010 スラッシュの確認

 なるほどな。そんなうまい話はないという訳か。ダンジョンで手に入るアイテムを作り出せれば、怖い物なんて無いに等しいだろうしな。

 ダンジョンから時折見つかるアイテムは、物によってその価値はユニーク称号所持者に迫る物まで存在していた。それを自由に生み出せたとすれば、最早自分を止められる者は少なかっただろうと、そう思ってしまうほどだ。

 まあ、できないものを考えても仕方がないか。それより、この石の剣をどうするかだよな。正直、維持費がリンゴの木を上回るレベルなのだが……。

 本来創れない物を無理やり形にした代償なのか、維持に必要な魔力が以上多く、費用対効果が悪い。

 これは、処分するしかないか。方法は……これでどうだ?

 俺は石の剣を処分するため、疑似天地創造で処分するように命令を下すと、石の剣は灰のように崩れ去り、次第にそれも幻のように消え去っていく。

 処分の方は意外に簡単だったな。代償もなさそうだし、要らなくなったものはその都度処分していこう。

 そうして、石の剣の処分を終えると、代わりに木刀ならぬ石刀をその手に持つ。

 しばらくは、この石刀を使うことにするか。少々重いが、今の俺なら身体能力が向上していることもあって問題はなさそうだ。

 軽く石刀をその場で振ってみるが、特に負担になるようなことは無い。戦闘で使っても大丈夫だろう。

 さて、この石刀でスラッシュを試してみたいのだが……流石に目標があった方がいいよな。けれど、リンゴの木を的にするのはできないし、これはホームの外に出るしかないか。

 出来れば安全なホームで試してみたかったが、俺は意を決してホームの外でスラッシュを試すことにした。場所は、俺が埋められていた場所の近くだ。

 よし、周りに人はいなさそうだな。

「あー」
「!?」

 俺が周囲を軽く確認した時だった。真後ろから聞き覚えのある声が俺の耳の近くで響く。視線を向ければ、そこには俺の服の端を持ったエレティアがいた。

「つ、ついてきたのか?」
「あー」

 俺がやられたのを相当心配していたし、これは仕方がないのかもしれない。けれど、毎回エレティアに付いてこられるのも困る。

「エレティア、お前の気持ちは分かるが、俺が呼ばないときはホームで待機していてくれないか?」
「うー」

 俺の言葉に、エレティアはとても不満そうだった。しかし、命令には従ってもらわないと、今後の活動に支障がきたしてしまう。

「危ない時は必ずエレティアを呼ぶから、どうか言うことを聞いてくれないか? でないと、俺はエレティアとの契約を破棄しなければいけなくなる」
「!? うぅー」

 契約の破棄をチラつかせると、エレティアは悲しそうな雰囲気を漂わせて不承不承ながら納得をした。

 これは、なんだか罪悪感があるな。

 そう思いつつも、俺はエレティアから離れ、一本の木の前に立つ。石刀を中段に構え、集中する。

 いつも通りにやれば問題はない。元の世界では、何度もやってきたんだ。

 俺は軽く息を吐くと、眼前の木に向かって斜めに称号スキル『スラッシュ』を発動した。その瞬間、光の線が走る。木はまるで紙切れを裂くかのように、呆気なく倒れた。その断面は、人の手で行ったのが嘘のように綺麗だ。

「……」

 言葉が出なかった。木を斬った手応えがまるで無い。達人技と言われても納得してしまうほどだった。

 何だよこれ……今までの状態なら、木を一回で斬り倒す事なんて出来なかったぞ。それが、こうもあっさり……。

 あまりの威力に、俺は驚きが隠せない。だが、これだけ威力が高ければ、必殺技として十分以上の力を発揮するのも事実だった。

 これは、着火よりも先に使い慣れる必要があるな。

 俺はそう考えると、次々に生えている木に向けてスラッシュを使い始める。

 なるほど。一度の発動で消費される魔力は以前より多いだが、今の俺にとっては誤差に過ぎないな。それに、まさか集中や溜めが無くても発動できるうえに、威力も以前の一番強い一撃を超えるとか。ヤバいなこれは。

