009 ロリコンと鏡の森ダンジョン

 視界が切り替わるように転移すると、目の前には森が広がっていた。

 しかし、ただの森ではない。

 いたるところに、大小さまざまな鏡の破片が地面に突き刺さっている。

 おそらくこれが、鏡の森ということだろう。

 ダンジョン名の通り、後はロリコンに関する何かがあるはずだ。

 これまでの経験からして、あまり良い予感はしない。

 とりあえず何が起きてもいいように、ピンクパルチザンを頬袋から取り出して変形させる。

 数が限られているものは、なるべく節約したい。

 とりあえず周囲を見渡しながら、慎重に歩き始める。

 特定の時間まで生き残るのが目的なので、命を大事にしていこう。

 そうして森の中を歩いていると、何かが近づいてくる気配を感じた。

 俺は近くにあった大きな鏡の破片に隠れると、斜め前にある鏡の反射を利用して対象が来るのを待つ。

「ブフッ、ブヒヒッ!」

 するとそこに現れたのは、豚顔をした身長2mほどの二足歩行をしたモンスター。

 いわゆる、オークというやつだ。

 しかし、普通のオークではない。

 緑色をしたチェックのシャツをジーパンに入れており、赤いバンダナを巻いている。

 なんというか、昔のオタクを彷彿とさせる姿だった。

 俺がその姿を見て呆気あっけにとられていると、オークと鏡越しに目が合う。

「ブヒッ! ロリッ! ロリッ!」
「はっ!?」

 何故かオークは俺を見て興奮すると、ロリと連呼しながら突進してくる。

 俺はまずいと思い、横へと回避を試みた。

 すると直後に俺のいた鏡を破壊したオークは、怪我をした様子もなく俺を見て嫌な笑みを浮かべる。

「ロリッ! ロリッ!」
「俺はロリじゃねえだろ!」
「ロリッ!」

 鏡に映る俺の姿は、どこにでもいそうな黒目黒髪の男子高校生だ。

 目つきが少しキツイが、容姿は客観的に悪くない方だと思う。

 なのでどう見ても、俺はロリではない。

 あるとすればあのオタク姿のオーク、オタオークからは、俺がロリに見えているだけだろう。

 これはロリ系モンスターが出ることを期待してやって来たプレイヤーは、地獄を見ることになるな。

 ロリ系モンスターを夢見たはずが、まさか自分自身がロリコンモンスターに襲われることになるとは、思ってもみなかっただろう。

 隠れるにしても、所々にある鏡に映り込んでそれも難しい。

 思ったよりも、生き残るには過酷な世界だ。

 そしてもし仮に捕まったのなら、酷い目に遭うのは目に見えている。

「ロリッ!」

 俺がそんなことを考えていると、オタオークがこちらに突進してきた。

 勢いはあるが、とても読みやすい。

 すれ違うように回避すると、俺はオタオークの尻にピンクパルチザンを突き刺した。

「ア゛ァァッー!」
「嫌な気分だ……」

 ピンクパルチザンの一撃を受けたオタオークは、悲鳴を上げるとそのまま倒れる。

 肉体的男性に対して特攻効果があるので、効果は抜群だ。

 加えて尻に突き刺した場合、相手に快感を与えると同時に麻痺状態にする。

 オタオークはピクピクと痙攣けいれんしながらも、まだ息があるようだ。

 当然俺は止めを刺して、オタオークを倒した。

 思ったより、耐久力があるみたいだな。

 男色ゴブリンよりもしぶとかった。

 その代わり、猪突猛進で読みやすい。

 しかし筋力は男色ゴブリンより高そうなので、油断は禁物だ。

 複数体現れた場合、苦戦するかもしれない。

 このピンクパルチザンが無ければ、倒すのも大変だっただろう。

 他のプレイヤーは、果たして大丈夫だろうか。

 俺がそう思った時だった。

 「や、やめっ……アーッ!!」

 どうやら、早くも被害者が出たらしい。

 自決をするか心が折れて気絶すると、自動的に脱落をする。

 これは、ダンジョンでも同じだ。

 永遠に犯されることは無い。

 だがやはり、犯される前に自決することが大事だ。

 自決しても、プレイヤーなら復活する。

 また服用することで痛みや苦痛なく一瞬で自決できるアイテムも売っているので、念のために所持しておくことが大事だ。

