012 能力値の割り振り

 黒栖は使い慣れてきた覚醒エネルギーを纏う。黄金の光が黒栖の身体をを包み込み、能力を引き出す。

「くっ!」
「死ねぇ!」

 正面から受け止めたデスハザードの手刀。その戦い方は、黒栖の知るデスハザードとは、少々違う感じがした。

 そう、デスハザードも並行世界からやってくる。様々な分岐を繰り返していく世界。
 時が経てば経つほど、黒栖の世界とは違いが出てくる。
 つまり、目の前のデスハザードは、最早黒栖の知らない、別の存在となりつつあった。
 しかしそれは、相手にも言えることだ。

「!?」

 デスハザードは、不意に背後から時空の歪みを感じ取り、その場か転移して距離を取る。それを狙っていたかのように、黒栖が転移して追撃の一手を与えた。だが、寸前のところで、デスハザードが片腕で黒栖の手刀を防ぐ。

「ぐぁ!? お前! 何をした!?」
「さあな」

 黒栖はそう答えるが、内心はかなり焦っていた。今の攻撃で仕留めるつもりだったからだ。
 黒栖のした事とは、瞬間的に部分転移を発動し、デスハザードの気を逸らす事。
 どうやら、並行世界から来たデスハザードは、それを試していなかったのか、部分転移を知らないようだった。

「そんな事よりいいのか? ここで戦えば、お前の望んでいる白羽も死ぬかもしれないぞ? 場所を移した方がいいんじゃないのか?」
「……ッチ、いいだろう。学校の校庭に一分以内に来い!」
「ああ」

 黒栖は咄嗟に話を変えた。少しでも作戦を練りたかった事に加え、狭い部屋では白羽に危害が及ぶと、そう判断した為だ。

 デスハザードは、どこかいらつきながらも、先に転移して消える。
 流石に、白羽を奪うと豪語ごうごしているだけあって、白羽が死ぬ可能性を無くしたいようだった。

「黒栖君……」
「ここで待っていてくれ。今回は命を狙われる事はないだろう」

 白羽の言葉をそう言って切り捨て、黒栖は短い時間で思考する。どうすれば、デスハザードに勝てるのかと。
 同じ能力という条件である以上、僅かなミスが命取りになる。

 特に、デスハザードの両腕は危険だった。何故ならば、それこそが主力能力であり、異世界の聖剣ぐらいならば、簡単に破壊する事ができるからだ。
 その名も、下位殺しレッサーキラーという。

 この能力は、両手限定で力が発揮されるものであり、下位の存在に対して、絶対的な優位に立つことができる。

 今までは、デスハザードより下位の存在だと、黒栖は思っていた。
 しかし、実際には同じ能力の両腕以外ならば、デスハザードにも有効なのだ。
 つまり、この下位殺しレッサーキラーという能力は、の基準で下位なのかが不明である。

 おそらく、黒栖にデスハザードとしての役目を与えた存在という事は分かってはいるが、その存在こそが不明なのだ。

 故に、下位殺しレッサーキラーによる攻撃の当たり所が悪ければ、勝負は一瞬で着く。先にその一瞬を手にしたものが勝者なのだ。
 そして、その為には、デスハザードと自分の違い・・を、いかにうまく使うかという事になる。
 デスハザードと黒栖の違い。それは、覚醒エネルギーを使用できるかどうかという事であり、黒栖自身も薄々気がついている事だ。

 覚醒エネルギーを使用することで、能力を一時的に強化する事ができる。
 一見、黒栖の方が有利だが、帳尻を合わせるかのように、総合的な能力値はデスハザードとなんら変わりはない。

 例えば、身体能力を極限まで強化した場合、転移をするための能力、時空魔法が弱体化し、転移自体ができなくなる。また対象者を索敵する能力、追撃者チェイサーの場合、弱体化すれば、対象者の位置を見失い、不意打ちを受ける可能性もある。

 つまり、あまりに極端な能力値の割り振りをした場合、自分の首を絞める事になるのだ。
 因みに下位殺しレッサーキラーについては、最初から仕組まれていたのか、弱体化する事はあっても、これ以上強化されることは無いようであった。

 そのような理由から、タイプに分けた場合、バランス型のデスハザード、テクニック型の黒栖と言ったところとなる。

 勝負の一瞬を手にする可能性は、どちらかといえば黒栖の方が少し有利だが、覚醒エネルギーの維持や、配分などに神経を研ぎ澄ます必要があり、他にも即座に能力値の振り直しなどは、戦闘中にできるはずもなく、基本的には初めにする必要がある。

 つまり、維持と配分を間違えれば、デスハザードにそのまま押し負けることもあり得るのだ。

 故に黒栖のすべき事は、いかにして、勝負の一瞬を手にすることができる配分を、できるかどうかである。

 そうして、数十秒の短い間に、黒栖は能力値の配分を決めた。
 戦闘でどうなるかは、時の運である。

 最後に、自分がデスハザードに殺された時の事を思い、黒栖は心残りが無いよう白羽に近づくと、その手を握って、語り始める。

「俺は、何よりも、白羽の幸せを願っている。それが今日、間違った方向に行ってしまった。すまない。結局、この殺し合いに巻き込んでしまった。どうか、生きてくれ」
「待っ――」

 黒栖はそう言い終わると、白羽の言葉を聞かずに、その場から転移して消え去った。


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