ホームを経由して盗賊がいると思われる森へと俺はやってきた。
確か、あの盗賊の話ではあと八人仲間がいるんだよな。
潜んでいるであろう人数を思い浮かべながら、盗賊が仲間のいる場所を指さしていた方角を見つめる。森を出るとき、その盗賊が指さした逆方向に進み、街道を北上して町に辿り着いたことを考えれば、盗賊のいる場所は西のはずだった。
今日中に見つかるかは分からないが、とりあえず西に向かってみるか。
俺はそう決めると、西に向かって走り出す。ちなみに、エレティアはお留守番にしている。もしも敵にエレティアを知られて逃げられた場合、それはそれで問題になるからだ。
探索者の称号スキルである暗視の効果で真夜中でも昼間のようによく見える。人間相手なら夜中に襲撃するのが一番だろうな。
石刀を右手に持ち、俺は夜の森を駆ける。身体能力も高いことも相まって、森の木々が流れていくようにすれ違っていく。
こっちであっているよな? 森の中だと、方向感覚が狂うな。
数時間ほど変わらない風景が過ぎ去っていく。西に進んでいるはずだが、盗賊たちを倒した場所に着かないあたり、徐々に方向が逸れている可能性があった。
だが、何となくこっちでいい気がするんだよな。直感スキルが働いている気がする。
直感を頼りに、俺はそのまま森を駆け抜けていった。そして、到頭光源らしき光を捉える。夜中の森の中では、その光源はよく目立った。
あの光源は、もしかして盗賊の夜番か何かがいるのか? どちらにしても、慎重に行こう。
音を立てずに光源へと近づくと、そこには洞窟があり、夜番なのか眠そうに一人の男が、焚火の前に立っていた。そこに敵が来るとは思ってはいないのか、どこか警戒心が薄い。
あの身なりからして、おそらく同じ盗賊だろうな。よし、やるか。
俺は覚悟を決めると、男の背後からゆっくりと近づき、首目掛けてスラッシュを発動させた。
「――ッ!?」
男は一言も発することなく、飛んだ頭部は驚きの表情を浮かべながら、地に落ちる。
やはり、スラッシュの威力が異常だな。石刀で首を切断できるまでになるとは……。
そんなことを思いながら、俺は盗賊の手荷物を漁る。主な戦利品は金銭と鉄製の短剣ぐらいだった。金銭はホームへと送り、短剣は腰に装備しておく。
こんなものか。短剣を手に入れたのは良かったが、これならまだ石刀で戦った方がましだな。
焚火の火を消すと、俺は盗賊が潜んでいると思われる洞窟へと足を踏み入れた。暗視が働きよく見えることから、気分はまさに暗殺者だ。
洞窟の中は意外に整備されているな。元々ここを塒にしていたのか? 雇われたとか言っていたし、存在は知られていたんだよな? もしかして、権力者と繋がっていたのだろうか。だとすれば色々と納得もできる。
いや、だとしても、装備の質からそこまで優遇されていたわけじゃ無さそうだな。いいように使われていたのかもしれない。
アリの巣のように枝分かれしている洞窟内を、俺はゆっくりと進んでいく。すると、一つ目の行き止まりに、何やらドアが設置されている。
この先に、何人か盗賊がいそうだな。
試しに耳をドアにくっつけて音を聞いてみると、いくつかのいびきが聞こえてくる。
どうやら正解のようだ。盗賊は寝ているようだし、行くか。
音を立てないようにドアを開けると、そこには茣蓙のような物を敷いて寝入っている男が四人いた。
こいつら、昨日仲間が戻ってこなかったのに、よく寝ていられるな。
今更思うのは、仲間や雇い主の騎士が戻ってこなかったのに、まだ塒にいるということだった。
こいつらが相当の間抜けなのか、それとも真雇い主はあの騎士ではないという事もあるな。ここに残らなければならない理由があるのだろうか?
頭を悩ませながらも、俺は腰から短剣を抜き、一人ずつスラッシュで首を落としていく。
短剣でも上手く発動するようだな。それに、音が少なくて暗殺向きだ。
無事に四人とも始末すると、部屋の中を物色し始める。
碌なものが無いな。
部屋にあるのは酒瓶や食べかす程しかなく、唯一あった椅子や机、蝋燭台と蠟燭の替え、あとは火打石と種火とするための乾燥した植物らしきものが置いてあった。それを一応ホームへと転送しておく。ついでに、盗賊の持っていた金銭と短剣、敷いていた茣蓙もだ。
あとで清浄化をかけておけば問題ないだろう。使えそうなものはできるだけ多い方がいい。要らなくなれば捨てればいいしな。
この部屋でやれることは全て終えたので、俺は部屋を出る。
盗賊はこれで合計五人始末したから、あの男の話が本当なら残る盗賊はあと三人か。
そう思いながら洞窟の奥に進み、分かれ道が現れた。左方向は暗く、右方向からは僅かに光りが伸びている。
右には、人がいそうだな。まずは右に行ってみるか。慎重に進もう。
光源からして盗賊がいると考えた俺は、石刀を握りながら忍び足で進んでいく。すると、やはり盗賊が一人カンテラを持ちながら、ドアの前で見張りをしていた。
見張りか……怪しいな。
何かあるに違いないと考えた俺は、素早く男に近づくと、スラッシュの一太刀で首を落とす。
相変わらず呆気ないな。警戒していたのが馬鹿みたいだ。
適当にカンテラや持ち物を奪いホームに送ると、一応ドアに耳をあてて中の音を探る。
ん? これは……寝息だよな?
盗賊にしては上品な寝息だと思いつつも、俺はドアをゆっくりと開けて侵入を果たした。そして、目の前に広がったのは。
獣人の子供か?
檻に閉じ込められた獣人の子供たちだった。
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