011

 最初はこの世界に来て、スペード神を手助けする程度に考えていた。人と関われば関わるほど。自分の精神が作られ、形作られていくような気がしてならない。

 これもスペード神の狙いなのか? 失いたくないという気持ちにさせるための。

 二日目でこうなるとは、これから先俺はどこまで変わってしまう?

 宿屋で借りた部屋に戻ってくると、そんなことが頭の中で渦巻く。

 ああ、こんなことを考えていても仕方がない。どちらにしても、死なないために俺は強くなる必要がある……あれ? なんで俺は死にたくないんだ? 眠るため? でも死ねば永遠に眠っていられる。

 だが、死んだ後の睡眠は至高な睡眠なのか? わからない。だが、生きている限り至高の睡眠を得られる。

 そう、俺は至高の睡眠を得るために死ぬわけにはいかない。それでいいじゃないか。

 結局、至高の睡眠を得るために生きて強くなるということに落ち着いた。

 はあ、想像以上に疲れたな。そう、精神的に。外はようやく夕方か。一日五時間というのはいつリセットされるんだ? やはり日付が変わった瞬間か? だとすると、まだ当分先だ。

 ならばと、今日手に入れた素材を吟味することにした。

 あ、そういえば、結局あの盗賊の所持品、何も拾わなかったな……あの冒険者、それをわかっててわざと言わなかったのか。

 脳裏にあの冒険者たちがあざけっている姿が浮かんでくる。

 まあ、どのみち拾う気がなかったし、大したものはないだろう。ただ、今後あの冒険者と何かあったときは少々考える必要があるだけだな。

 そんなことを思いつつ、俺はいくつかの素材を使い、装備を作る。その結果は以下の通りだ。

ウルフの毛皮+コボルトの牙+魔力泥
=魔犬の外套

 名称:魔犬の外套
 作者:ジャック・ジョーカー
 分類:外套
 階級:希少
 耐久:250/250
 能力:『敏捷力上昇(小)』『魔法耐性(小)』

 なかなか良い物ができた。見た目が少し目立つ以外は。

 魔犬の外套は、基本は灰色の外套だが、緑色をした魔法陣の模様が所々にあり、フードの部分にはなぜか犬耳を模したような出っ張りがある。ボタンのところにはコボルトの牙がおしゃれに使用されているそれは、正直目立って仕方がない。

 だが、性能はいいんだよな。同じ素材をすべて使ったし、込める魔力も限界まで込めてみた。逆に使わない以外はない。狩りの時に使用しよう。

 因みに、錬金鍛冶術でまた新たに分かったことがある。それは、素材の種類は三種類までということ。

 それ以上になると発動はするが、低性能の全く使えないものが出来上がるので、割に合わない。

 そして、残りの素材で販売用にいくつか作成したが、やはり自分の戦闘スタイルにあう装備はなかった。

 お腹が空いたな。食事にするか。

 ひと段落ついた俺は、ストレージに全てしまうと、宿屋の一階で食事を摂る。今日は収入があったので、まともな一食分の量があり、満足した。

 さて、あとどれくらいで眠ることができるんだ? 俺はもう眠りたいのだが。

 部屋に戻ると、俺は下着姿でベッドに転がる。今は男性用下着なので、安心感はなかなかのものだ。

 しかし、一日の睡眠時間が五時間という制限のせいで、眠りたいのに眠ることができない。

 眠れない……地獄だ。今日はもうやることがないぞ。

 時間を持て余した俺は、いくつかの称号効果を再度確認することにした。

 名称:異人
 説明:異人である証明。
 効果:一定以上の知能を有する種族言語を理解し、また読み書きを可能とする。いくつかのシステムを使用可能とする。

 名称:理不尽を超えし者
 説明:最初に理不尽を乗り越えた者に送られる称号。 
 効果:理不尽な状況下に陥るほど自身のあらゆる能力が上昇する。選択スキル枠+2。

 名称:ユニークキラー
 説明:最初にユニークモンスターを倒した者に送られる称号。 
 効果:ユニークモンスター討伐時におけるドロップアイテム数+1。選択スキル枠+1。

 名称:先達者
 説明:最初にモンスターを倒した者に送られる称号。 
 効果:選択スキル枠+1。

 最初の異人という称号は、異人ならだれでも所持しており、ストレージやパーティなどもこの称号のおかげで使用できる。

 そして、残りの三つはチュートリアルでサラマンダーを倒したときに獲得したものだ。特に理不尽を超えし者とユニークキラーは役に立つ。

 選択スキルの枠も、今は持て余してはいるが、いつかは役に立つだろう。

 そういえば、ボスモンスターっていうのもいるんだっけ? 確かチュートリアルで聞いた限りだと、拠点と拠点の間にいて、異人が来た時だけ現れるらしい。

 もう誰か倒してしまっただろうか。もしかして、荷運びの依頼を受けていたら遭遇したかもしれないな。

 だがきっとそれはそれで面倒なことになるだろう。断ってよかった。

 俺はそう思いつつ、次に今日レベルが上昇したスキルを確認する。

【大型武器】2→3
【軽業】2→3

 上昇したのはこの二つだった。頻繁に使っているスキルでも、3から4にまでは何か壁のようなものがある気がする。因みに、軽業の効果はこんな感じだ。

 名称:軽業
 効果:身のこなしに補正がかかる。

 シンプルな効果だが、このスキルのおかげで体のしなやかさがかなり違う。特に回避行動の時にはかなり助かっている。

 そうして、それ以降やることが思いつかず。少しでも眠った感覚が欲しかった俺は、目をつむって眠っているときの感覚を思い出す。

 ただひたすらに頭を空っぽにして、闇の中に沈んでいく。それでも何かが眠らせるものかと、意識が沈まないように引き上げられる。

 その境目を俺は維持し続けた。そして、どれだけそうしていただろうか、縛っていた鎖が解けるように。俺は解放される。

 これこそ至福。

 そして、意識は完全に沈んだ。


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