022 因果は巡る

 二回目の並行世界を経て、その翌日の土曜日黒栖と白羽は、現在商店街に来ていた。

 その道中、白羽がとあるおしゃれなカフェが気になり、今は黒栖と共に休憩中だ。もちろんそのおしゃれなカフェとは、以前黒栖が姫紀と来ていた所である。

 白羽が注文したコーヒーゼリーは、この店自慢の一品であり、ホイップクリームと、様々なフルーツが盛り合わせられていて、甘さと酸味、そしてほろ苦さが絶妙なハーモニーを生み出しているそれは、その一品だけで多くの常連客を作り出すほどだ。白羽もおいしそうに、コーヒーゼリーをほおばっている。

「黒栖君も食べる?」

 すると何を思ったのか、白羽がスプーンに乗せたコーヒーゼリーを、黒栖の目の前に差し出す。

「え? いや……ありがとう」
「どういたしまして」

 間接キスになるのではないかと、珍しく黒栖が迷っている隙に、スプーンが黒栖の口にねじ込まれた。当然、食べない訳にもいかず、黒栖はコーヒーゼリーを咀嚼そしゃくして飲み込む。

 黒栖の初めての間接キスは、ほろ苦い味だった。
 しかし、既に姫紀とファーストキスを済ませている事を、この時黒栖は忘れているのだが。

 そうして、そんな甘酸っぱいやり取りを終えると、二人はおしゃれなカフェを後にする。次はどこに行こうかと、白羽はわくわくしてたまらない。
 当初のお弁当箱を買いに行く事は、当然後回しだ。

「なんだかデートみたいだね」
「あ、ああ」

 そう言って微笑む白羽は、次に大胆な事を口にする。

「ねえ、腕でも組む?」
「え、それは……」
「えいっ!」
「!?」

 またしても、黒栖が迷っている隙に、白羽が勢いよく黒栖の左腕へと、抱きつくかのように腕を組んだ。当然黒栖の左腕には、白羽の豊満な胸があたる。いや、あてられている。

 高校生の割に性欲が少ない黒栖ではあるが、ここまで密着されると、何とも言えない気持ちとなってしまう。白羽は姫紀との出来事以降、大胆になったのではないかと、黒栖はそう思いながら心を落ち着かせようとする。

 白羽としても、自分からアタックしていかなければ、永遠に黒栖との関係も平行線であると考え、自分でも大胆で恥ずかしいとは思っているが、また姫紀のような泥棒猫に奪われてはたまったものではない。

 それが強い独占欲と共に、他の女とキスするような事が再び起きれば、きっと自分はどうにかなってしまうという、強迫観念きょうはくかんねんにも似たような思いがあった。
 故に、白羽はここまで大胆な行動が自然とできてしまう。

「このまま行こっか」
「あ、ああ」

 黒栖は、少し間の抜けた返事をしつつ、つい白羽の服装にも視線を移す。
 そこには、ふんわりとした少々丈の短い白のチュニックと、それに合わせるような色合いをしたショートパンツ。そして、ただでさえ大きい白羽の胸を強調するような、ハーネスベルトをしている。

 最初はハーネスベルトを見て、それがおしゃれかどうかまったくわからなかった黒栖だが、こうして改めて見ると、ちゃんとした理由があるのだと理解した。ウエストの細い白羽には、より相まってよく似合っている。

 それに引き換え、黒栖は白いシャツに、黒いジャケット、そしてジーンズだ。
 男なら数多く見かける白と黒、それにジーンズという組み合わせだったが、黒栖はルックスがそれなりに良いためか、うまく着こなしていた。

 そんないちゃつくように歩く二人を、通行人がときおり舌打ちしたような表情をしてすれ違って行くが、二人はそれに全く気がつかない。

 そうして、いくつかの店を歩き渡り、最後にはお目当てのお弁当箱も入手した。
 とても充実した一日であり、こうした日がいつまでも続けばいいのにと、つい黒栖と白羽は思ってしまう。いつ命を落とすか分からないという現実を、少しでも紛らわせる事ができたからだ。

 しかし、幸せな時は永遠ではない。
 誰かの不幸の上に自分が生きているという事を、黒栖はこの時忘れていたのだ。
 数多の彼女ヒロインを殺し、その幸せを奪ってきたという悪業を。

 その因果は巡る。黒栖の元に戻ってくる時が、到頭とうとうやってきたのだ。

「これは!?」
「え?」

 世界が隔離される。周囲の景色が鑑写かがみうつしのように入れ替わり、この場所には最早、部外者は一人もいない。
 そして、隔離世界が整うと、ゆっくりと歩て来たかのように、その人物は姿を現す。

「よお、お前がデスハザードか? それに横にいるのは、お前の彼女ヒロインだな?」
「お前は……」

 黒栖と白羽の目の前に現れた少年は、尖ったような硬い髪質の茶髪に、以前は悪戯好きに見えたであろう顔立ちのそれは、今では邪悪に歪んでいた。手には大事そうにどす黒く濁った長剣を、まるで見せつけるかのように力強く握っている。

 そして、少年は観察を終えると、口角を引き上げ、決め台詞を吐く。

「俺の名はゴタロウ! お前の彼女ヒロインを目の前で、むごたらしくぶっ殺す復讐者だ!」

 ゴタロウと名乗った少年は、ようやく願いが叶うとに感謝して、腹の底から湧き上がる怒りと高揚に、その身を任せた。


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