 俺も実はポケットに、それを常に入れている。

 さて、見たくはないが、様子を見に行くか……。

 自決が何らかの理由で出来ないのであれば、介錯かいしゃくをしてあげるのも優しさである。

 俺はそう思い、声のした方に向った。

 ◆

「ロリッ! ロリッ!」
「ひぎっ! オデはロリじゃねぇよぉお!!」

 俺の目の前では一匹のオタオークが、似たような体型のおっさんを後ろから襲っている。
 
 思わず目をそむけたくなるが、後ろからオタオークを不意打ちで倒した。

「あへっ、ひぎぎっ……」

 おっさんは、光を失った目で虚空こくうを見つめている。

 これは、もうだめだな……。

 現状を見てイベントへの復帰が無理だと判断した俺は、ピンクパルチザンでおっさんの心臓を突き刺す。

「ぐえっ!?」

 そしておっさんは死亡したのか、光の粒子になって消えていく。

 おそらく、脱落者ようなエリアで復活していることだろう。

「これは復帰が無理だと判断してキルをした。俺におっさんの面倒を見る余裕はない。今度からは自殺用アイテムを用意しておくことをお勧めする」

 このイベントを後から見直せるかは不明だが、念のため弁明しておく。

 加えて、イベントに参加せずに生放送を視聴しているプレイヤー達もいることだろう。

 コメントを見ることはおそらく無いが、こうした弁明はしないよりした方がいい。

 公共エリアで偶然会う可能性もあるからな。

 助けたつもりだったのに、恨まれたらたまらない。

 そうして俺は、この場を後にする。

 食料は持ってきたが、現地調達出来ることに越したことはない。

 オタオークはモンスターなので、倒せば消えてしまう。

 幸いここは森の中なので、もしかしたら食べられそうなものが自生している可能性がある。

 サバイバルは始まったばかりだし、まだプレイヤーも多いだろう。

 なるべく敵対したくはないが、ライバルを減らした方が優勝が近づく。

 そう考えて襲ってくる者もいるはずだ。

 同じプレイヤーが相手だとしても、油断は出来ない。

 さっきのおっさんは例外だが、基本接触は避けよう。

 とりあえずは、この生い茂った森の中で周囲の情報を得る必要がある。

 俺は近くの背の高い木に登ることにした。

 一端ピンクパルチザンを頬袋にしまうと、猿のように一気に登りきる。

 ちなみに木登りは、爆竹と泥棒の森で鍛えられた。

 盗まれた鉄の剣を取り返すために必死になって木に登り、ターザンのごとく木々を飛び移ったりもしたことを思い出す。

 まあ結局、鉄の剣は失ったわけだが。

 そうして木の上まで来ると、俺は周囲を見渡す。

 「あれは、塔か?」

 すると視界に、天高くそびえ立つ塔が見える。

 おそらく、このダンジョンの中央にあるようだった。

 ロリコンと鏡の森ダンジョンに、塔か。

 あれだけ立派なら、ダンジョンの名称に入っていてもおかしくない気がする。

 だが名称にないということは、もしかしてイベントと何か関係があるのか?

 とても目立つし、プレイヤーが集まることは間違いない。

 そして、殺し合いに発展する可能性もある。

「う~ん。パスかな」

 俺は優勝を目指していないし、あの塔はとても嫌な感じがした。

 塔が目立つだけで他にも何かあるかもしれないし、そっちを探そう。

 といっても、他に見えるのはダンジョンを囲むように連なっている山々である。

 ダンジョンが四角形になるように、山が塞いでいた。

 あの見える山までが、このダンジョンなのだろう。

 そう考えると、けっこう広い。

 またロリコンと鏡の森ダンジョンなんて選ぶプレイヤーは、そもそも少ないだろう。

 塔に近づかなければ、案外他のプレイヤーと出会うことはほとんどないと思われる。

 オタオークも無理なく倒せるし、俺は俺でイベントを楽しもう。

 そうして木から下りた俺は、塔とは逆方向に向って歩き出した。

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