027 第三の試練『モンスター50:50』

 第三試練が始まると目の前に広がるのは草原と、白い闘技ステージのような場所だと気が付く。闘技ステージの中央には、左に赤い魔法陣、右に青い魔法陣が見える。

 あの魔法陣のどちらかに乗ることで、敵のいる場所に移動できるのだろうな。

「さて、赤と青。どちらにする? それとも、誰が選ぶか順番で決めるか?」
「確かに、時間のことを考えたら、順番に決めた方がよさそうさね」
「僕もそう思います」
「僕ちんはルインたんに従うんだなぁ!」

 完全に判断を委ねられているな。まあ、その方がやりやすいしいいか。

「それじゃあ、五回戦うということから、リーダーの俺が最初と最後、それからキャサリンさん、姫紀、奥平の順番で決めよう」
「ちょいと待ちな」
「ん?」

 俺がそう決定を下すと、何やらキャサリンから待ったがかかる。

「あたしゃだけさんづけは止めておくれ。仲間外れみたいでいやさね。これからは、あたしゃも呼び捨てで頼むさね」
「あ、ああ、分かった」

 どうやら、キャサリンは一人だけ敬称を付けられることに疎外感があったようだ。そのことについて、俺は改めることにした。

 パーティメンバーで一人だけさんづけなのはおかしかったか。

「分かってくれればいいさね。あたしゃはもう、ルインのことは信頼できる仲間だと思っているよ」
「そうか」
「そうさね」

 そんなやり取りを交わすと、その後は問題なく順番については受け入れられ、まずは俺から入る魔法陣を選ぶ。

 どちらにするべきか。赤い魔法陣と青い魔法陣。どちらかが雑魚で、もう片方が強敵になる。できれば強敵を引き当てたい。

「それじゃあ、最初は右の青い魔法陣にしよう」

 悩んだ末に、俺は青い魔法陣を選んだ。理由は特にない。

「さあ、行くさね!」
「うう、緊張しますね」
「僕ちんの新魔法が今度こそ発揮されるんだな!」

 そしてパーティメンバー全員が青い魔法陣の上に乗ると、その場から転移した。

 ここは……さっきと同じ場所だな。敵は……あれか。

 転移した場所は、先ほどと同じ草原に白い闘技ステージであり、上空から見れば俺たちは中央南にいると思われた。そして直線上にいるのは、七匹のオオカミのようなモンスターの群れ。

「あ、あれはレッサーウルフなんだな!」
「く、来るさね!」

 奥平がモンスターの名称を呼ぶのと同時に、大型犬ほどの大きさをした茶色い毛並みのレッサーウルフが、こちらに向かって走ってきた。

 オオカミという見た目だけに速い! あの数は俺一人じゃ対処出来そうにないぞ。

 仮にキャサリンが守りに専念したとしても、裏から姫紀が襲われる可能性があった。新しく手に入れた赤鬼の小太刀を手に持ち、その瞬間に備える。だが、予想外な事態が発生した。

「くぅ~ん」

 なんとレッサーウルフたちが、俺の目の前でひっくり返り、服従のポーズをし始める。

「は?」
「こ、これはいったいどういうことさね?」
「ふ、服従しているようですね……」

 俺たちが現状に困惑している中、一人だけ理解している者がいた。そう、奥平である。

「ぶひゅひゅ! 僕ちん分かったんだなぁ! ルインたんの犬耳と尻尾は可愛いだけじゃなく、同族を服従させる力があったんだなぁ!」
「え?」
「それ、飾りじゃなかったんだね!」
「す、凄いです!」

 何を言っているんだ? 確かに、俺には銀の髪と同色の犬耳と尻尾があるが、これはナビ子の偽装によって付けられたものだぞ? そんな効果があるわけがないはずだが……やっぱり、これはナビ子の偽装じゃないのか?

