034 イベントの終わりと優勝者(完)

「なんだてめぇ! ぐげらっ!?」
「ろ、ロリだとっ! うべげぇっ!?」

 俺が動く前に、ペロロさんがあっという間に倒してしまった。

 うん、まあ……ペロロさん、強いからね。

 あ、しっかり止めを刺している。

 よかった。そこは甘くないらしい。

 これで、生き残りは四人か。

 俺、ペロロさん、弓の女性、そして……。

「く、くらぇえ!!」

 草むらの中からノーブが現れると、勢いよく何かを投げる。

 それは目にも見えないほどに加速して、一瞬で二人に命中してしまう。

「うぐっ、なにこれ……」
「か、体が……」

 すると二人は体が痺れたようになり、地面に倒れる。

 なんだあれは!? あんなアイテムを隠し持っていたのか!!

「うへ、うへへ、やった! やったぞ! 私が優勝だ! ひゃははっ! しかも美少女二人も手に入れた! 今日はお祭りだぁ!」
「残念だが、お祭りは中止だ」
「へぇ? ――ぐげぇ!?」

 俺は木剣で、ノーブの首を叩き折った。

 こいつ俺と会ったことあるのに、俺のこと忘れていたのか? 間抜けすぎだろ……。

 まあ、それを忘れるくらい、チャンスだと思ったのだろうが……。

 そしてこういうときこそ危ないので、周囲を警戒する。

 だが、敵意を感じることは無かった。

「お、おそぃよぉ」
「悪い悪い」

 もう痺れから回復し始めたのか、ペロロさんがゆっくりと動き出す。

「あ、あなたは、クルコン……君ね」
「ああ、俺のことを知っているのか?」
「ふふっ、探していたくらいよ……」

 そう言って、弓の少女は笑みを浮かべる。

 どうやら、敵対する気はないようだ。

 とりあえずここは危険なので、移動することにした。

 ペロロさんは自分で動けそうなので、少女の方を抱える。

「ふぇ?」
「ぇぇ!? なんで僕じゃないのぉ!! 寝取られ!? これが寝取られ!?」
「ペロロさんは動けそうだし、大丈夫でしょ?」
「そんなぁ!」

 ペロロさんはそうばげくが、一人で立ち上がって歩き出す。

 弓の少女はまだ動けそうにないので、そう考えるとペロロさんはやはり凄い。

 そういう訳で、一先ず草むらに身を隠す。

 一応周囲には敵意は無いので、おそらく大丈夫だと思うが。

「改めて、お礼を言うわ」
「別に気にしないでくれ。助けたのは偶然だ。場合によっては、戦いになったかもしれないしな」

 俺はそう言うが、ペロロさんがここで口を挟む。

「それは無いと思うなぁ。だってその子、僕の知り合いのルイルイちゃんだもん」
「ああ、やっぱり分かっちゃう?」
「うん。あの同志達は、一通りどんな人か確認しているからね」

 ペロロさんはどや顔で、ルイルイと呼んだ少女に笑みを浮かべる。

 どこかで聞いた名前だと思ったが、ペロロさんがパーティに誘う候補として上げていた人物だったな。

「そういう事だったのね。それであなたは、あのペロロちゃんでいいのかしら?」
「ふふんっ、そうだよ。僕こそが幼精紳士ペロロだよ!」
「やっぱり、名前と見た目のギャップが凄いわね……」

 そんなやり取りを見て、俺はこの人は大丈夫だろうと判断した。

 しかしその時、ペロロさんが爆弾を落とす。

「あっ、言っておくけど、僕とクルコン君は、初めてを交換した仲だからね? そこのところ、気をつけてほしいな」
「えっ? 初めて? ふふ、私を勘違いさせて揶揄からかうつもりね? そうはいかないわよ」
「交換したのは童貞と処女だよ?」
「へ……ぇええええええええ!?」

 ぺ、ペロロさん、なんでそれを言っちゃうのかなぁ……。

 俺は右手を額に当てて、天を仰ぐのだった。

 あれから色々あったが、ルイルイさんの痺れも治ったことで、塔へと侵入を始める。

 ルイルイさんには臨時でパーティへと入ってもらい、行動を共にすることになった。

 そして塔に入ると、天辺まで見事な吹き抜けになっている。

 上に登る方法はなく、この一階層だけが入れるようだった。

 壁にはいくつものドアがあるので、一つずつ調べていく。

 だが中には誰もおらず、無人だった。

 それから今度は数時間かけて、丁寧にプレイヤーがいないか確かめていく。

 けれども結果として、やはり誰も見つからなかった。

 敵意にも反応はない。

 外に意識を向けても、モンスター一匹の反応すら感じ取れなかった。

「このダンジョンの生き残りは、俺たちだけかもしれないな」
「という事は、優勝はこの中からだね」
「ああ、先に行っておくけど、私は優勝に興味はないわ。クルコン君を見つけるのが、目的だったもの」

 そう言って、ルイルイさんはため息を吐く。

 どうやら俺を探していたようだが見つからず、それを深く悔やんでいるようだ。

 にしても、なぜ俺を探していたのだろうか?

