森の中を進みながら、俺はとある人物について考える。
ペロロさん、大丈夫だろうか。
ロリに対して中々の執着を持っているペロロさんは、ここにきている可能性が高い。
しかし出てくるのはロリモンスターではなく、ロリコンのオタオークである。
加えてオタオークは、プレイヤーのことがロリに見えているらしい。
ペロロさんが簡単にやられるとは思わないが、いろんな意味でかなり心配だ。
だがそうだとしても、この広いダンジョンでペロロさんを見つけることは困難だろう。
まあ、ペロロさんも危なくなったら自決する術はあると思うので、気にしても仕方がないか。
俺と以前組んだ時の悲劇もあるだけに、その部分は用意周到なはずだ。
運よく出会うことを祈るしかない。
ペロロさんの事を心配しつつも、俺は次に今後の方針を考える。
とりあえず、お宝部屋を探すか。
狙い目としては、オタオークの集落とかだろう。
こういう森の中や草原などのフィールド型は、出現するモンスターの住処がそのままお宝部屋になっていることが多い。
しかし分かりやすい代わりに、住処とだけあって敵が多く戦闘は過酷になる。
無理そうなら諦めて、行けそうなら行くことにしよう。
ただ問題は、肝心の住処がどこにあるかだ。
鏡の欠片だらけの森では、オタオークの後をつけるのも難しい。
他のプレイヤーが、住処に持ち帰られるところを狙うか?
いや、その前に自決する可能性が高いし、そもそも遭遇するかも分からない。
結局のところ、オタオークの数が多そうな方に向っていくほかなさそうだ。
俺はそう考えて道中現れるオタオークを目印に、数の多そうな方角に向かう。
なおオタオークは見つけ次第、毎回倒している。
相変わらず、ピンクパルチザンはオタオークに対してかなり強い。
複数体現れても、味方が邪魔で得意の突進もしてこないのも大きかった。
オタオークは武器も持っておらず、力は強いが動きは単調だ。
また連携も不得意そうであり、実質一対一を複数回行っている感じである。
「びぎぃっ!」
「ロ……リィ……」
今も二匹倒し、残り一匹の状態だ。
けれども、何やら残った一匹の様子がおかしい。
「ぶ、ぶひいいい!」
オタオークは不利だと悟ったのか、情けなくも叫び声を上げて逃げ出した。
「待ちやがれ!」
俺は咄嗟に追いかける。
途中他にもオタオークがいるが、逃げている個体はそれを無視して走り続けていた。
当然他のオタオークが俺を狙ってくるので、見失ってしまう。
くそっ、逃がしたか。
だが、方向は覚えた。
もしかしたら逃げた方向に、住処があるのかもしれない。
俺は周囲のオタオークを蹴散らすと、その方向へと歩き出す。
ただ森の中は迷いやすく、鏡の欠片もあるので方向感覚が狂いやすい。
頬に入れていた小さなバックから方位磁石を取り出して、方向を確認する。
逃げたオタオークは、どうやら西へと逃げたようだ。
サバイバルでは必要だと思い、方位磁石を入れておいてよかった。
そうして俺は方位磁石を確認しながら、西へと向かう。
◆
しばらく進んでいると、次第にオタオークの数が増えていく。
そして案の定、住処を発見した。
思った通り、あのオタオークは住処のある方向へ逃げていたようだな。
けれど、これはどうしたものか……。
オタオークの住処は、木とボロい布などが使われた貧相な作りになっている。
これに関しては、大したものではない。
しかし問題はその数であり、見えるだけでも十数匹のオタオークがいた。
おそらく住処全体には、数十匹はいるだろう。
流石に、これを一人でどうにかするのは不可能だ。
たぶん、他のプレイヤーと協力して討伐するのが本来の方法なのだろう。
加えて、住処の奥にはオタオークの上位種がいる可能性が高い。
今の俺では、どう考えても無理だ。
ここは一旦引き返そう。
方位磁石を一度しまってから、俺がそう判断をした時だった。
突然近くの鏡が一瞬光ったかと思えば、そこにオタオークが映りだす。
そのオタオークは、眼鏡をかけたボサボサの髪に小汚いジャージ姿をしている。
またキーボードのような物をカタカタト打ち、『ッターン!』と勢いをつけた。
そして鳥肌が立つような欲望に満ちた笑みを浮かべながら、俺を指さす。
どう考えても、嫌な予感がする。
俺は即座に、その場から駆け出す。
すると予感は的中して、集落から数十匹のオタオークが出てきた。
そして俺が逃げた方へと向ってくる。
「うそだろっ!?」
流石にこれはヤバイ。
まさか鏡を使って、俺の場所を特定してくるとは考えてもみなかった。
オタオークは、ああ見えて突進してくる速度は速い。
木々を薙ぎ倒しながら、俺を追ってくる。
逃走重視のため、ピンクパルチザンを一旦頬へとしまう。
この状況を打開できるアイテムは、持っていない。
激臭の水鉄砲を使っても、焼け石に水だろう。
それで止められるのは数匹だけだ。
このままだと、いずれ追いつかれる。
加えて逃走先にもオタオークがおり、俺を見て足止めしようとしてきた。
だが流石に状況を理解していなかったのか、必死さがないため容易に回避可能だ。
どうやら集落にいるオタオークだけが、命令を受けているらしい。
「ロリロリロリロリッ!」
「ぶひぃいいいいい!」
「オカス、オカス!」
まずい、そろそろ追いつかれそうだ。
しかしちょうど大木を通り過ぎようとした瞬間、俺の腕が突然引っ張られる。
「ッ!?」
俺はそのまま暗い大木うろの中に引きずり込まれ、何者かに抱き着かれた。
「シっ、大丈夫。声を出さないで」
どうやら敵ではなく、俺を助けてくれるようだ。
俺はその声に従い、声を押し殺す。
「ロリッ?」
「ぶひっ?」
「ぶひひひ!」
「ロリッ!」
オタオーク達は俺を見失ったのか、戸惑いの声が聞こえる。
そして少しすると、どこかへと去っていった。
た、たすかった……。
流石に今回は、冷や汗が止まらない。
「ふふっ、やっぱりクルコン君は、また酷い目に遭っていたみたいだね?」
「え? いや、その声は……」
俺のことを知っている人物で、この声色は一人しかいない。
俺は確認のため大木のうろから出ると、その人物も一緒に出てくる。
日の光に照らされて現れる人物は、俺の思った通りの人物だった。
「実際にこうして会うのは、数日ぶりだね?」
可愛らしい声色に、赤い瞳と小さな口が弧を描く。
黒く艶やかな腰までの髪と、その両サイドに小さなツインテール。
前髪はパッツンで、いわゆる姫カット。
そして背は低く、仮に女子小学生と言われても驚くことはない。
しかしどこか妖艶な雰囲気のあるこの少女こそ、俺の数少ない友人。
そう、幼精紳士ペロロさんである。
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