して覚醒エネルギーを集めている。 それが何度も繰り返され、集めた魂を白羽へと注いでいく。最初は何も反応を見せなかったが、…

  • 041 最後の決断

    「白羽! 大丈夫か!?」 黒栖は白羽に近づくと、そう言って強く抱きしめる。相変わらず反応のない白羽だったが、ふと黒栖が白羽の顔を覗き込むと、その瞳から涙が零れていた。「ど、どうしたんだ!? あいつらに何かされたのか!?」「……」 白羽は何も…

  • 042 最終話●●として生きる。

     黒栖、いやデスハザードは、とある町にいた。そこは、田園風景が広がっている。「ここが、そうなのか」 一人そう呟きながら、周囲をマジックミラーのような空間を生成することで、他人からは見えないようにしていた。 デスハザードの容姿は、黒い軍服に軍…


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