 何故異世界に来て最初に試さなかったのかと、俺は後悔に苛まれるが、それ以上の興奮が体中を駆け巡っていた。

 今ならば、あの人外集団にも遅れを取ることは無さそうだ。復讐の機会は思ったより近いぞ。

 それからしばらくして気が付けば、周囲の木を俺一人でほぼ全て斬り倒していた。

 これは……やりすぎたな。

 流石にまずいと思い、俺はその場から離れた場所に新たな目印となる石を設置すると、エレティアと共にホームへと帰還した。因みに、元の目印の石は処分済みである。

 ふぅ、思わずやりすぎてしまった。あれは癖になるな。

 俺は先ほどのことを反省しながら、これで攻撃手段の確認はすべて終えたので、次に能力向上系と、成長に繋がる称号スキルを確認する。

 俺の所持している称号スキルや、勇者召喚の時に与えられたスキルだと、この辺りが該当するな。

 探索者→【身体能力向上】
 剣士→【剣適性】【技量向上】【俊敏向上】
 異世界人→【身体能力向上】
 勇者召喚に巻き込まれた者→【成長率向上】【限界突破】
 稀人→【成長微上昇】【身体能力上昇】【魔法適正】

 こうして考えると、身体能力系は三つもある。そういえば、あの白い虎頭の男は、獣人である自分より身体能力が高いとか言っていた気がするな。元の世界にいた時より身体能力は上がっているし、効果は重複しても問題ないということか。

 付け加えると、称号効果向上もあるため、勇者召喚の時に与えられた稀人のスキル以外は、本来よりも強力になっている。だが、そう考えると多少違和感を覚えた。

 三つも重複していて更に称号効果向上もある割に、身体能力は馬鹿げていないんだよな。スラッシュの時を考えれば、もっと効果があると思うのだが……何故だ?

 スラッシュを基準に考えれば、俺はそこらの石を簡単に握りつぶせる程の怪力を発揮してもおかしくはないと考えていた。だが現実は、白い虎頭の男より少し身体能力が高い程度だ。

 もしかして、俺が称号効果を十全に発揮できていないのか?

 それしか納得できる理由が思いつかなかった。

 とりあえず、身体能力向上はそういうものだと考えておこう。

 次に考えるのは、能力向上系とは少し違うもの。『剣適性』『限界突破』『魔法適正』についてである。

 剣適性は、剣の扱いが上手くなり、その成長も早くなるというものだ。元の世界から世話になっている称号スキルになる。ある意味、外付けで才能を得るような感じだ。

 剣適性については、詳しい効果を知っていた。だが、残りの二つについては感覚でしか理解できていない。

 限界突破は、何となく成長の限界を突破できるって感じがする。そう考えると強力だ。次に魔法適正は、稀人の効果に『魔法適正を得る。それにより魔法の習得を可能とする』という項目から魔法を習得することができるらしい。

 魔法と聞くと、ユニーク称号のスキルのことを指す場合が多かった。因みに元の世界では、探索者称号の飲水や着火は魔法擬きと呼ばれている。

 魔法か……いずれ習得してみたいが、その方法は現状分からないし、試し用が無いな。

 もしかしてと思い、魔法の呪文を適当に唱えたり意識したりなどしたが、魔法を習得することは無かった。

 あとは成長系が二つあるし、これに限界突破を加えることを考えれば、俺は大器晩成型なのかもしれないな。

 そのことを理解すると、落ち着いて実力を磨いていくことが一番に思えた。

 人外集団への復讐は、余裕を持たせるためにも後回しにした方がいいな。向こうにも切り札があるかもしれないし。

 自分の力を改めて確認した俺は、今後どうするべきかの方針が決まる。

 とりあえず、どちらにしてもまずは人のいる場所に行く必要があるだろう。あの街道を北に進めば、町があるらしいしな。
 
 盗賊から訊きだした情報を思い出し、俺は町へ行くための準備を改めて始めた。


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