この世界ではスキルというものがあり、どれも便利なものが多く、それを駆使してこの世界の住人たちは戦士や、魔法使と名乗れるようになる。
だがしかし、そんな万能なスキルであるが、1つだけ欠点があった。
それは、どの生物であろうと、所持できるスキルは5つまでと決まっているからである。
人々はそれ故に6つ目のスキルを取得した場合、現在所持しているスキルか、取得したスキルのどちらかを捨てる必要があった。
そんな世界に、一人ぼっちの少年、エフィンがロドラスの貧民街に暮らしている。
エフィンは物心のついた時には貧民街でゴミ漁りをしており、その仲間も複数いた。
だが、エフィンの仲間は偶然高値で売れる物を見つけたが為に、それを横取りしようとした大人に抵抗したのちに殺され、偶然その日体調を崩していたエフィンだけが助かった。
それからというもの、偶然か、それとも悪魔の仕業か、エフィンと共に行動した者は次々に死んでいき、その都度エフィンは偶然生き残る。
そのこともあり、いつしかエフィンは疫病神と言われ、誰もエフィンに近づかなくなった。
エフィンは孤独になり、今日も1人でゴミ漁りを始める。
幸い他人はエフィンに近づくと呪われると言って、エフィンから横取りするゴミ漁りはいないのだが、そんなことを言われているエフィンから鉄くずなどを買い取ってくれる者は少なく、いたとしても足元を見られ買い叩かれることが多かった。
当然子供1人が集めた程度のゴミを売ったところで、大した金にならないのに、それを買い叩かれた結果、エフィンは碌な食事も摂れず衰弱していく。
そして、とうとうエフィンはある日動けなくなり、視界が薄れていった。
もはやエフィンの死は間近であり、近くを通る人間はそんなことはどうでもいいと、エフィンのことなど気にも留めない。
エフィンも自分はここで死ぬのだろうと思いながら、次第に眠くなり目を閉じる。
これで寝たらもう目覚めることは無いだろうと薄々エフィンも感じていたが、その眠気に耐えられなかった。
そして、エフィンはその耐えがたい睡魔に負けると、そのまま眠りにつき、ある夢を見る。
それは、鉄の鳥が空を飛び、鉄の蛇が高速で移動している世界で、人の数など今までで見たことも無いような人数だった。
それが、見たことも無い場所へと入っていく。それが何なのか最初はわからずにいたエフィンだが、次第にそれが飛行機であり、電車であることがなぜか理解できるようになっていき、人が多いのにも違和感が無くなっていった。
そして、多くの人が入っていった場所、それが学校である事が理解でき、その瞬間、エフィンは自分がそこの生徒であったことや、様々な知識などが穴だらけであったものの、思い出してくのがわかったのだが、あることも思い出してしまう、それは、虐められていた記憶だ。
そこから思い出すことは、誰も助けてはくれず、皆が敵であり、親はそれを見て見ぬふりどころか、暴力を振るわれていたこと、親友と思っていた人物が虐めの主犯であったこと、そのことが苦しくて自殺してしまったとなどの記憶だった。
そのことに夢を通じて思い出したエフィンは、自然と目が覚めると、ふと思う。ああ、僕は生まれ変わっても1人だったんだな、それに、僕はまたゴミ漁りになっていたのか……という事だ。
エフィンの前世は虐められていたことも事実だが、その理由は今世でも行っているゴミ漁りと同じことだったのだ。
エフィンの前世での家は、ゴミが多く、世間からはゴミ屋敷と呼ばれており、その状況が次第に悪化していくと、周りからエフィンはこう言われていたのである。
『ゴミ漁り』と。
それが、虐めの始まりであったのだ。
しかし、それを今更思い出したところで、何の意味も持たず、あるとすればエフィンの精神が荒んだくらいだった。
こんなことならば思い出さなければよかったと思うほどの記憶。
エフィンはなぜ今更このことを思い出させたのだと、いるかもわからない神を酷く恨むと同時に、何故助けてくれなかったのかと怒りもこみ上げてくる。
涙も自然と流れ落ちた。
