025 帰還

 湖から離れた俺とペロロさんは、現在仮拠点に向かっていた。

 なお衣服は既に着ており、力を使い果たしたペロロさんは俺の背中でぐったりしている。

 やはりあの力は、使用後に反動があるみたいだった。

「すまないクルコン君、そのまま真っすぐ頼むよ」
「気にしないでくれ。ペロロさんがいなければ、きっと俺は死んでいたからな」
「そう言ってくれると助かるよ……」

 ペロロさんは動けないことに、罪悪感を抱いているようだ。

 しかし実際、ペロロさんの不思議な力が無ければ、怪魚から生き延びることは出来なかったし、湖から地上へ上がることも難しかっただろう。

 俺は心の中で感謝しながら、ペロロさんの指示通りの方向へと進む。

 ちなみに何故方向が分かるのかというと、仮拠点を出る際にペロロさんが置いた印石しるしいしの効果だ。

 ダンジョン産のアイテムで、設置した場所を本人が感じ取れるらしい。

 やけに巨大な月と星々が夜道を照らしているとはいえ、ペロロさんの案内が無ければ戻るのは難しいだろう。

 それと夜だからか、モンスターはほとんど見られない。

 いたとしても、先に気配を感じ取って遭遇を避けている。

 そうして暫く歩き続けて、ようやく仮拠点である木のうろに辿り着いた。

 念のため一度ペロロさんを降ろし、様子をうかう。

 だが特に人の気配はなく、罠のような物は無さそうだ。

 俺は一人先に入ると、荷物などに異変が無いか確認する。

 よし、どうやらこの仮拠点は誰にも見つからなかったみたいだな。

 この木のうろは隠蔽効果があるので、それを破る何かを持っていなければ、早々に見つかることは無い。

 そもそもこんな場所に拠点が無いか探すプレイヤーは、あまりいないだろう。

「ペロロさん、大丈夫そうだ。なにも異変は無い」
「よかった。ここで何かあれば対処できる自信は無かったよ」

 ペロロさんは心底ホッとしたようで、ふらふら歩きながらも拠点に入った。

 とりあえず、これで安全は確保できたな。

 本当に、長い一日だった……。

 一先ず、何か腹に入れとくか。

「ペロロさ……」
「すぅ、すぅ……」
「寝っちゃったか」

 ペロロさんも何か食べるか聞こうとしたところ、疲れ切っていたからか、いつの間にか寝息を立てていた。

 仮拠点に戻ってきたことで、緊張の糸が切れたのだろう。

 起こすのはかわいそうだし、このまま寝かせておくか。

 俺は仮拠点に置いていた自分のリュックサックからタオルケットを取り出すと、ペロロさんにかける。

 流石にペロロさんのリュックサックを勝手に開けるのははばかられるし、大きさからして最低限の物しか持ってきていないだろう。

 俺は頬に色々入れられることに加えて、そこそこ大きなリュックサックを持ってきている。

 なので、余裕をもって食料や道具などを持ってくることができた。

 けれどもズボンは今履いているので乗り切る予定だったので、濡れたままだと気持ちが悪い。

 水魔法で何とかできないだろうか。

 俺は慎重に水魔法で、ズボンとついでに下着から水分を取り出せないか試みる。

 すると、少しずつズボンから水滴が浮かび上がり、空中に集まっていく。

 よし、どうにかなった。

 かなり集中力を使うが、時間をかければ出来ないことはない。

 そして取り出した水を、仮拠点の外の草むらに捨てる。

 これで、ズボンと下着の気持ち悪さは解消された。

 その後は持ってきた食料で腹を満たし、同じく持ってきていた歯ブラシセットで歯を磨く。

 水魔法があるので、口をゆすぐのに水を節約しなくて済むのはありがたい。

 さて、俺も疲れたし、横になろう。

 ペロロさんと距離が近いが、今更気にしても仕方がない。

 両方眠ることで何か起きた時の心配はあるが、木のうろの隠蔽能力を信じることにしよう。

 そもそも、俺も起きていることは無理そうだ。

 何とか少しは起きていようとしたが、結局力尽きるように眠りについてしまった。

 ◆

 夢を見ていた。

 これは、俺とペロロさんが初めて会った頃だ。

 確かランダムパーティで、偶然同じになったはず。

 そして案の定、俺がガチャを引くことになったんだ。

 他の人が引こうとしてもガチャが回らないのだから、どうしようもない。

 結局それで出てきた鍵は『性癖暴露と望まれない誘惑者』という、最悪なもの。

