033 バトルロイヤル

 日付が変わる頃、俺たちは動き出す。

 事前に仮眠を交代で行ったものの、長時間は同じ場所にはいられなかったので、やはり少々眠い。

『来たぞ』
『うん』

 司令官の鏡を通して、念話を行う。

 ここからは、少しの油断もできない。

 そして日付が変わると同時に、山が動き出す。

 ダンジョンのエリアは縮小していき、最終的には塔とその周辺、僅かな森と草むらなどを残すだけになった。

 地図で確認すると、おそらくこうなる。

 山山山
 山塔山
 山山山

 塔=中央の塔+現在地
 山=山

 当然、プレイヤー達の生き残りも集結することになった。

 周囲には敵意がいくつも感じられ、どこも塔の入り口を見張っている。

 俺たちも同様であり、硬直状態だった。

 塔の中がどうなっているのか不明だし、先に動けば他のプレイヤーに狙われる可能性がある。

 けれどもそんな硬直状態の中で、一人動く者がいた。

 あれは、昨日出会ったノーブという男か。

 どうやら、生き残っていたみたいだな。

 ノーブは怯えながら周囲を気にしつつも、塔の中へと入っていく。

 塔から逃げ出したのに、なぜ塔に戻る?

 俺がそう思っているとノーブが出てきて、両手で円を描く。

 すると複数のプレイヤー達が、ノーブを押しのけて塔へと侵入していった。

 なるほど。他のプレイヤー達の手駒になったのか。

「くそっ、出遅れた!」
「行くぞ!」

 見れば、他のプレイヤー達も急いで塔の中へと向っていく。

 それに吸い寄せられて、残った者たちも続いた。

 残されたのは俺とペロロさん。あとはごく少数である。

『僕たちも行くかい?』
『そうだな……いや、待て』

 俺が行くか迷っていると、塔の入り口付近で倒れていたノーブの様子が、少々おかしい事に気が付く。

 ノーブは立ち上がると、悪そうな笑みを浮かべて塔から遠ざかった。

 あれはどう見ても、何か企んでいる顔だよな。

『もう少し、様子を見よう』
『わかったよ』

 それから何人か塔に入っていったものの、出てきた者はいない。

 ノーブにも動きは無いし、何を待っているのだろうか。

 そして気が付けば、とうとう朝日が登り始める。

 するとようやく、変化が訪れた。

「おらノーブ! どこにいやがる! 出てきやがれ!」
「俺たちを騙したな!」
「仲間の仇だ! ぶっ殺してやる!」

 塔から出てきたのは、最初に入った集団だ。

 数は当初五人ほどいたが、三人になっている。

 後から入った者たちと、争いになったのだろうか。

 そういえば、塔にいるという強者と女性プレイヤーは、どうなったんだ?

 もしかして、ノーブの嘘だったのだろうか。

 そう俺が考えた時だった。

「ぐえっ!?」

 男の一人が、額から矢を生やす。

 続けて矢がどこからか飛ぶが、流石に剣で叩き落とした。

「くそが! 卑怯野郎! 出てこい!」
「おい、一度塔にもど――ぐあっ!?」

 すると別の場所からプレイヤーが飛び出して、背後から剣で男を突き刺す。
 
 そして引き抜くと、木々の中へと逃げていった。

 流石にこれは不味いと思ったのか、生き残った男が一人塔の中へ戻ってく。

「ま、まってぐれ……」

 刺された男はそう言うが、どこからともなく矢が放たれて死亡した。

『これは、完全にバトルロイヤルになっているね』
『ああ、最後に生き残った者が優勝だろう。そうすれば、ポイントなど関係ないからな』

 これは他のプレイヤーと出会ったら、やられる前にやるしかない。

 他のプレイヤーもそう思ったようで、敵性感知の数が一気に増える。

 といっても、残りの人数は少ないようだ。

 俺とペロロさんを除くと、七人しかいない。

 塔にいる男、弓を放った者、剣で突き刺した者、そしてノーブ。

 この四人以外に、判明していない者があと三人いる。

 塔からは、他に反応はない。

 もしかして、塔は無人になっていたのだろうか?

 敵意が一切感じられないのは、そうとしか思えない。

 どうしてそうなったかは不明だが、今は気にしている暇はないな。

 しかしそこからは、完全に硬直状態になった。

 誰も動く気配が無い。

 こうなると、塔にいる男が有利だな。

 おそらく明日になれば、エリアは塔だけになる可能性がある。

 それか、時間切れでイベントが終わるかの二択だ。

 後者なら、俺たちが有利である。

 優勝は狙っていなかったが、仙人河童とオタオークの上位種を倒した俺たちは、優勝する可能性が高い。

『ここまで来たら、僕かクルコン君が優勝したいね』
『まあ、そうだな。それに俺たちは二人だし、人数的には有利だ』

 敵意から判断すれば、俺たち以外は全員単独である。

 だが逆に俺たちが複数だと分かれば、残りの者たちが集中的に狙ってくるだろう。

 すると気配の中の一つが、別の気配に近づく。

 そして、片方が消えた。

 つまり、誰かがやられたのだろう。

 これで生き残りは、俺たちを含めて八人になった。

 流石に、動く者が現れたか。

 それを皮切りに、誰かを倒したプレイヤーが動き出す。

 あの場所は、確かノーブがいるところだな。

「ひぇえ!! 私は優勝に興味はない! 見逃してくれぇ!!」

 ノーブはそう叫び、草むらから飛び出す。

 当然、弓矢が放たれる。

「ぐえっ!?」
「ひぇえ!!」

 だがそれはノーブではなく、その背後に潜んでいた者にだ。

 気配が消えたので、一撃で倒されたことを理解する。

 その隙に、ノーブは別の草むらに飛び込んで消えていった。

 これで、残りは七人。

 にしてもあの弓を放ったプレイヤーは、かなりの腕だ。

 油断したら、俺もやられるかもしれない。

 他のプレイヤーもそう思ったのか、同時に動く気配がした。

 狙いは、弓を放ったプレイヤーである。

「くっ! やっぱり狙ってくるわよね」

 そう言って草むらから出てきたのは、弓を持つ女性プレイヤー。

 このダンジョンに女性プレイヤーとは、珍しい。

 その女性プレイヤーは、テンガロンハットにカウボーイのような服装をしていた。

 年齢は十代半ばで、髪の色は青く意志の強そうな顔をしている。

 手には当然、弓を握っていた。

「チャンスだぜ!」
「女だ!」

 すると、女性プレイヤーを同時に狙った二人の男たちが、草むらから現れる。

「俺もまぜろよ。仲間の仇だ」

 加えて、塔の中から男が姿を見せた。

「まだイベントには、時間があったよな?」
「ああ、つまり、色々できるな」
「そうだ。残りの敵がどれだけいるか分からねえし、三人で組もうぜ」

 男たちは女性プレイヤーを見て、手を組むことにしたようだ。

 これは、不味い。

『ペロロさ――』

 俺がペロロさんに、提案を持ちかけようとした時だった。

「でやぁああ!!」
「ぐべぼっ!?」

 男の一人が、ペロロさんによって蹴り飛ばされる。

「あ、あなたは!?」

 女性プレイヤーも、突然の出来事に驚愕の声を上げた。

 ああもう、仕方がないな。

 ペロロさんが動いてしまったのなら、仕方がない。

 俺のできることをしよう。

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