エフィンは心の中で叫んだ。ふざけるなと、理不尽だと、何故自分ばかりがと。
だが、それも意味は無く、衰弱していたエフィンは次第にそんなことも思わなくなっていった。
そんな時、エフィンの近くからこんな話声が聞こえてくる。
「――てなわけで生命力強化っていうレアなスキルを取得したが、結局今持っているスキルを捨てるわけにはいかないって決断に至った」
「もったいねぇな。生命力強化って言ったら前衛職の特に盾職なら喉から出るほど欲しいスキルだろうに」
「しょうがねえだろ、俺は盗賊職でスキルは完成してるんだよ。俺だってもったいないと思ったからしばらく手元に置いといたんだが、どのみち取得してから1日経ったし、自動消滅しちまう。それなら自分手で捨てたほうが潔くていいだろ」
「ぎりぎりまで手元に置いておく時点で既に潔くないだろ……」
「うるせぇ! とにかく捨てるからな!」
「怒るなよ……」
「はい捨てた! 今捨てた! お前に相談したのが馬鹿だった!」
「お、おい! 待てよ!」
エフィンの近くで話していた男2人は、そう言ってどこかへ消えていった。
本来ならば、男2人が去ってそれでおしまいだったのだが、男2人がいた場所に、不思議な物が浮かんでいるのをエフィンは偶然気がつく。
それは、淡い光を放っている球体で、子どもであるエフィンの両手で包み込めるくらいの大きさだった。
エフィンは、その球体を見ると何故か拾わなければいけないと心の底から感じ、動くことも困難な体を無理やり動かして少しずつその球体に近づいていく。
そして、等々エフィンはその光の球体に触れたその瞬間。
≪スキル『生命力強化Ⅰ』を取得しました≫
そんな声がエフィンの脳内に聞こえてきたのだ。
エフィンは当然そのことに驚き、それと共にあることを疑問に思う。
それは、当然今取得した生命力強化のこともそうだが、それとは別に自身が既に5つのスキルを所持していることに対しての疑問だ。
本来ならば、スキル限界所持数である5を超えた場合、『限界数を超えているので所持しているスキルか取得しているスキルのどちらかを捨ててください。制限時間は24時間です。それを超えた場合取得スキルは自動的に捨てられます。またその間は新たにスキルを取得することができなくなります』という風に聞こえるはずなのだ。それが今回は無い。
エフィンはそのことを疑問に思ったのだが、答えに辿り着くことができないので、とりあえず自身のステータスを念じることで確認する。
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名前エフィン
種族人族
年齢8
性別男
状態衰弱
ノーマル級スキル
病気耐性Ⅰ 毒耐性Ⅰ 飢餓耐性Ⅱ
悪食Ⅱ 小食Ⅱ
レア級スキル
生命力強化Ⅰ
神級スキル
ウェストピッカー
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エフィンは自身のステータスに驚く、それは神級スキルというものが存在していたからだ。
普通の人はまず持っていてもレア級スキルまでであり、稀にその上のユニークスキルを生まれつきや偶然取得する人がいるくらいで、更にその上の幻想級というのがあるというのを偶然聞いたことがあるくらいだった。
それが、自分の目の前に表示されているステータスには神級スキルと表示されている。
神となっていることから幻想級より上のものではないかとエフィンは思う。
そして、エフィンは緊張しながらもその効果を念じることで表示させた。
ウェストピッカー
効果
捨てられたスキルを目視することができるようになり、それに触れることでそのスキルを取得することができる。
取得する前提条件として、自分以外の者がスキルを捨てる瞬間を目視する必要があり、その瞬間を見なければ捨てられたスキルを見ることはできない。
このスキル所持者はスキルの所持限界数が無くなる。
このスキルは神級以上のスキルでなければこのスキルを確認することはできない。
