「あれは……」
次のステージに来て早々目に入ってきたのは、全長三メートルはあろう巨大な青魚だ。その先端には、三又槍のような角を生やしている。
「トライデントフィッシュなんだな」
奥平が青魚の名称を口にした。見た目通りの名前をしたモンスターのようだ。
「つ、強そう……ですけど」
姫紀がどこか歯切れ悪く、トライデントフィッシュについて言及する。
「ありゃ、放っておいても倒せるんじゃないのかい?」
「ああ、そうかもしれないな」
俺は、キャサリンの指摘に同意した。何故ならば、目の前のトライデントフィッシュは、苦しそうに跳ねているだけで襲ってくる気配どころか、そのまま死んでしまいそうな勢いである。
今度こそ戦えると思ったんだがな……。
目の前の敵にがっかりしながら、俺は溜息を吐いてしまう。
「それなら、ここは僕ちんの新技練習をさせてもらうんだな! マジックショット!」
すると、奥平が第二試練の宝箱から手に入れたスキル、マジックショットを両手の平から発動した。半透明な青白い光のようなものが、トライデントフィッシュに命中する。
「うわ~凄いです!」
「ぶひゅひゅ、どんどん行くんだな! マジックショット!」
流石に一発では倒せなかったようで、奥平は何発もマジックショットを放っていく。それは着弾と共に小さな爆発を起こし、確実にトライデントフィッシュへダメージを与えていく。
「ルインは参加しなくていいのかい? 」
「いや、そんな時間はかからなそうだし、体力を、いや魔力を温存しておきたいから、俺は止めておくよ。逆にキャサリンは攻撃しないのか?」
「あたしゃは近づくと危なそうだから見てるさね」
俺はオーガ戦での疲労がまだ抜けきっていないため、今回は魔力温存のために見ていることにした。奥平も楽しそうなので、余計なことはしない方がいいだろう。
俺とキャサリンは軽い会話をしながら、奥平達を眺める。姫紀はというと、目を輝かせながら奥平の放つマジックショットを絶賛していた。奥平については、説明は不要だろう。
「いいなぁ。僕もその内かっこいいスキル欲しいです」
「ぶひゅひゅ。僕ちんの新技最強なんだなぁ!」
それから数分後、トライデントフィッシュは息絶えて光の粒子になって消え去った。
「あれ、本当なら強そうだな」
「水中では会いたくないさね」
ステージに打ち上げられていたから簡単に倒せたが、水中では恐ろしい相手になっていたはずだ。あの三又の槍に高速で貫かれたら簡単にやられてしまうだろう。
耐久力も一方的に攻撃されながらも十分近く粘っていたので、相当なものだと予想できた。水中で速い動きを見せていたのならば、本来攻撃を当てるのすら難しかったかもしれない。
「やりましたね!」
「ぶひゅひゅ! しょせんは魚なんだなぁ!」
そうして無事にトライデントフィッシュを撃破できたことで、ステージの中央には赤い魔法陣と青い魔法陣が出現する。
「じゃあ、次も赤で!」
選ぶ順番の回ってきた姫紀は、キャサリンと同じく赤を選択した。
「ぶひゅひゅ、次も僕ちんのマジックショットが火を噴くんだな!」
「あたしゃもそろそろ戦いたいさね」
二回連続でまともに戦えなかったこともあり、俺やキャサリンは戦闘がしたくてうずうずしている。奥平はマジックショットの力に自信を持ったのか、戦意が十分だ。
次こそは、戦いたい。
俺たちは次のステージに行くために、赤い魔法陣に乗って転移した。
◆
「キキィ!」「ギャッギャッ」「ウキャー」「キキ?」「キッキ」「キュイ!」「ウキッキ」「キキキッ!」「ウッキー」「キャッキャ!」「ッキキィ!」「ウキキ?」「キッキ」「キキィ!」
次のステージに来ると、そこには茶色い小さな小猿が溢れかえっていた。顔はどれも凶悪そうであり、愛嬌は感じられない。
「あ、あれはスモールモンキーなんだな!」
「た、たくさんいます!」
「ッ、みんな! 基本陣形だ!」
「了解さね!」
俺の掛け声と共に、パーティメンバーはそれぞれ配置に着く。これは事前に休憩中みんなで考えた基本陣形だ。といっても、キャサリンが後衛の奥平と姫紀を守るようにして前に構え、俺は遊撃として周囲の敵を攻撃する。奥平と姫紀は攻撃魔法と補助魔法を使う感じだ。
