ペロロさんと組んだ俺は、さっそく今後の方針を話し合う。
結果として決まったのは、安全第一でなるべく多くのモンスターを倒すこと。
次に機会があれば、お宝部屋の攻略。
そして塔にはプレイヤーが多そうだと判断して、なるべく近付かないことにした。
俺もペロロさんも、優勝などは狙っていない。
しかし、参加したからにはそれなりの報酬などは欲しかった。
説明不足のイベントだが、モンスターを倒せば何かしらのポイントが加算されるだろうと判断している。
なのでオタオークは、発見次第できるだけ倒すことにした。
消極的だけど二人しかいないし、生き残ることが大事だ。
「僕もその方針で良いと思うよ。無理をして捕まるのだけは避けたいからね」
そうして俺とペロロさんは、さっそく周囲の探索をすることにした。
ちなみに木のうろは二十四時間もつので、今日はここを仮の拠点にしている。
隠蔽効果もあるので、リュックサックや逃走時に邪魔になった木剣も、ここに置いていく事にした。
もし隠蔽を破るプレイヤーがいた場合には、諦めるしかない。
だが身軽になるというのは、そのリスクを負ってでも必要だろう。
特に戦闘では、その差が顕著に出てくる。
もちろん、ペロロさんもうろの中に荷物を置いているようだった。
このうろは、見た目よりも案外広い。
何か空間を拡張する効果があるのだろう。
俺がそんなことを考えている間に、ペロロさんは印石というアイテムをうろの中に置いた。
これはダンジョンのお宝部屋でよく手に入る物で、結構有名だ。
効果は設置した本人が、その場所を感じ取ることができるというもの。
ダンジョンでは主に、ボス部屋やお宝部屋を発見した際に使用する。
印石を置くことで、他の探索後に戻ってくることが容易になるからだ。
なお、俺はこの印石を一度も発見したことが無い。
見つかるのは、色んな意味でクセの強いアイテムや装備ばかりだ。
「それじゃあ、いこうか!」
「ああ」
準備を終えたペロロさんは、俺にそう言ってニコリと笑みを浮かべる。とても可愛らしい。
これで年上なのだから、驚きだ。
そうして俺とペロロさんは仮拠点を離れて、森の中を歩く。
すると早くも、オタオークを発見する。
「ロリ! ぶひぃ!」
オタオークはやはりというべきか、ペロロさんを見て声を上げた。
男もロリに見えるオタオークであるが、元からロリに見えるペロロさんの方が良いのかもしれない。
まあ、当然か。
反応も俺の時よりも大きい。
「クッ! ロリコン滅ぶべしッ!」
対してペロロさんは、まるで親の仇のようにオタオークを睨むと突撃していく。
俺も頬からピンクパルチザンを取り出し、いつでもフォロー出来るように追従した。
けどまあ、俺のフォローは必要ないと思うけどな。
「ぶひぃい! ロリロリ!」
オタオークは、ペロロさんを抱きしめるように迫ってくる。
だがペロロさんはそれを素早く横に跳躍して回避すると、近くの木を蹴った。
そして体を捻るように回転すると、オタオークの脳天に踵落としを叩きこむ。
「ぶひゃっ!?」
オタオークは悲鳴を上げて、地に伏せる。
見事な一連の流れに、俺は流石と思ってしまう。
そう、ペロロさんは強いのだ。
見た目に惑わされると、痛い目を見るだろう。
「い、今の見たかい?」
「ん? ああ、しっかりと見たぞ」
照れるように俺を見てそういうペロロさん。
しかし、今更照れることだろうか?
