003

 大男に路地裏へと連れてこられたエフィンは、早速手に持っていた袋を奪われる。

「っち、やっぱりゴミしか入っていねえか」

 大男は中身を確認するとそう言って、エフィンがせっかく集めた物ごと、その袋を適当な場所へ投げ捨てた。

「あぁ!」

 エフィンはそれに対してつい声を出してしまう。

「あんなゴミじゃ誰も買い取らねえ。そもそも量が少なすぎだ。スラムのガキはそんなことも知らねえのか? それに今はスラム街の連中を嫌う貴族が来ている。てめえのような汚いガキはスラム街にとっとと帰るんだな」

 大男はそう言うと、エフィンに銅貨3枚を投げつけ、何事も無かったかのように去っていった。

 実はあの大男、口は荒いが真面目であり、親切にもエフィンに対して助言し、更にはエフィンにとって大金である銅貨を3枚もおいっていったのだ。

 それに対してエフィンはというと、せっかく集めた物を投げ捨てられ、馬鹿にされた挙句に銅貨を投げつけらるという惨めな思いだった。

 あの大男にいつか復讐してやると、エフィンはその善意にも気がつかずそう誓い、落ちている銅貨3枚と投げ捨てられた袋を拾うと、大男の助言を無視して鍛冶屋が密集している方向へと時間を少し置いたのちに向かい出す。

 道中またあのような輩に出会うかもしれないと、今度は慎重にエフィンは歩を進め、それからは何も起こらず、無事に鍛冶屋密集地に辿り着き、エフィンは内心ほっとした。

 鍛冶屋密集地の周囲からは、やはり鉄を叩く音や、独特の鉄のにおいのようなものに満ちており、周囲にいる人たちの筋肉量は人を簡単に殴り殺せと思えるほどだ。

 そんな場所で、エフィンは少々緊張しながらも目に入った鍛冶屋へと足を踏み込むと、エフィンが入ってきたことに気がついた男が話しかけてくる。

「なんだ坊主? ここは子どもの入っていい場所じゃないぞ?」

 声をかけてきた男は糸目の男であり、顔はひ弱そうではあるが、首から下はボディビルダーも顔負けの筋肉量で、その手には作ったばかりなのか真新しい剣が握られていた。

「えっと、これを買い取ってほしくて……」

「ん? 買い取ってほしい?」

 エフィンはそう言って糸目の男に袋を差し出すと、糸目の男はそれを受け取り、中身を確認した後、考えるように頭をかいてからエフィンにこう言葉を返す。

「すまないがこれは買い取れないな。正直うちで出すゴミの方がまだ使えるものがある。これだと他のところでも同じだと思うぞ。悪いな坊主」

 糸目の男は申し訳ないようにそう言い、袋をエフィンへと返した。

「そ、そうですか……」

 エフィンは袋を受け取りと、鍛冶屋を後にし、外へと出る。
 その後ろ姿を申し訳ないと思いながら糸目の男はエフィンを見送った。

 ◆

 あれからエフィンは、数件同じように鍛冶屋を回ったが、結果は糸目の男に言われた通りどこも買い取ってはくれず、エフィンはがっかりしながら鍛冶屋密集地にある、こじんまりした広場の長椅子に現在腰かけていた。

 これからどうするか、どうやってお金を稼げばいいのかと、エフィンは頭を抱える。

 本来ならば拾った物を売って、何とか銀貨1枚を稼ぎ、冒険者登録をするつもりが、現状では不可能になってしまい、もはや誰かから奪うか、それこそ物を盗む以外に銀貨1枚を稼ぐ方法を思いつかない。

 だがそれをして無事でいられる方が難しいとエフィンは考え直し、余計に頭を抱える。

 しかし、いくら考えても前世の知識があるとはいえ、エフィンはいい方法を思いつけない。

 もはや神級スキルのウェストピッカーでスキルを集め、安全に硬貨を稼げるまで今まで通り生活するしかなく、幸い大男から投げつけられた銅貨3枚があるので、しばらくは生きていける。

