023 二人の誓い

「おらッ! フレアボム!」

 初手を放ったのは、ゴタロウだ。火の魔法を有しているのか、左手からバスケットボール程の火の玉が黒栖めがけて飛んでくる。

「白羽、飛ぶぞ!」
「え!?」

 だが、それをわざわざ迎え撃つ気は黒栖にはない。白羽の手を握ると、手荷物を捨てると同時に、転移をした。
 その直後、黒栖と白羽のいた場所に、火の玉が直撃と共に爆発し、円状のクレーターを作り出す。

「逃がすか!」

 ゴタロウは当然怒りの咆哮ほうこうを上げると、二人を追いかけ始めた。

「しばらく大丈夫だろう。どうやら、あいつは自由に転移できないようだからな」

 学校の屋上に転移した黒栖は、白羽を安心させるために、そう言葉に出す。

 ゴタロウはこの世界に何らかの方法、神手によって転移してきたが、ゴタロウにはその能力を扱える力はないようだった。
 しかし、黒栖の能力である追撃者チェイサーによると、ゴタロウは迷うことなく、この場所へと高速で近づいてきている。おそらく、ゴタロウも追撃者チェイサーのように、相手の居場所を把握する能力を持っているのだと、黒栖は考えた。

 そして、覚醒した未知の能力を持つ相手に、黒栖は一つの解決策を思いつく。それは、時間切れまで転移して逃げるというもの。相手であるゴタロウは、転移する事ができない。ならば近づいて来るたびに、一番離れた場所に白羽を連れて転移して逃げれば、問題なく戦いを避けることができる。
 デスハザードと同じ条件で現れたのならば、時間制限のルールも適用されるはずだと、黒栖は判断したのだ。

「黒栖君、あの人って……」

 すると、一人で考え込んでいる黒栖を見かねて、白羽が心配そうに話しかけてきた。それに対して、黒栖は敵の事に関して話すかどうか、一瞬だけ迷う。
 しかし、白羽の瞳を見れば、一人で抱え込まないでほしいという、強い意志を黒栖は感じた。故に、黒栖は今回の相手について、詳しく話し始める。

「……以前俺がデスハザードとして、やつの彼女ヒロインを目の前で殺したんだ。言い訳をするならば、デスハザードの使命、強制力なようなもので、殺さない訳にはいかなかった。だが、そうだとしても、当然やつの復讐には正当性がある。これは、自業自得、因果応報なんだ」

 自身が悪であり、相手が善であると、黒栖は内心そう思っていた。だからこそ復讐をされても仕方がないのだと。そして白羽に幻滅、嫌悪されるのではないかという不安が、黒栖の中で芽生える。だがそれも、一瞬の杞憂であった。

「黒栖君、その罪は簡単には消えないと思う。とても大きな、重い罪だわ。けどね、それでも、私は黒栖君と一緒にいたい。死んでほしくないの。他人に罵声を浴びせられても、後ろ指差されたって、離れたくない、離れない。だから、私も黒栖君の罪を一緒に背負うから、二人で考えよう?」
「――ああ、……すまないっ」

 黒栖は、白羽の言葉にそう声に出してうなずく事しかできない。思わず涙が出そうになるが、今は堪える。ほしい時に、ほしい言葉を言ってくれた白羽に、黒栖は決意を固めた。

「白羽、俺は戦うよ。罪は償う必要はあるが、その為に殺される訳にもいかない。けど、ここで逃げるのは、何よりもだめ事だと思った。どうなるとしても、やつには向き合う必要がある」

 黒栖は、逃げるという選択を捨てる。それは自分の為であり、敵であるゴタロウの為でもあった。

「うん。黒栖君がそう決めたなら、私は構わないよ。けど、最後に一つだけ」
「――!?」

 白羽がそう言うのと同時だった。背伸びして密着した白羽と、黒栖の唇が重なる。

「どうか死なないで」
「あ、ああ」

 学校の屋上で白羽と口づけを交わした黒栖は、また一つ死ねない理由ができてしまった。学校に迫るゴタロウは、もうすぐここへと辿り着く。敵の能力は未知数。黒栖は戦いに備え、事前に能力値を振り分ける。

「私も逃げない。例え危険でも、黒栖君を見守っているから」
「だが……いや、わかった」

 本当ならば、白羽だけでも遠くに逃がすべきだと黒栖も考えたが、例えそうしたとしても、きっと白羽は自力で戻ってきてしまう。そう思わせるだけの重みが、白羽の言葉にはあった。

「けど、これだけは約束してくれ、危なくなったら必ず逃げると」
「うん、わかった」

 そう約束をして、黒栖は白羽を屋上に残し、一人校庭に転移する。そして、数分も経たないうちに、ゴタロウがやって来た。


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