俺がそんな疑問を思っていると、ペロロさんは小さくこう言った。
「クルコン君のエッチ……」
「え?」
俺は一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
だが、数秒後にその言葉の意味を理解する。
そういえばペロロさんが体を捻るように回転したとき、白い下着が見えたな。
黒いゴスロリ服なので、白い下着はよく目立った。
俺は特に意識していなかったが、ペロロさんにとっては重要なことなのだろう。
友人とはいえ、ペロロさんはどちらかというと男嫌いだ。
その男である俺に下着を見られたのを、不快に感じているのかもしれない。
「ごめん、わざとじゃないんだ」
「あっ、う、うん分かっているよ。クルコン君がそういう目で見ていないのは知っているし。僕も反射的に言っただけなんだ。こっちこそごめんね」
俺が謝ると、ペロロさんが逆に慌てて謝りだす。
ペロロさんは他人の視線に敏感で、情欲を向けられると何となく分かるらしい。
なので俺としても、誤解が解けて安心した。
「いや、分かってくれたならいいんだ。けど、さっきみたいな戦い方はなるべく止めた方がいいんじゃないか? スカートが短いし、どうしても見えると思う」
「う、うん……わかったよ。でも、危なかったらそういう動きをすると思う。それにクルコン君なら、見られても、気にしないよ?」
「そ、そうか……」
俺は今実際に気にしていたじゃないかと思いながらも、その言葉を飲み込んだ。
ペロロさんがズボンなどを履けば解決する問題だが、言うのは無粋だろう。
そんな単純なことは、ペロロさんも分かっていると思うし。
加えて見えたとしても、元々俺は何とも思っていなかった。
ペロロさんが気にしないというのであれば、この話はお終いだ。
「それよりも、そのピンパチなんだけど、どんな感じなんだい?」
「ピンパチ?」
俺のピンクパルチザンを見て、露骨な話題逸らしを始めるペロロさん。
それ自体は構わないのだが、ピンパチという言葉が気になる。
というか、この槍のことを知っているみたいだ。
おそらく、俺のダンジョン攻略を見たのだろう。
つまり、あの痴態を見られたということになる。
ああ、ペロロさんが下着を見られたのは、こんな気持ちなのかもしれない。
俺はそう思うと、もう少しペロロさんに配慮しようと思った。
◆
それからピンクパルチザンの話題で盛り上がり、実際に戦って見せた。
オタオークには特攻効果があるので、簡単に倒せる。
ちなみにペロロさんが言っていたピンパチとは、ピンクパルチザンの呼び名らしい。
単純に短くしただけだが、呼びやすいので俺もピンパチと呼ぶことにした。
「クルコン君、やっぱり前より強くなったよね?」
「やっぱりそう思うか?」
「うん。動きも俊敏になっているし、空間認識能力も向上しているよ」
俺の戦いを見て、ペロロさんが絶賛する。
薄々俺も自分の成長を感じていたが、第三者から言われると改めて実感した。
ソロで活動し始めてからは、成長が特に顕著な気がする。
それだけ、苦難を乗り越えたという事だろう。
「そういうペロロさんも、以前より速いし、力も強くなっているんじゃないか?」
「あ、やっぱりそう思う?」
「ああ」
「だとすると、あの噂は本当なのかもね」
ペロロさんの言う噂とは、もしかしてあれのことだろうか。
「噂って、敵を倒したり修行することで、パラメーター的なやつが上がっているというものか?」
「うん、それだよ」
この世界には、ゲームのような分かりやすいレベルのようなものは確認できない。
けれども、ダンジョンを攻略し続けている者は、以前よりも明らかに身体能力が向上している。
であるならば筋力や耐久など、確認することのできないパラメーターがあるのではないかと噂されていた。
実際いくら優れた武器があるかといって、自分より巨体なモンスターを何体も倒すのは普通ではない。
「それなら尚更、進んでダンジョン攻略をして、モンスターを倒していくしかないな」
豊かになるには結局、ダンジョンという危険を受け入れるしかない。
でなければ、行きつく先は碌な結果にはならない。
その一端が、デモを行っていた者たちだろう。
俺は、そうなりたくはなかった。
「そうだね。この先何があるか分からないし、強くなっていて損はないよ。それに、もっと可愛い服とか、大きな鏡とか欲しいからね。あっ、ここの鏡って持って帰れないのかな?」
ペロロさんも、俺と近い考えのようだ。
「採取した果物や何かしらの素材は持って帰れることはあるみたいだが、設置物は持って帰れない事が多いみたいだし、鏡をそのままは無理じゃないか?」
「やっぱりそう思う? うーん。割って小さいのを持って行くくらいなら、いらないかな」
ペロロさんはそう言いつつも、大きな鏡の欠片の前で決めポーズをとる。
そのドヤっとした表情は、どこかメスガキを彷彿とさせた。
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