 俺は、薄々そのことを感じていた。偽装で付けられていたと思っていたが、その偽装のスキルすら更に偽装で、実は全然別物である可能性が浮上する。

 いや、実際偽装のスキルがラーニング出来たわけだし、ナビ子が偽装のスキルを発動したのは間違いない……いや、そもそも偽装のスキルだけを発動したという証拠もないよな。俺をこんな姿にしたスキルがラーニング出来なかっただけかもしれない。

 偽装というには、この犬耳と尻尾はリアル過ぎた。感覚はあるし、動かすこともできる。斬られれば痛みも感じる。

 あの女……やりやがったな。

 偽装をラーニング出来たことは感謝しているが、それとこれとは話が別である。

 いつか機会があれば、そのことについて問い詰めてやろう。

 とりあえず、現状はそこで一旦区切る。今は目の前のことの方が重要だった。

「まあ、服従したというならそれでいいが、これ、どうするんだ?」

 実際服従されたが、倒した訳ではない。先へ進むには、目の前のレッサーウルフたちを倒す必要があった。

「倒すしかないさね」
「えぇ!? 可哀そうですよ」

 キャサリンの言うことは最もだったが、姫紀の言葉にも一理ある。服従している相手を甚振る趣味は、流石に持ち合わせてはいない。俺が楽しめるのは、あくまでも強敵や敵対しているものだ。もちろん、必要であれば関係ないが、目の前で服従されると気が進まない。

「ぶひゅひゅ。これは従魔フラグなんだなぁ! ルインたんがレッサーウルフを従えることで、仲間扱いになって先に進めると僕ちんは予想するんだなぁ!」

 すると、こういうことに詳しいのか、奥平が解決案を提示した。

「なるほど……」
「くぅん」

 確かに、レッサーウルフは俺に対して服従的だ。従魔というのはよくわからないが、仲間にするにはどうすればいいのだろうか。

 俺は少し悩んだ末、群れのリーダーと思わしき一匹に近づいた。

「これからは、俺に従って付いてくるか?」
「ワン!」

 すると、レッサーウルフは嬉しそうに声を上げる。

 こんなんでいいのだろうか?

 よくわからないが、レッサーウルフは俺に付いてくるらしい。

「ぶひゅひゅ! 流石はルインたんなんだな!」
「七匹も増えれば、試練も楽勝さね!」
「わぁ、うらやましいです!」

 パーティメンバーからは、喜びの声があがる。だが、その時だった。仲間になったレッサーウルフたちの身体が輝きだし、徐々に薄くなっていく。

「な、何が起きた?」
「ぼ、僕ちんにも分からないんだなぁ!」

 そして、最後にはレッサーウルフ達は消え去り、クリア扱いなのか赤い魔法陣と青い魔法陣が闘技ステージの中央に現れた。

「消えたさね……」
「せっかく仲間になったのに」

 現実は、そんなに甘くは無いということだろうか。モンスターを七匹仲間にしてしまうと、流石に難易度が下がりすぎる。

 俺は少し残念に思いながらも、レッサーウルフたちのことは諦めることにした。

「ルインたん。何か身体に変化があるかもしれないんだな。もしかしたら、スキルが増えている可能性もあると、僕ちんは思う。こういうのは強化イベントと、相場が決まっているんだな!」
「そうなのか?」

 奥平がそう自信満々に言うので、俺はまず身体に変化が無いか確認するが、特に変わりは無い。次に、スキルを確認してみるが、何か増えたということもなかった。

「特に何もないぞ?」
「ぶひゅ!? そ、そんな馬鹿なぁ!?」
「そんな甘い話は無いってことさね」
「残念です」

 結局、レッサーウルフが消えた現象は何だったのだろうか。やはり、仲間に加えるのは認めないということかもしれない。

 そう納得して、次の魔法陣に進むことにした。赤い魔法陣と青い魔法陣どちらかを選ぶのは、キャサリンだ。

「それじゃあ、次は赤にするさね」

 キャサリンが選んだのは、赤い魔法陣。俺たちはそれに乗って、次のステージへと転移する。

 次こそは、まともに戦いたいな。

 俺はそう思いながら、赤鬼の小太刀を握りしめた。


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