スキルの効果はとんでもないものであり、スキルの所持限界数が無くなるというだけでもすごいものだった。
それが条件付きとはいえ、何の苦労もせずに他人の捨てたスキルを取得できるということにはエフィンも驚きを隠せない。
エフィンは、驚きながらも続いて先ほど取得した生命力強化Ⅰの効果を確認してみる。
生命力強化
効果
生命力を強化して体力などを上昇させ、また自然治癒力を上昇させる。
ある程度の状態異常なら回復までの時間が短縮される。
レベルが高いほど効果が上がる。
このスキルに対してもエフィンは先ほどのウェストピッカーほどではないが驚く。
何故ならこのスキルがあれば、死なないで済むかもしれないと思ったからだ。
エフィンは前世では自殺した記憶があるとはいえ、それは前世であり、今世では死にたくないと思っていた。前世の自殺した時の苦しみや恐怖があるのでその気持ちはなおさら強い。
故に生きる可能性があるこの生命力強化というスキルはエフィンにとってありがたいスキルだった。
先程から衰弱していて動くのが難しい身体が、今では先ほどより動くのが苦ではなくなっている。といっても現在エフィンは衰弱しており、動くのがつらいのには変わりない。
そして、エフィンは一応以前から所持しているスキル効果も再度確認することにした。
もしかしたら何か変化があるかもしれないと思ったからだ。
病気耐性
効果
病気に対する耐性を得る。
レベルが高いほど効果が上がる。
毒耐性
効果
毒に対する耐性を得る。
レベルが高いほど効果が上がる。
飢餓耐性
効果
飢餓に対する耐性を得る。
レベルが高いほど効果が上がる。
悪食
効果
大抵の物なら食べても体調を崩さなくなる。
レベルが高いほど効果が上がる。
小食
効果
食べ物を食べた際に少量で満足できるようになる。
レベルが高いほど効果が上がる。
しかし、確認した結果は以前と変わらなかった。そう何度も都合よくできてはいない。
だが、そのことは仕方がないとあきらめ、エフィンはこれから生き残るために、早速動くことにした。
先程までは気力も落ちていたが、生命力強化の影響か、生きなければいけないという気持ちが先ほどよりも強くなっている。
エフィンは地面を這いずりながらも栄養となるものを探し、しばらくして黒くカサカサと動く、前世の自宅に多く潜んでいたある虫と類似した生き物を発見すると、それを素手で捕まえて口に放り込む。
当然噛むごとにぐちゃぐちゃと音を立て、口の中に苦みが広がる。
この虫は汚く、食べた場合病気になる可能性があるため、スラム街でもこの虫を食べる者は少なく、食べ物が得られない場合の最終手段であった。
更に見た目からその虫を苦手とする者も多かったが、エフィンは前世の記憶からその虫以外にも多くの生き物が自宅に潜んでおり、耐性があったため、手で掴むことにも抵抗は無い。
だが、苦いものは苦く、まだ幼いエフェンはあまりの不味さに涙が零れそうになるのだが、それを我慢して、その後数匹捕まえてエフィンはそれを食した。
エフィンはそれから数日の間、虫などを食べて栄養を蓄えたことにより、何とか衰弱から回復して、運よくあの虫を食べたことによる病気にもならずに済み、更には所持していた病気耐性がⅡに、悪食がⅢ上昇して、おまけに衰弱耐性Ⅰを新たに取得している。
そして、エフィンは前世の記憶が穴だらけとはいえ、記憶が蘇ったことにより、今の生活よりも裕福な世界があることを知り、それと共に、人など所詮は裏切り真には信用できない生き物だと改めて思う。
エフィンは、今まで1人になっても唯一残っていた善意というものが、記憶の蘇りでほぼなくなっていた。
エフィンは思う。これからは利用できるものは利用しよう。所詮他人は他人。他人が不幸になったところで、自分は知ったところではない。自分が不幸になるよりはよほどましだと。
エフィンは、8歳にしてその心は前世の記憶と引き換えに、深く闇に染まってしまっていた。
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