まず最初に行うのは、衣服などを頬に収納すること。
おそらくこの鏡の先は、あのオタガッパがいた湖だと思われる。
なので地底湖の時と同様、身軽な状態になった。
ただ問題なのは、もしオタガッパ達に襲われて負けてしまった場合だろう。
地底湖の時はやられるとしても、怪魚に喰われると思ったのである意味割り切れた。
しかしオタガッパに負けた場合、ペロロさんが凌辱されてしまう可能性が高い。
ここまで使用することは無かったが、自決丸というアイテムがある。
紫色のビー玉サイズの球体であり、白いどくろマークが描かれてるものだ。
これを飲み込むことで、苦痛なく一瞬で自決することができる。
ちなみに許可無く第三者からの使用や、偶発的な服用では効果は発揮されない。
この自決丸を、これまでポケットに常に入れていた。
おそらくペロロさんも、入れているだろう。
だが下着姿になったことで、自決丸を所持できなくなってしまった。
ここは割り切って、俺だけズボンを履いて自決丸を二人分所持したほうが良いかもしれない。
そう考えて、俺はペロロさんに同意を得てズボンを履いた。
「なんか僕だけ完全な下着姿だから、少し恥ずかしいね」
「そこは諦めてくれ」
「まあ、どうせ見られるのもクルコン君だけだし、今更気にしたらだめか。クルコン君は役得だね?」
「っ、ノーコメントだ」
「ふふっ」
ペロロさんは恥ずかしいのか、そう言って俺をおちょくってくる。
おそらくこの状況も放送されているだろうが、謎の光でペロロさんの下着は見えなくなっていることだろう。
これはある意味、救済処置なのかもしれない。
であるならば、モンスターが性的に襲ってくるのを止めてほしいのだが、それは何故か行われ続けている。
そんなことを考えながら、次にオタガッパが現れるのを待つ。
正直一定の時間経過で現れていると思っていたが、実際には違った。
鏡の向こう側にいるオタガッパが、偶発的にやって来ただけだろう。
なので場合によっては連続で現れるし、同時に複数体現れる可能性もある。
だがこれまで現れた間隔を思えば、鏡の周囲にそこまでオタガッパはいないのだろう。
もしかしたら仲間が鏡に吸い込まれるのを見て、近付かなくなったのかもしれない。
それを知らない間抜けなオタガッパだけが、やって来るのだと思われた。
つまり出てきたオタガッパを倒せば、それだけで鏡の周囲の危険度が低下する。
そうして俺とペロロさんが待ち構えていると、オタガッパが現れた。
「がぱっ? ぐげっ!?」
当然、ペロロさんにより瞬殺される。
ペロロさんは素手でも、十分に強かった。
「よし、行くぞ!」
「わかった!」
そしてオタガッパを倒すと、次の行動に移る。
ペロロさんはもはや指定席になった俺の背中に飛び乗り、俺は水が流れ続ける鏡に近付いた。
これは賭けだが、やるだけの価値はある。
俺は軽く深呼吸をすると水魔法を使用して、水が俺を避けるように操作した。
当然熟練度の低い俺ではたかが知れているが、やっているのとやっていないのでは大きな差がある。
それによって、水が俺を避けるように二股に別れていく。
一歩進むごとに抵抗が強くなるが、集中を切らさない。
背中にいるペロロさんの抱きしめる力が強くなるのを感じながら、俺は鏡の前に辿り着く。
そして満を持して、俺とペロロさんは息を吸い鏡の中へと突入した。
っ!? やはり、水の中か。それよりも、早くここから離れなければ。
鏡から出ると、全身が水に包まれた。
背後から鏡に吸い込まれそうになりながらも、水魔法を使って何とか距離をとる。
この水魔法が無ければ、ここまでスムーズに鏡から出ることはできなかっただろう。