 スラム街には鉄貨1枚から食べ物にありつける残飯屋というのがあり、エフィンの計算では、1日に2~3回食べても10日ほどは食べ物にありつけるので、もはやその方向でいくしかないと思われたその時、近くから怒鳴り声が聞こえてきた。

「だから儂はもう鍛冶屋をやめたと言っただろう!」

 その声に何事かとエフィンが視線を向けると、道端で背の低いおっさんが無駄に装飾を施された衣服を着ている太った10代後半の男と、その従者2名に怒鳴り声をぶつけているようだったのがエフィンのいる広場からも窺える。

「何を言っているんだ! 僕は知っているぞ! お前は鍛冶屋をやめたと言っているが、未だにそのスキルを所持しているじゃないか! 僕の従者は解析のスキルを持っているんだぞ! 嘘をついても無駄だ!」

 太った男はそう背の低いおっさんに言い放っていたが、言われたおっさんはそれを待ってたとばかりに懐から何かを取り出すと、こう口に出した。

「それなら目の前で捨ててやるわい! これなら納得するだろう!」

「なっ! それはスキルオーブ! 誰かそいつを止めろ!」

 太った男がそう言ったのもつかの間、おっさんはスキルオーブと呼ばれた掌サイズの球体を握り潰すと、球体は呆気なく砕け散り、その破片は光の粒子となっておっさんに吸収される。

「がははっ! ざまあみろ! まさかあの鍛冶スキルの持っていない儂を雇おうとは思うまい!」

「く、くそ! なんてことを! お前はそのスキルの重要さをわかっていないのか! それがあればどれだけ……くそっ! こんなことをしてただで済むと思うなよ!」

「儂が儂のスキルを捨てて何が悪い! やれるものならやってみろ!」

「ドワーフごときが……くそっ! 行くぞお前ら!」

 太った男は悔しそうに歯を噛みしめながら従者を引き連れてどこかへ消えていき、それを満足そうにドワーフと呼ばれたおっさんは見送った後、建物へと入っていなくなる。そして、最後にそこにはおっさんが捨てたと思われるスキルだけが残った。

 当然それを見ていたエフィンは、誰もいないのを一応確認すると、残されたスキルの元まで行き、それに手を触れた。すると。

≪スキル『錬金鍛冶術』を取得しました≫

 と脳内に声が聞こえ、エフィンは無事にスキルを取得すると、早速その効果を確認してみる。

 錬金鍛冶術
 効果
 材料を元に武具を生成することができ、主となる素材があれば、最低限の素材は魔力を代償に生み出すことができる。
 生み出す武具は一度作成したことがある物なら作成できるが、それ以外の場合はランダムになる。
 自身が生み出したものに限り、能力を鑑定することができる。

 その効果を見てエフィンはうれしさのあまり飛び上がりそうになった。何故ならこのスキルがあれば簡単に武具を作り出すことができ、それを売れば銀貨1枚などすぐに集まると思ったからだ。

 こんな使えるスキルを捨てるあのおっさんの気持ちがエフィンにはわからないと思うと同時に、このスキルを捨てたことに感謝する。
 しかもこのスキルはユニーク級であり、その価値は計り知れない。

 エフィンはやったぞと喜びながら、まず人の目につきにくい場所へ移動すると、鍛冶屋を回るときに拾っておいた鉄くずなどを入れた袋ごと錬金鍛冶術を使用した。

 袋ごとなのはスキル説明で書かれていた最低限の素材を魔力で生み出すというものに、多少なりとも不安になったからだ。

 そして、スキルを使用すると、袋全体は光のシルエットに包まれ、徐々に形を変えていく、最後に光のシルエットが消えると、そこにはエフィンには少々大きいほどの手斧が残った。

 エフィンはその手斧を拾うと、錬金鍛冶術で自身が作ったものなら鑑定できるとあったので、早速鑑定と念じてみる。

 鉄のハンドアックス
 等級ノーマル級
 製作者エフィン
 スキル
 劣化防止 自動調整

 表示されたのは、名称、等級、製作者、それとスキルであり、スキルの劣化防止と自動調整の効果は、自身のスキルのように説明を確認でき、劣化防止は名前の通り武器などの劣化を抑える効果で、自動調整は装備した者の体格に合った大きさに変えるという便利な効果だった。

