気が付けば、イベントは三日目を迎えていた。
二日目はオタオークの上位種よりも、ペロロさんの方が強敵だったと言っておこう。
外に出れば、やはり山が近づいてきている。
明日になれば、おそらく塔の周辺しか残らないだろう。
塔にはあまり近付きたくないが、仕方がない。
それまではできるだけプレイヤーとの接触を避けつつ、行動することにした。
また木のうろの効果もそろそろ切れるので、別の場所に新たに設置する。
といっても、新しく設置した場所は近い。
それとダンジョンの地図も、おそらくこうなっているだろう。
山山山山山
山森森森山
山森塔森山
山森森拠山
山山山山山
拠=拠点+現在地
塔=中央の塔
森=森
山=山
また食料を手に入れる方法は、ほぼ無くなっていると思われる。
俺とペロロさんは、二人だけならしばらくは問題がない。
それよりも塔にいるプレイヤー達の方が、大変だろう。
おそらく、生き残りの大部分が塔にいるはずだ。
食料が無くなった場合、何が起きるか分からない。
もちろん昨日の内に果物を採取しているだろうし、各人が持ってきた食料もあるはずだ。
なのでこれは、考えすぎかもしれない。
けれども万が一という事もあるので、気を抜かずに行こうと思う。
それと新たに設置した木のうろの中で、昨日手に入れた司令官の鏡を試してみる。
すると自身を中心として、周囲の敵性反応を把握することができた。
少し離れたところにオタガッパと思われる反応と、プレイヤーと思われる反応が複数。
オタガッパは分かるのだが、プレイヤー達はなぜ反応した?
もしかしたら最初から他のプレイヤーを見つけ次第、攻撃を仕掛ける気なのかもしれない。
動きも遅いし、周辺を探っているのだろう。
これは、木のうろを見つけるようなアイテムを所持している可能性がある。
俺はその情報をペロロさんと共有した結果、もったいないがこの木のうろを放棄することを決めた。
荷物を持ち、敵のいない方へと逃げていく。
この司令官の鏡があれば、逃げるのは容易だった。
ちなみにこの司令官の鏡は、俺が持つことになっている。
ペロロさんが言うには俺がパーティのリーダーであり、持っていてほしいと考えを譲らなかった。
まあ、パーティ内なら一時的に貸し出せるので、ペロロさんの言う通りに俺が持っていてもさほど問題はない。
そういう訳で、現在は俺が司令官の鏡を所持している。
『クルコン君、聞こえるかい? 今僕はクルコン君の心に直接語りかけています……なんてね』
『ああ、聞こえるよ。念話で会話できるのは、こうしたイベント時だと便利だな』
司令官の鏡の効果の一つに、仲間に念話を飛ばせるというものがある。
加えて仲間からも、俺に念話をすることができるみたいだ。
念じるだけでいいので、他のプレイヤーと出会った時にかなり重宝するだろう。
他にも、ペロロさんの視界を脳内に映し出すことができる。
だがこれは、練習が必要そうだ。
自分の視界とごっちゃになるので、少し気持ち悪くなる。
あとは俺を基準にした仲間同士のネットワーク構築だが、これは他に仲間を一人増やさなければ、判断できなさそうだ。
なので、今は気にしないことにした。
それからはプレイヤーを避けつつ、オタオークとオタガッパの生き残りを倒していく。
意外と塔の外を出歩くプレイヤーは少なく、今のところ一度も接敵していなかった。
しかし、それは敵意のないプレイヤーである。
「うぁあ!? こ、ころさなでぇ!!」
すると偶然遭遇した男性プレイヤーが、俺を見た途端そう言って怯え始めた。
司令官の鏡が反応しなかったという事は、少なくともこちらに敵意を向けていない。
「落ち着け、殺さないし、酷いこともしない」
「ほ、本当か?」
「ああ」
男は荷物を何も持っておらず、衰弱していた。
仕方が無いので、僅かな保存食と水を分けてやる。
「た、助かりました。私はノーブと申します」
「クルコンだ」
「幼精紳士ペロロだよ」
「妖精?」
ペロロさんの名前を聞いて男が勘違いしている気がするが、そこは突っ込まないことにしよう。
とりあえずノーブと名乗った男に、なぜ何も持たず衰弱していたのか訊いてみる。
「実は、あの塔の中は今大変なことになっているのです。私のような無能は、逃げ出すしかありませんでした」
「大変なこと?」
それからノーブに話を訊くと、以下のことが分かった。
・塔は強者が牛耳り、弱者は奴隷のような扱いを受けている。
・弱者は僅かな水と食料だけ与えられ、モンスターへの盾や囮にされ続けた。
・その塔の頂点に立つのが、一人の女性プレイヤー。
・しかし今朝理由は不明だが、女性プレイヤーを巡り、強者たちが殺し合いを始めた。
・弱者はそれに巻き込まれて、殺されていく。
・ノーブは殺される前に、何とか逃げることに成功した。
以上が、ノーブの知る塔についてだ。
想像以上に、塔はヤバいことになっているな。
「なるほど。姫プレイヤーがパーティクラッシュしたみたいだね」
「まあ、訊いた限りそうみたいだな」
もしかしてだがその女性プレイヤーは、自分が優勝するために殺し合いを誘因したのではないだろうか。
優勝はポイントが高い者が選ばれるが、前提として生き残る必要がある。
なので死亡すれば、ポイントが高くても優勝はできなくなるということだ。
「クルコン君も、同じ答えに辿り着いたみたいだね?」
「逆に、そうとしか思えないだろ……」
その答えから導き出されるのは、塔にはギリギリまで近付かないということ。
今塔は、女性プレイヤーを巡るバトルロイヤルの場と化している。
近付くのは、当然危険極まりない。
そうした理由から、俺とペロロさんは今後の方針を決めると、ノーブと別れることにする。
「待ってくれ! 私も連れて行ってくれ! 何でもしますから!」
そうは言うが、俺たちも人一人の面倒を見る余裕はない。
何よりも、ペロロさんを見るその目が嫌だった。
こいつはペロロさんと見て、ワンチャンあるとか考えているようだ。
そんな危険人物を、連れていけるはずがない。
「無理だ。俺たちにそんな余裕はない」
「そういう訳だから、諦めてよ」
俺たちは言葉を残し立ち去ろうとするが、ノーブが追いかけてくる。
だが途中から俺に敵意を向けてきたので、感知に反応するようになった。
あとは身体能力を活かして、ノーブを引き離すことに成功する。
「あれはダメだね。僕のこと、エッチな目で見ていたよ。僕をそういう目で見ていいのは、クルコン君だけなのにさ」
そう言ってペロロさんは、俺に抱き着き深呼吸し始める。
「す~はぁ~。クルコン君の匂いは落ち着くなぁ。クルコニュウムも補充できるし、最高だよ!」
「クルコニュウム?」
よくわからないが、ペロロさんは俺からクルコニュウムという謎のエネルギーを補充しているらしい。
何はともあれ、俺たちは一、森の中をプレイヤーに会わないように工夫しながら、彷徨い続けるのだった。
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