 このダンジョンのせいで、ペロロさんは心に傷を負ってしまった。

 他のパーティメンバーも、同様だ。

 ダンジョンには様々なトラップが仕掛けられており、引っ掛かると性癖が暴露される。

 俺も小柄なクーデレ妹系で、甘えたがりの絶対領域少女という性癖を暴露されてしまった。

 あの時は、俺も死にたくなった事を思い出す。

 当然ペロロさんも暴露されたわけだが、ロリコンでナルシストということをオープンにしていたため、ダメージはゼロだった。

 しかし俺の性癖を知られたことが、ペロロさんと仲良くなる切っ掛けになったのは確かだ。

 どうやら俺の性癖は、ロリコンと通じるものがあるらしい。

 それで尚且つ、自身を卑猥ひわいな目で見てこないことが気に入ったと、最初は言っていた。

 ペロロさんは同好の士が欲しかったが、自分のロリボディを卑猥な目で見られるのが嫌だったらしい。

 つまりロリコンではないが、条件の近い俺で妥協したのが始まりだ。

 けれども一度心を許すと、ペロロさんは積極的に話しかけてくれた。

 やはり、ボッチは寂しかったのだろう。

 だが初めて同好の士が出来たことに喜んで隙が出来ていたからか、とあるトラップに二人して引っ掛かってしまった。

 それが結果として、トラウマを植え付けられることに繋がる。

 引っ掛かったトラップは現実では一瞬に過ぎないが、引き伸ばされた時間の中で幻覚を見せられるものだった。

 その内容は、自身の性癖とはまったく違う方向性の、卑猥な幻覚を見せられること。

 俺は長身の美人ヤンママ系に、甘やかされながら生の太ももに頭を乗せられて、×××××されてしまった。

 軽く性癖が歪んでしまったのは、仕方がない。

 長時間行われていたと感じていたのに、幻覚が解けてから経過した実際の時間は、たったの数秒だった。

 そして幻覚から解放されたペロロさんは、最初幻覚が覚めてないと錯覚していたらしい。

 ペロロさんが俺を見て卑猥な言葉を言いながら迫ってきたのを、今でも覚えている。

 きっと幻覚の中で、男に奉仕しなければいけない状況に置かれていたのだろう。
 
 気を取り戻したペロロさんとは、結局ダンジョンを攻略するまでほとんど話すことはなかった。

 一応友達ではいてくれるようだが、俺とはもうパーティを組めないと言ったのを、今でも思い出す。

 ちなみに俺の話を聞いて、わざとそのトラップに引っ掛かったパーティメンバーのおっさんは、複数のゴブリンにひたすら××されたらしい。

 それを聞いて、俺の幻覚はある意味当たりだった事を理解した。

 なお当然の事だが、ペロロさんは自身の引っ掛かった幻覚の内容を話してはいない。

 俺としても、その内容を訊けるはずがなかった。

 無粋にもそれを訊いたおっさんは、ペロロさんにボコボコにされている。

 そうして結局、それからは軽く連絡をとる程度で、ペロロさんと遭うことなく今日を迎えたわけだ。

 だから本当に、オタオークの群れに追いかけられている時、ペロロさんに助けられて再開したのは嬉しかった。

 再開してからの一日は大変だったけれど、ソロでダンジョンを攻略した時よりも充実していたのは確かだ。

 俺は夢の中で流れるように、ペロロさんとの思い出を振り返った。

 そして最後にペロロさんが仮拠点で眠りにつくまでの事を思い出すと、ここでふと俺は目を覚ます。

「な、何か……違和感が……」

 朝の陽ざしに目を細めながら、俺は違和感のある腹部に顔を向ける。

 そこにはいつの間にか、タオルケットがかけられていた。

 しかし、それが違和感の正体ではない。

 俺はゆっくりとタオルケットをめくると、そこにはある人物が覆いかぶさっていた。

「ペロロさん……寝相悪いんだな……」

 それは当然ペロロさんであり、俺の胸によだれを垂らしている。

 もう少し、寝かせておくか。

 俺は静かに起き上がると、ペロロさんにタオルケットをかける。

 さて、イベント二日目の始まりだ。

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 ※ペロロさんは幻覚内で別の男とそういう関係にはなっていません。次の話で分かると思いますので、ご了承ください。

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