日付が変わる頃、俺たちは動き出す。
事前に仮眠を交代で行ったものの、長時間は同じ場所にはいられなかったので、やはり少々眠い。
『来たぞ』
『うん』
司令官の鏡を通して、念話を行う。
ここからは、少しの油断もできない。
そして日付が変わると同時に、山が動き出す。
ダンジョンのエリアは縮小していき、最終的には塔とその周辺、僅かな森と草むらなどを残すだけになった。
地図で確認すると、おそらくこうなる。
山山山
山塔山
山山山
塔=中央の塔+現在地
山=山
当然、プレイヤー達の生き残りも集結することになった。
周囲には敵意がいくつも感じられ、どこも塔の入り口を見張っている。
俺たちも同様であり、硬直状態だった。
塔の中がどうなっているのか不明だし、先に動けば他のプレイヤーに狙われる可能性がある。
けれどもそんな硬直状態の中で、一人動く者がいた。
あれは、昨日出会ったノーブという男か。
どうやら、生き残っていたみたいだな。
ノーブは怯えながら周囲を気にしつつも、塔の中へと入っていく。
塔から逃げ出したのに、なぜ塔に戻る?
俺がそう思っているとノーブが出てきて、両手で円を描く。
すると複数のプレイヤー達が、ノーブを押しのけて塔へと侵入していった。
なるほど。他のプレイヤー達の手駒になったのか。
「くそっ、出遅れた!」
「行くぞ!」
見れば、他のプレイヤー達も急いで塔の中へと向っていく。
それに吸い寄せられて、残った者たちも続いた。
残されたのは俺とペロロさん。あとはごく少数である。
『僕たちも行くかい?』
『そうだな……いや、待て』
俺が行くか迷っていると、塔の入り口付近で倒れていたノーブの様子が、少々おかしい事に気が付く。
ノーブは立ち上がると、悪そうな笑みを浮かべて塔から遠ざかった。
あれはどう見ても、何か企んでいる顔だよな。
『もう少し、様子を見よう』
『わかったよ』
それから何人か塔に入っていったものの、出てきた者はいない。
ノーブにも動きは無いし、何を待っているのだろうか。
そして気が付けば、とうとう朝日が登り始める。
するとようやく、変化が訪れた。
「おらノーブ! どこにいやがる! 出てきやがれ!」
「俺たちを騙したな!」
「仲間の仇だ! ぶっ殺してやる!」
塔から出てきたのは、最初に入った集団だ。
数は当初五人ほどいたが、三人になっている。
後から入った者たちと、争いになったのだろうか。
そういえば、塔にいるという強者と女性プレイヤーは、どうなったんだ?
もしかして、ノーブの嘘だったのだろうか。
そう俺が考えた時だった。
「ぐえっ!?」
男の一人が、額から矢を生やす。
続けて矢がどこからか飛ぶが、流石に剣で叩き落とした。
「くそが! 卑怯野郎! 出てこい!」
「おい、一度塔にもど――ぐあっ!?」
すると別の場所からプレイヤーが飛び出して、背後から剣で男を突き刺す。
そして引き抜くと、木々の中へと逃げていった。
流石にこれは不味いと思ったのか、生き残った男が一人塔の中へ戻ってく。
「ま、まってぐれ……」
刺された男はそう言うが、どこからともなく矢が放たれて死亡した。
『これは、完全にバトルロイヤルになっているね』
『ああ、最後に生き残った者が優勝だろう。そうすれば、ポイントなど関係ないからな』
これは他のプレイヤーと出会ったら、やられる前にやるしかない。
他のプレイヤーもそう思ったようで、敵性感知の数が一気に増える。
といっても、残りの人数は少ないようだ。
俺とペロロさんを除くと、七人しかいない。
塔にいる男、弓を放った者、剣で突き刺した者、そしてノーブ。
この四人以外に、判明していない者があと三人いる。
塔からは、他に反応はない。
もしかして、塔は無人になっていたのだろうか?
敵意が一切感じられないのは、そうとしか思えない。
どうしてそうなったかは不明だが、今は気にしている暇はないな。
しかしそこからは、完全に硬直状態になった。
誰も動く気配が無い。
こうなると、塔にいる男が有利だな。
おそらく明日になれば、エリアは塔だけになる可能性がある。
それか、時間切れでイベントが終わるかの二択だ。
後者なら、俺たちが有利である。
優勝は狙っていなかったが、仙人河童とオタオークの上位種を倒した俺たちは、優勝する可能性が高い。
『ここまで来たら、僕かクルコン君が優勝したいね』
『まあ、そうだな。それに俺たちは二人だし、人数的には有利だ』
敵意から判断すれば、俺たち以外は全員単独である。
だが逆に俺たちが複数だと分かれば、残りの者たちが集中的に狙ってくるだろう。
すると気配の中の一つが、別の気配に近づく。
そして、片方が消えた。
つまり、誰かがやられたのだろう。
これで生き残りは、俺たちを含めて八人になった。
流石に、動く者が現れたか。
それを皮切りに、誰かを倒したプレイヤーが動き出す。
あの場所は、確かノーブがいるところだな。
「ひぇえ!! 私は優勝に興味はない! 見逃してくれぇ!!」
ノーブはそう叫び、草むらから飛び出す。
当然、弓矢が放たれる。
「ぐえっ!?」
「ひぇえ!!」
だがそれはノーブではなく、その背後に潜んでいた者にだ。
気配が消えたので、一撃で倒されたことを理解する。
その隙に、ノーブは別の草むらに飛び込んで消えていった。
これで、残りは七人。
にしてもあの弓を放ったプレイヤーは、かなりの腕だ。
油断したら、俺もやられるかもしれない。
他のプレイヤーもそう思ったのか、同時に動く気配がした。
狙いは、弓を放ったプレイヤーである。
「くっ! やっぱり狙ってくるわよね」
そう言って草むらから出てきたのは、弓を持つ女性プレイヤー。
このダンジョンに女性プレイヤーとは、珍しい。
その女性プレイヤーは、テンガロンハットにカウボーイのような服装をしていた。
年齢は十代半ばで、髪の色は青く意志の強そうな顔をしている。
手には当然、弓を握っていた。
「チャンスだぜ!」
「女だ!」
すると、女性プレイヤーを同時に狙った二人の男たちが、草むらから現れる。
「俺もまぜろよ。仲間の仇だ」
加えて、塔の中から男が姿を見せた。
「まだイベントには、時間があったよな?」
「ああ、つまり、色々できるな」
「そうだ。残りの敵がどれだけいるか分からねえし、三人で組もうぜ」
男たちは女性プレイヤーを見て、手を組むことにしたようだ。
これは、不味い。
『ペロロさ――』
俺がペロロさんに、提案を持ちかけようとした時だった。
「でやぁああ!!」
「ぐべぼっ!?」
男の一人が、ペロロさんによって蹴り飛ばされる。
「あ、あなたは!?」
女性プレイヤーも、突然の出来事に驚愕の声を上げた。
ああもう、仕方がないな。
ペロロさんが動いてしまったのなら、仕方がない。
俺のできることをしよう。
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