 エフィンはそれを確認すると、生成したハンドアックスに自動調整と念じ、ちょうどいいサイズへと大きさを変えると、次にスキルの使用によって体に異常はないか確認するが、スキル効果にあった魔力の代償というのはあまり感じない。

 それと、明らかにハンドアックスに使用した素材は多かったのだが、余った素材はどこにいったのかとエフィンは思うと同時に、これなら分けて作ればよかったと思うが、今更どうしようもなく、スキルを試すのには必要なことだったと、それはあきらめる。

 最後に、ハンドアックスの刃を保護している鞘を外してそれも鑑定してみるが、能力はハンドアックスと同様のものだった。

 他に気になるとはもう無いと判断しエフィンは、この作り出したハンドアックスを早速売りに行こうと思うが、そこである疑問が生まれる。

 それは、このハンドアックスをどこかから盗んできたと思われることであり、先ほどまで買い取ってくれと鍛冶屋を回っていたエフィンでは、なおさらそう思われる可能性が高かった。

 故にエフィンはどこならば買い取ってもらえるかと考えるが、すぐどこに行っても同じ結果だろうと、先ほど鍛冶屋を回った経験で判断してしまい、ここでは買い取ってもらえないと、ハンドアックスを片手に鍛冶屋密集地から出ようと歩き出したとき、エフィンは不意に呼び止められる。

「あれ? 君はさっきの……その手に持っているハンドアックスはどうしたんだい?」

 それは最初に入った鍛冶屋にいた糸目の男であり、エフィンの持っているハンドアックスを見て先ほどは持っていなかったと不審に思い声をかけたのだ。

「え、えっと……これは……」

 エフィンの返答に、糸目の男はより怪しいと感じ、そのハンドアックスに手を伸ばす。

「少し借りるよ。ちょっと気になることがあるからね。武具鑑定!」

 糸目の男はそう言ってエフィンからハンドアックスを取り上げると、武具鑑定のスキルを発動させた。

「ん? 製作者エフィン? 誰だ? 知り合いにそんな鍛冶師はいないし、ここら辺では聞かない名前だ……」

 糸目の男は最初、この付近で少年がハンドアックスを盗んできたのかと思ったが、武器を鑑定したところ、その製作者の名前は聞いたことが無く、またこのハンドアックスの出来を見るに初心者とは思えなかった。

 何故ならば、武器や防具にスキルをつけるには、鍛冶レベルが高い必要があり、そのレベルに達しているこの町の鍛冶師は全員知っているからだ。

 次に思いつくのは、この少年が武器屋からこのハンドアックスを盗んできたということだが、その線は薄いと思っている。まず武器屋は盗難対策をしており、見張りを雇っている場合や、武器屋自身が強い場合が多く、この少年が盗めるとは思えなかった。

 そして、最後に辿り着くのはこのハンドアックスをこの少年が作ったという可能性だが、それこそあり得ない話であり、もし仮に作れたとしたら天才を超えていると糸目の男は思う。

 しかしそれは仮の話であり、とてもじゃないが信じられないことだ。

 最終的に糸目の男は、これがどこから出てきたのかわからなくなり、少年に直接聞いてみることにした。

「このハンドアックスはどこから持ってきたんだい?」

 その糸目の男の質問に、エフィンは少し考えると、こう答える。

「俺が作りました」

「え?」

 糸目の男はその言葉に一瞬固まった。何故ならそれが一番ありえないと思ったことだったからだ。

「なんなら証拠をお見せしましょうか?」
「え、ほ、本当かい?」

 糸目の男は証拠を見せるという事に驚くと同時に、見てみたいとも思ってしまう。

「はい、材料があれば作れると思います」
「そ、それなら、うちの鍛冶屋に来てくれ。材料なら提供しよう」

 こうしてエフィンは、証拠を見せるために糸目の男の鍛冶屋へと向かった。


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