 ルイルイさんとは、出会ったことが無いはずだが……。

 そんなことを疑問に思っていると、ペロロさんが教えてくれる。

「ルイルイちゃんはね。クルコン君のファンなんだよ?」
「え?」
「べ、別にそんなんじゃ……いえ、ファンと言われれば、ファンなのかもね……」
「じゃなきゃ、ストーカだもんね?」
「ス、ストーカーじゃないもん!! っ!! わ、私はただのファンよ」

 今の『ないもん!!』は無かったことになったようだ。

 そうか、俺のファンだったのか。

 つまり、俺の生放送を見ていたのだろう。

 ……何か気まずいな。

 アレを見られていたとは……とりあえず、この空気をどうにかしよう。

「あ、握手します?」
「……する」

 俺が右手を差し出すと、ルイルイさんが両手で握り返してきた。

 それを見て、ペロロさんが声を上げる。

「あぁ!?」
「なに? これくらい、いいじゃない」
「うぅ。悔しいけど、興奮するぅ」
「えっ……ペロちゃん、頭大丈夫?」

 ペロロさんの言動がおかしいけど、ここは気にしないことにしよう。

 それには、触れてはいけない気がする。
 
 ◆

 それから入り口付近で見張り続けたが、結局誰も現れなかった。

 翌日には山が狭まり、塔の入り口が完全に塞がれる。

 これで、誰も塔に入ることができなくなった。

 念のため、再度塔の内部をしつこいくらい探したが、プレイヤーの姿は影も形もない。

「流石に、これで確定だろう」
「そうだね。僕たちの勝ちだ」
「まさか私も、ここまでリタイアせずに済むとは思わなかったわ」

 これでようやく緊張の糸が切れたのか、食事を摂って休むことになった。

 塔には部屋がいくつもあり、ベッドも見つかる。

 しかしそのベッドはなんだか汚かったので、ぬるぬるすっきりポーションを水魔法で操ることで解決した。

 直接塗ることで内部を浄化して保護する効果があるが、ベッドに塗りつけても効果があったみたいである。

 量が少ないので水魔法で操り、全体へと行き渡らせた。

「つ、疲れた……」
「お疲れ様」
「クルコン君、こんなこともできるようになったのね……」

 流石に他のベッドに対してはやる気が起きず、三人でベッドを使うことになった。

 ベッドのサイズは大きいので、三人寝ても十分に広い。

 最初はペロロさんとルイルイさん二人に使ってもらう予定だったが、ルイルイさんが遠慮し始めたので、結果こうなった。

「それじゃあクルコン君、お楽しみの時間だよ?」
「へ? ま、待て、ルイルイさんがいるんだぞ!」
「大丈夫だよ。全員がその気じゃなきゃ、弾きだされるからね」
「えっ? ペロちゃん、それってもしかして……」
「じゃあ、使うからね! えいっ♡」

 そしてアイテムが使用されて、周囲が黒い膜に覆われる。

 中は薄暗いが、お互いが良く見えた。

 ペロロさんは妖艶ようえんな笑みを浮かべ、ルイルイさんが戸惑いつつも顔を赤くする……。

「えっ!? 何でルイルイさんがいるんだ!?」
「わ、わたしは……っ」
「あークルコン君の浮気者! クルコン君が受け入れなければ、弾きだされたんだからね! ルイルイちゃんも、その気になっちゃってムッツリスケベ!」

 ペロロさんの言葉に、慌てる俺とルイルイさん。

 だが待てよ、全員がその気じゃなければ、弾きだされるといっていた。つまり、ペロロさんもルイルイさんを入れることに同意したということになる。

「待ってくれ、ここにルイルイさんがいるという事は、ペロロさんも同意の上だろう?」
「なっ!? くぅ、し、仕方がないじゃないか! 少し、本当に少しだけ、クルコン君がルイルイちゃんに寝取られるところを、想像しちゃったんだよ!!」
「ぺ、ペロちゃんも大概ね……」

 結局、この状況はどうなるのだろうか。

 流石に、今回は止めておく方がいいだろう。

 何かの気の迷いが重なり、なってしまったみたいだし。

 俺がそう思った時だった。

「ヤルよ」
「え?」
「へ?」
「寝取られ3〇するんだよ!!」
「なっ!?」
「えぇ!?」
「今夜は眠れるとは、思わないでよね!」
「ちょ、ちょっと待て!」
「わ、私も心の準備が……っ!!」

