011 異世界初の町へ

 現在俺は、再び街道を歩いている。手荷物は特にない。石刀はホームに置いて来ているが、疑似天地創造で創り出したので、状況によっては即座に呼び出すことができる。

 それにしても、ホームに金銭の半分を置いていたのが功を奏したな。

 人外集団に金銭を奪われたが、全てではなかった。というよりも、全財産をわざわざ持ち歩くのは不用心が過ぎると思っていたので、半分ホームに置いていたという訳である。

 生憎袋が無いからポケットに直接入れているだけになってしまったが、それは仕方がない。

 歩くたびにジャラジャラ音が鳴るので入れるポケットを分散しているが、それでも僅かながらに鳴ってしまう。

 町についたら、小銭袋も手に入れる必要があるな。

 疑似天地創造で創れない物が以外と多かったことに、俺は頭を悩ませる。

 はぁ、ホームで生活するにしても、足りない物が多すぎるな。早いところ金を稼ぐ手段を手に入れる必要がある。

 街道を歩きながら、俺はそんなことを考えていた。もちろん、周囲には以前よりも強く警戒している。ちなみに、エレティアはホームでの留守番を任せていた。

 ホームを出るとき、だいぶエレティアが引き下がらなかったが、何とか言うことを聞いてくれてよかったな。というよりも、段々エレティアに自我が芽生えてきている気がする。そのうち言うことを聞かなくならないか心配だ。

 どういう訳か、エレティアの知能が上昇し、自我まで芽生えてきていた。何が原因か不明だったが、いずれ言葉を介するのではないかと俺は予想している。

 その時になって、支配契約の状況をしっかり理解したエレティアが、俺を恨んでいたら面倒なんだよな。

 無くはない可能性に、俺は今から辟易へきえきしてしまう。

 他の生き物やモンスターを仮に支配契約したとして、エレティアと同じように知恵と自我を獲得したとする。そしてそこから一斉に反旗を翻されたら、一巻のおしまいだ。そう考えるとやはり、現状はそこまで数を増やすことは避けた方がいい。

 簡単に戦力を増やすには、支配契約でたくさんのモンスターを従えるのが手っ取り早い。しかし、それで反逆されたらたまったものではなかった。なので、現状は自己強化に専念するべきだと考えている。

 それに、増やしたとしても養える自信が無い。

 金銭的にも余裕が無いことはもちろんのこと、魔力を使ってリンゴの木を大量に生み出せば、維持費が馬鹿にならず、他に魔力を回す余裕がなくなってしまう。

 魔力は戦闘でも使うわけだし、やはり数は増やせないよな。

 そうして、悩みながらも道中は何も起こらず、次第に目的地が見えてきた。

 ようやく、町に着いたな。

 大きな城壁に囲まれた町は、入り口に人々が列をなしていた。そこに当然、俺も並ぶ。

 一応は入れるのは分かっているが、それでも不安だな。

 一般的に、町へ入るには身分証が必要になる。身分証が無い場合、金銭を支払うことで滞在許可証が貰えるらしい。滞在可能日時は、場所によって多少差があるものの、この町は一週間だったはずだ。

 あの盗賊が本当のことを言っていた。という条件はあるが、見た限り嘘は言っていなかったようだ。

 前方の列に視線を向ければ、何やらカードのような物を衛兵に見せている。

 やはりというべきか、普通は身分証を持っているんだな。

 身分証には何種類かあるようであり、基本は一般市民証、商人協会会員証、そして俺がこの町で手に入れる予定である冒険者証の三つの使用率が高いらしい。他にもいくつかあるらしいが、今は関係ないので気にしないことにする。

 よし、ようやく俺の番だな。

 身分証について考えていると、俺の順番が回ってきた。あらかじめ手にしていた硬貨を衛兵に手渡す。

「む? 身分証無しか。ふむ……お前、ちょっとこっちに来い」
「え?」

 衛兵は俺の姿を頭からつま先まで見ると、不審に思ったのか、詰所まで来るように命令してきた。

 いや、確かに手荷物もろくにない上に軽装備だし、不審に思うか……。

 何となく俺もそんな気がしていたが、町に入らなければ何も始まらないので、仕方なく衛兵についていく。ちなみに、他にも衛兵がいるので、門番の人員については問題なさそうだった。

 ◆

「それで、このエバレスの町に来た目的は?」
「お金が無いので、この町で冒険者になるのが目的です」
「荷物はどうした? まさか手ぶらでこの町まで来たのか?」
「誰かに襲われたのか気が付いたら荷物が無く、記憶も曖昧な状態でして」
「本当か?」
「はい、本当です」

 詰所に連れてこられると、個室で衛兵に一対一で尋問されていた。

 できるだけ本当のことも言わないと後で面倒だし、何とかこの状況を乗り切ることだけを考えよう。

「まあいい。では、覚えている箇所で構わないから、その時の状況や、他に名前と住んでいた場所について可能な限り話してくれ」
「分かりました。まず初めにその時の状況ですが――」

 俺は本当のことも混ぜながらも、概ね以下の通り伝えた。

 ・旅をしていたら誰かに襲われ、森の中で手荷物もなく記憶のない状態で倒れていた。
 ・服の裏や靴の底に隠していた金銭を頼りに、町でやり直そうと考えている。
 ・そのために冒険者登録をして、今後のために働こうと思った。
 ・名前はミカゲ。十五歳で性別は男。
 ・住んでいた場所は覚えておらず、ここよりも遠い場所だった気がする。

 という内容をもう少し詳しくして伝えたが、それでも何となく胡散臭そうに見られてしまった。

 やはり作り話だと思われたかもしれないな。しかし、下手に嘘をついた方が直感的にまずい気がするんだよな。

 俺が冷や汗をかきながら衛兵の言葉を待っていると、そこにもう一人の衛兵がやってくる。

「隊長。白です」
「そうか、分かった」

 その一言だけを残し、その衛兵は引っ込んでいく。

「怪しいところはあるが、そんなの気にしていたらきりが無いからな。犯罪歴は無さそうだし、町への入場を許可しよう」
「へ?」
 
 俺は突然の出来事に呆気に取られてしまった。

 何で犯罪歴が無いことが分かったんだ? いや、可能性として、詰所に入ったのと同時に採血されたが、あれか? あれで犯罪歴が分かるのか?

 採血で犯罪歴が分かるなど、俺は盗賊の男から教えられなかった。というよりも、知っていて当たり前だと思われたのかもしれない。

 この世界は俺の世界より遅れていると思ったが、部分的には超えているのかもしれないな。

 そうして、俺は無事に滞在許可証を手に入れ、エバレスの町に入ることができた。

「早いところ冒険者登録することをお勧めする。それはあくまでも滞在許可をしただけだからな。場所は大通りをまっすぐ行った先にある。一応覚えていないことも考慮するが、冒険者ギルドは盾に二本の剣が交差した看板が目印だ」
「わざわざありがとうございます」
「おう、達者でな」

 最初は警戒されていたが、終われば気さくな人だった。

 無事に冒険者ギルドの場所も教えてもらったし、早速向かうとするか。

 これまで探索者としてダンジョンに潜ってきた。そしてこれからは、冒険者として稼いでいく。

 冒険者か。訊いた限り探索者と近いものを感じるし、何とかやっていけるだろう。以前の俺とは違って、それなりの力もあるわけだしな。

 ようやくこの世界に来てから、一歩前進したような気がした。


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