「流石に焦りました」
「今回も危なかったさね」
「ぶひゅぅ。ひどい目に遭ったんだなぁ」
待合室に戻ってくると、パーティメンバーの面々は疲れたように言葉を口にした。
「確かに、第二試練は疲れたな」
第一試練とはまた違った疲労感であり、第三試練へとこのまま向かうのは体力的にも厳しい。
「それはそうと、ルインさんあのオーガを倒したんですね!」
姫紀が尊敬するような視線と共に、自身の両手を握ってそう言ってきた。
「あれはぎりぎりだったよ。あのままじゃ吊り橋が落とされそうだったから、わざと縄を切って突き落とすのがやっとだった」
今思うと、何か一つでもミスがあれば、オーガは落ちることは無かったと思う。
「ぶひゅぅ! 吊り橋が傾いた犯人はルインたんなのかぁ。僕ちんあの時足を滑らせて、奈落の底へ落ちたんだなぁ……でも、ルインたんなら許すんだな!」
「あ、ありがとう?」
奥平はやはり吊り橋から落ちていたようだが、許してくれるようだ。案外神経が図太いのかもしれない。
「それはそうと、ルイン。あんたMVPで何かもらったようだけど、あたしゃはそれが気になるね」
俺もMVP報酬については気になっていた。けれど、壊れたナイフを優先していたので、まだ確認はしていない。
そういえば、壊れたナイフは……そのままか。どうやら、壊れた装備までは直らないようだな。
第二試練から戻ってきたことにより、衣服を含めて全て清潔化され、少々の服の解れや怪我などは治ってしまう。だが、完全に壊れた物は対象外らしい。
まあ、仕方がないか。これがまかり通れば、威力は高いが一回で壊れてしまうアイテムとかあった場合、使い回しができるようになってしまうからな。
そんなことを思いつつ、話が脱線したので、俺は再びMVP報酬について話を戻す。
「ああ、どうやらあのオーガは、第二試練の隠れボスだったらしいな。その報酬が、これになる」
俺はアイテムポケットを開き、追加されたアイテムに視線を向けた。アイテムポケットは五枠しか本来はないが、MVP報酬にはおまけでアイテムポケットの枠が一つ足されている。これはかなりうれしい。俺はそう思いながら、赤鬼の小太刀を取り出すと、代わりに壊れたナイフを収納する。
「おおっ! かっこいいんだなぁ」
「凄いです!」
俺がアイテムポケットから赤鬼の小太刀を取り出すと、奥平と姫紀がうらやましそうに声を上げた。そんな視線を二人に向けられる鬼の小太刀の見た目は、約六十センチ程の大きさであり、鞘は全体的に赤く、柄巻は黒くなっている。
手に持っただけで、何か力がみなぎってくるような気がするな。
マジックアイテムであるという赤鬼の小太刀。その固有能力が関係しているのでは無いかと思いつつも、ゆっくりと柄を握って鞘から引き抜く。
「綺麗さね」
「わぁ!」
現れたのは、薄っすらと赤い刃に、赤黒い波紋。見ていると吸い込まれそうな美しさがあった。
「ぶひゅぅ! これなら僕ちんが残ればよかったんだなぁ!」
「あんたじゃオーガに勝てないさね」
「ぐぬぬ、なんだな」
そんな軽口を叩く二人をよそに、俺はその刃を見てこんなことを思う。
これは、よく肉が斬れそうだな。
思わず、口角が上がってしまった。
「ひッ!?」
「ぶひゅ? 姫紀たん、どうしたんだな?」
「あ、何でもないです」
「?」
危ないな。つい、顔に本性が出てきそうになってしまった。気を付けないと。
俺は姫紀に本性が気が付かれそうになったことに少々ひやひやしながらも、赤鬼の小太刀を鞘へと戻す。
そういえば、この赤鬼の小太刀には自動装着と自動修復という能力があるらしいな。後者は分かるが、自動装着とはなんだ?
装着という言葉から、何となく俺は赤鬼の小太刀を左腰に近づけた。そると、磁石のようにピタリとくっつき、簡単には外れそうにはない。
「おお、これは便利だ」
とりあえず、使わなくなった壊れたナイフの鞘をアイテムポケットにしまい、赤鬼の小太刀の邪魔にならないようにする。
「かっこいいです!」
「さまになってるさね!」
軽く動いてみても、ほとんど揺れないな。悪くない。
「かなり使えそうだし、今後の試練で役に立つと思う」
「オーガを倒したルインたんがそう言うと、恐ろしく感じるんだなぁ!」
「こりゃ、あたしゃも負けないように頑張らないとね」
「流石ルインさんです!」
あの刀身をじかに見れば、これまで使っていたナイフが何だったんだと思うほどの差を感じた。これなら、あのオーガですら斬れるかもしれない。
「そういえば、固有能力があるってクリア画面に出ていたけど、ルインたんそれについてはどうなだな?」
固有能力か。なんとなく手に持った瞬間から、これなんじゃないかと思うものはあるんだよな。
「おそらく、装備しただけで身体能力が上がっていると思う」
「なるほど。それはパッシブ効果ってやつなんだなぁ! 装備中は常にルインたんがパワーアップするってことになるんだな!」
「それは、かなり役に立つな」
俺は戦闘中、もう少し速く動ければと思ったり、力がもっとあればと考えていた。それが、この赤鬼の小太刀によって解消されるという訳だ。
「ただでさえ強いルインが更に強くなるさね」
「これは、本当に一位を取れるかもしれませんね!」
俺たちは、そんな風にしばらく赤鬼の小太刀について盛り上がった。その後は、疲労がたまっていたこともあり、十分間の休憩をとる。本来ならば、もう少し長い方が良いはずだが、先着順にEPが多く得られるということもあって、短時間で切り上げた。
さて、そろそろ第三試練を決めるか。
「これまでの試練を考えれば、次も嫌な予感がするんだなぁ」
「うう、僕ちょっと不安です」
「あんたたち、そういう後ろ向きな考えはよしな」
それぞれ次の試練に想うところがありながらも、スマホの専用アプリから、第三試練のルーレットを開始する。
できれば、この赤鬼の小太刀をたくさん使える試練がいいな。
俺が次の試練についてそんな願いを込めたからか、ゆっくりとルーレットのが止まり選ばれた第三試練は、戦闘がメインのものになった。
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第三の試練『モンスター50:50』
赤い魔法陣と青い魔法陣のどちらかを選んで、その先にいる敵を倒そう!
出てくるモンスターは、雑魚か強敵かのどっちかになるよ!
雑魚でも強者でもランダムで選ばれるから、強さはピンキリだ!
運が悪ければ、瞬殺されるかもしれないから気を付けよう!
五回勝利すればクリアだよ!
運が良ければ、五回連続でザコモンスターかもしれないよ!
目指せゴブリン五連戦!
倒したモンスターによって報酬は変化するぞ!
全員生存したら追加報酬だ!
ただし全滅したら失敗だぞ! この試練で稼いだEP没収に加え、二時間の待機命令が出されるよ!
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どうやら早速、赤鬼の小太刀を試せそうだな。是非強者と戦ってみたい。
俺は第三試練の内容に満足しながら、パーティメンバーと共にその場から転移した。
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