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 そしてその後も色々あり、イベントが終わった。

 途中からは、ルイルイさんもノリノリでヤバかったとだけ言っておく。

 俺が生き残れたのは、奇跡だろう。

 またルイルイさんは、俺たちの固定パーティに入ることが決まった。

 ペロロさんが、『クルコン君のハーレムパーティだね♪』と喜んでいたのを今でも思い出す。

 そして今俺は、白い空間で他のダンジョンで優勝した者たちと、共に並んでいた。

 そう、三人の中で優勝したのは、俺である。

 やはり、仙人河童と上位種のオタオークを倒したのが、大きかったようだ。

 そうして優勝した者は、神に一つだけお願いをすることができる。

 順番に、一人ずつ願いを言っていく。

 まずは、真面目そうな男が願いを口にする。

「地球に帰らせてくれ」
『やっぱりそれ言うよね。一人一億ポニカを払うか、虹の鍵のダンジョンをクリアしたら帰してあげるよ。後者は一緒にクリアしたメンバー全員に適応されるから、頑張ってね』

 真面目そうな男の願いとは少し違うのか、苦々しい表情をしていた。

 けれども、地球に帰る方法ができただけでも、大きな成果だろう。

 次に、筋骨隆々の男が願いを口にする。

「俺に更なる力をくれ!」
『はぁ、つまんない願いだね。はいこれ。食べれば力が少し上がるよ』

 そうして筋骨隆々の男の手には、一粒の種が現れた。
 
 某RPGに出てくる、あの種に酷似している。

 筋骨隆々の男は、呆けた顔をしていた。

 次は、強面の中年男性が願いを口にする。

「何人もの仲間が集うことのできる、クランのようなシステムを導入してくれ」
『あぁ、それは元から考えていたよ。よろしい。クランシステムを導入しよう。条件などは、後ほど全プレイヤーに通達するよ』

 その言葉に強面の中年男性は、満足したように頭を下げた。

 続いては、騎士のように凛々しい女性が願いを口にする。

「モンスターが性的に襲うのを止めてほしい」
『えぇ、それが面白いのになぁ。うーん、完全に無くすのは却下だね。けど代わりに、一定時間性的な事から身を守るバリアと、念じるだけで自決できるアイテムの販売を開始するよ』

 騎士のように凛々しい女性は納得がいかないようだが、口答えはしなかった。

 それで無かったことにされたら、困るからだろう。

 そして最後に、俺の番が回ってくる。
 
 俺が願うことなど、最初から決まっていた。

「俺の狂った運をどうにかしてほしい! 俺は普通のダンジョンに挑戦したいんだ!!」

 それは、心からの願いだった。

『はははっ! 面白いね! だからこそ、それはできない。私は君のファンなんだよ! 君の狂った運から出てくるダンジョンは、私でも把握しきれないんだ』

 嘘、だろ……。

 俺の願いは、無慈悲にも却下された。

『けれども、それで終わりではもったいない。こんな機会でなければ、私は君に何もできないからね。なら、これを与えよう』

 その瞬間、俺の体が一瞬光る。

「これは?」
『はははっ、どのようなものかは、自分で見つけてくれ。私は君の活躍をこれからも、楽しみにさせてもらうよ』
「まじか……」

 そして神への願い事も終わり、イベントはこれで完全終了となる。

 またこのイベントを通して、俺は悪い意味で有名になり過ぎてしまった。

 神に目をかけられているのも、理由の一つである。

 ますますアンチが増えて、まともに外へと出れなくなってしまう。

 だが逆に信者のような人たちも出てきて、それはそれで面倒になり始めた。

 ペロロさんとルイルイさんという仲間がいるのが、唯一の救いだろう。

 けれどもそれとは別に、俺の引き当てるダンジョンが相変わらず酷い。

『おめでとう!【メスガキアイランド】の鍵を手に入れた!』

「メスガキ……アイランド……?」
「メスガキなら、ここにもういるじゃない」
「メスガキ!? そ、それは僕のことかな!? くっ、パーティ最弱のくせに! ざぁこ♡ ざぁこ♡」
「こ、このメスガキがっ!!」 

 だがこの仲間たちがいれば、きっと乗り越えられるだろう。

「二人とも、遊んでないで行くよ」
「わ、わかったわ」
「ちょっとまってよぉ!」

 これからこの世界で、何が待ち受けているのだろうか。

 地球に帰る気は未だ起きないが、何が起きてもいいように、鍛え続けるつもりだ。
 
 そして俺たちは、ダンジョンへの扉に足を踏み入れるのだった。

 END

 __________

 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございました。

 これにて、ダンガチャは完結になります。

 結構良い感じに、終わらせることができたと思います。

 続きを書くかどうかは、分かりません。

 それなりに人気が出たら、続ける可能性はあるでしょう。

 なので、応援していただけるとありがたいです。

 それはそうと、『倒したモンスターをカード化!~二重取りスキルで報酬倍増! デミゴッドが行く異世界旅~』という作品も書いています。

 よろしければ、そちらも読んで頂けると嬉しいです。

 それではまたの機会がありましたら、よろしくお願いいたします。

 乃神レンガ

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