俺は手に入れた水魔法に感謝しながら、陸地を目指して泳ぎ続ける。
周囲は暗く、日の光を感じないことから、既に夜になっているのだと思われた。
つまり長い間、あのダンジョンにいたことになる。
ちっ、やはり来たか。
だが鏡を離れると、どこからともなくオタガッパ達が集まってくる気配を感じた。
「がぱぱ!」
「ろりっぱ!」
「すもうっぱ!」
水の中だというのに、オタガッパは普通に声を発している。
もしかしたら、オタガッパも少なからず水を操作することが出来るのかもしれない。
くそっ、水の中では不利だ。
水中では、尻穴爆竹の串も上手く使えない。
できたとしても、距離をとれなくて爆破に巻き込まれるだろう。
現状できるのは、どうにかして逃げることだけだ。
幸い気配は分かるので、オタガッパがいない方向へと泳ぎ続けた。
すると状況を鑑みて、背中にいたペロロさんが離れると先行して泳いでいく。
やはり、ペロロさんは俺よりも泳ぐのが速い。
瞬く間に前方にいたオタガッパに近づくと、背後へと回る。
そして両足で胴体をホールドしたかと思えば、オタガッパの首を百八十度回転させて仕留めた。
水中では打撃は不利と考えての行動だろう。
あの小さな体に、どれだけの力が潜んでいるのだろうか。
その一端を今、垣間見た。
しかしペロロさんに意識を向け過ぎていたからか、いつの間にか追いついていたオタガッパに左足首を掴まれる。
くっ!?
オタガッパの泳ぐ速度を甘く見過ぎていた。
するとオタガッパはニヤリと笑みを浮かべると、特徴的な前歯で俺の足に噛みつく。
「がっぱ!」
「――ッ!?」
俺は痛みで思わず、空気を吐き出してしまう。
まずいっ。
即座に右足で蹴りを放つが、威力が出ずにオタガッパが離れない。
次に俺は尻穴爆竹の串一本取り出し、俺の足を掴んでいる腕に突き刺した。
「がぱ!?」
突然の痛みに、オタガッパも声を上げる。
俺はその隙に再び蹴りを放ち、何とかオタガッパから距離を取った。
やばい、足に力が入らない。
痛みと出血で、泳ぐ速度がかなり遅くなってしまった。
そうしている間にも、オタガッパ達はどんどん集まってくる。
だが同時に、異変を感じ取ったペロロさんが戻って来てくれて、俺を支えながら泳ぎ始めた。
正直俺が万全の状態よりも速く、驚きを隠せない。
もしかしたらあの時のように、ペロロさんは不思議な力を発揮しているのだろう。
仲間のピンチに隠された力を発揮するとは、本当にヒーローのような人だ。
そうしてオタガッパ達も引き離し、俺とペロロさんは地上へと辿り着く。
「がぱ!?」
「ろりっぱ!」
「かっぱっぱ!」
だがそこに待っていたのは、複数のオタガッパ達。
どうやら偶発的な出会いのようで、向こうも驚いている。
数は、十匹以上いるな。
これは不味いかもしれない。
俺は負傷しており、頼れるピンパチも失っている。
雑魚とはいえ、この数は流石に――。
「てやぁああ!!」
「がぱあぁあ!?」
「ろりっ――!」
「ぐぎゃっ!!」
そう思っていたのだが、ペロロさんが無双して瞬く間に倒してしまった。
「ふうっ、あれ? 僕なんかしちゃいましたか?」
「は、ははっ、さすぺろ」
「ごめん、僕もそれは少し恥ずかしいかな」
イキったペロロさんにそう言葉を返すと、ペロロさんは笑みを浮かべながら恥ずかしそうに頬をかく。
不思議な力を使ったペロロさんは、正に鬼神の如き活躍だった。
だが流石に代償は大きかったのか、疲れて膝をついてしまう。
「とりあえず、ここから離れよう」
「うん……」
俺とペロロさんは、そうして無事に脱出したのだった。
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