いったい何十匹いるんだ? もしかしたら百匹近くいるかもしれないな。俺もできるだけ姫紀と奥平の護衛に専念したほうがいいか。
「ギギッ! ギャッ!?」
早速向かってきたスモールモンキーを赤鬼の小太刀で両断しつつ、俺は二人になるべく敵が向かわないように対処することにした。
「マジックショット。マジックショットなんだなぁ!」
「この数はちょっときついさね」
奥平とキャサリンも、一匹一匹は弱いとはいえ、その数に手間取っているようだ。
小さくて素早い上に、数が多いというのは厄介だな。
「キキッ!」「うっきゃ!」「ウキキィ!」
一太刀で倒せるが、スモールモンキーたちは構わず突撃してくる。何とか後衛の二人に向かわせないのがやっとだった。
「聖なる光りよ、皆を守って!」
そのとき、姫紀から発せられた補助魔法の光が、パーティメンバー一人一人の体を包んだ。その光はスモールモンキーの攻撃を弾き、無力化する。
これは、第一試練の時に発動したやつか。発動が前より早くなったな。力が溢れてくる感じはしないが、攻撃を弾くのは助かる。
第一試練の時は発動にそこそこ時間がかかっていた姫紀だったが、コツをつかんだようであり、発動速度に一分もかかってはいない。
「きき?」「ウギャッ?」「ギギギギ!!」
スモールモンキーのひ弱な攻撃では、姫紀の結界を破ることはできないようだな。
小さな傷でも数が増えれば、なかなかの脅威になる。それだけに、姫紀の結界は大きな助けになった。
「ぶひゅひゅ! 姫紀たん大活躍なんだなぁ!」
「こりゃ狩り放題さね!」
守りに重点を置かなくてもよくなった俺たちは、当然殲滅力が上がっていく。
戦えたのは悪くないが、これじゃ、つまらないな。
赤鬼の小太刀の切れ味は相当なものであり、ほとんど手ごたえが無くスモールモンキーを倒していた。
どうせなら、新しくラーニングしたスキルを使ってみるか。
俺はパーティメンバーになるべく気が付かれないよう、小声でそのスキルを発動した。
「威圧」
「ギッ!?」「ウギャ」「ギギ!?」
オーガからラーニングした威圧のスキルは、まるで蛇に睨まれた蛙のように、スモールモンキーたちを委縮させて動けなくする。
予想通り、雑魚戦には有利そうだな。
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名称:威圧
CP:5
【説明】
対象に恐怖を与えて委縮させる。
実力差があるほど効果を発揮する。
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動きの鈍くなったスモールモンキーを、俺は草刈り感覚で倒していく。
悪くは無いが、やはり楽しくはないな。
試練では使いそうにはなかったクリーンのスキルと入れ替えて装着していたが、この威圧もこういう場面以外ではあまり役に立ちそうにないと、俺は思った。
雑魚を甚振るときには便利そうだが、それだけだな。そもそも、雑魚を恐怖させるのは威圧のスキルが無くても出来そうだし、他によさそうなスキルをラーニングしたら入れ替えるか。
そうして、スモールモンキーたちの殲滅を俺たちは終えた。
「楽勝だったさね。姫紀、あんたいい仕事したね」
「姫紀たんのスキルは反則なんだなぁ」
「えへへ」
二人に褒められて、姫紀は嬉しそうに照れていた。今回助かったのは事実なので、俺も一声かけておく。
「前より発動が早くなっていたし、助かった。次も頼む」
「は、はい! 僕頑張ります!」
ひとしきり姫紀への賛辞が終わると、次のステージに進むための魔法陣が現れる。
「ぶひゅひゅ、到頭僕ちんが選ぶ番が来たんだな! ここは僕ちんの直感が青と言っているんだな!」
奥平は大げさなジェスチャーをしながら、青い魔法陣を指さしてそう言った。俺たちはそれにそこまで反応せずに、青い魔法陣へと移動する。
「ほら、あんたも何時までもそうしてないで、さっさと来るさね」
「ぶひゅぅ、反応が薄くて僕ちんさみしい」
そして、俺たちは次のステージへと転移した。
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