028 打ち上げられた魚

「あれは……」

 次のステージに来て早々目に入ってきたのは、全長三メートルはあろう巨大な青魚だ。その先端には、三又槍のような角を生やしている。

「トライデントフィッシュなんだな」

 奥平が青魚の名称を口にした。見た目通りの名前をしたモンスターのようだ。

「つ、強そう……ですけど」

 姫紀がどこか歯切れ悪く、トライデントフィッシュについて言及する。

「ありゃ、放っておいても倒せるんじゃないのかい?」
「ああ、そうかもしれないな」

 俺は、キャサリンの指摘に同意した。何故ならば、目の前のトライデントフィッシュは、苦しそうに跳ねているだけで襲ってくる気配どころか、そのまま死んでしまいそうな勢いである。

 今度こそ戦えると思ったんだがな……。

 目の前の敵にがっかりしながら、俺は溜息を吐いてしまう。

「それなら、ここは僕ちんの新技練習をさせてもらうんだな! マジックショット!」

 すると、奥平が第二試練の宝箱から手に入れたスキル、マジックショットを両手の平から発動した。半透明な青白い光のようなものが、トライデントフィッシュに命中する。

「うわ~凄いです!」
「ぶひゅひゅ、どんどん行くんだな! マジックショット!」

 流石に一発では倒せなかったようで、奥平は何発もマジックショットを放っていく。それは着弾と共に小さな爆発を起こし、確実にトライデントフィッシュへダメージを与えていく。

「ルインは参加しなくていいのかい? 」
「いや、そんな時間はかからなそうだし、体力を、いや魔力を温存しておきたいから、俺は止めておくよ。逆にキャサリンは攻撃しないのか?」
「あたしゃは近づくと危なそうだから見てるさね」

 俺はオーガ戦での疲労がまだ抜けきっていないため、今回は魔力温存のために見ていることにした。奥平も楽しそうなので、余計なことはしない方がいいだろう。

 俺とキャサリンは軽い会話をしながら、奥平達を眺める。姫紀はというと、目を輝かせながら奥平の放つマジックショットを絶賛していた。奥平については、説明は不要だろう。

「いいなぁ。僕もその内かっこいいスキル欲しいです」
「ぶひゅひゅ。僕ちんの新技最強なんだなぁ!」

 それから数分後、トライデントフィッシュは息絶えて光の粒子になって消え去った。

「あれ、本当なら強そうだな」
「水中では会いたくないさね」

 ステージに打ち上げられていたから簡単に倒せたが、水中では恐ろしい相手になっていたはずだ。あの三又の槍に高速で貫かれたら簡単にやられてしまうだろう。

 耐久力も一方的に攻撃されながらも十分近く粘っていたので、相当なものだと予想できた。水中で速い動きを見せていたのならば、本来攻撃を当てるのすら難しかったかもしれない。

「やりましたね!」
「ぶひゅひゅ! しょせんは魚なんだなぁ!」

 そうして無事にトライデントフィッシュを撃破できたことで、ステージの中央には赤い魔法陣と青い魔法陣が出現する。

「じゃあ、次も赤で!」

 選ぶ順番の回ってきた姫紀は、キャサリンと同じく赤を選択した。

「ぶひゅひゅ、次も僕ちんのマジックショットが火を噴くんだな!」
「あたしゃもそろそろ戦いたいさね」

 二回連続でまともに戦えなかったこともあり、俺やキャサリンは戦闘がしたくてうずうずしている。奥平はマジックショットの力に自信を持ったのか、戦意が十分だ。

 次こそは、戦いたい。

 俺たちは次のステージに行くために、赤い魔法陣に乗って転移した。

 ◆

「キキィ!」「ギャッギャッ」「ウキャー」「キキ?」「キッキ」「キュイ!」「ウキッキ」「キキキッ!」「ウッキー」「キャッキャ!」「ッキキィ!」「ウキキ?」「キッキ」「キキィ!」

 次のステージに来ると、そこには茶色い小さな小猿が溢れかえっていた。顔はどれも凶悪そうであり、愛嬌は感じられない。

「あ、あれはスモールモンキーなんだな!」
「た、たくさんいます!」
「ッ、みんな! 基本陣形だ!」
「了解さね!」

 俺の掛け声と共に、パーティメンバーはそれぞれ配置に着く。これは事前に休憩中みんなで考えた基本陣形だ。といっても、キャサリンが後衛の奥平と姫紀を守るようにして前に構え、俺は遊撃として周囲の敵を攻撃する。奥平と姫紀は攻撃魔法と補助魔法を使う感じだ。

 いったい何十匹いるんだ? もしかしたら百匹近くいるかもしれないな。俺もできるだけ姫紀と奥平の護衛に専念したほうがいいか。

「ギギッ! ギャッ!?」

 早速向かってきたスモールモンキーを赤鬼の小太刀で両断しつつ、俺は二人になるべく敵が向かわないように対処することにした。

「マジックショット。マジックショットなんだなぁ!」
「この数はちょっときついさね」

 奥平とキャサリンも、一匹一匹は弱いとはいえ、その数に手間取っているようだ。

 小さくて素早い上に、数が多いというのは厄介だな。

「キキッ!」「うっきゃ!」「ウキキィ!」

 一太刀で倒せるが、スモールモンキーたちは構わず突撃してくる。何とか後衛の二人に向かわせないのがやっとだった。

「聖なる光りよ、皆を守って!」

 そのとき、姫紀から発せられた補助魔法の光が、パーティメンバー一人一人の体を包んだ。その光はスモールモンキーの攻撃を弾き、無力化する。

 これは、第一試練の時に発動したやつか。発動が前より早くなったな。力が溢れてくる感じはしないが、攻撃を弾くのは助かる。

 第一試練の時は発動にそこそこ時間がかかっていた姫紀だったが、コツをつかんだようであり、発動速度に一分もかかってはいない。

「きき?」「ウギャッ?」「ギギギギ!!」

 スモールモンキーのひ弱な攻撃では、姫紀の結界を破ることはできないようだな。

 小さな傷でも数が増えれば、なかなかの脅威になる。それだけに、姫紀の結界は大きな助けになった。

「ぶひゅひゅ! 姫紀たん大活躍なんだなぁ!」
「こりゃ狩り放題さね!」

 守りに重点を置かなくてもよくなった俺たちは、当然殲滅力が上がっていく。

 戦えたのは悪くないが、これじゃ、つまらないな。

 赤鬼の小太刀の切れ味は相当なものであり、ほとんど手ごたえが無くスモールモンキーを倒していた。

 どうせなら、新しくラーニングしたスキルを使ってみるか。

 俺はパーティメンバーになるべく気が付かれないよう、小声でそのスキルを発動した。

「威圧」
「ギッ!?」「ウギャ」「ギギ!?」

 オーガからラーニングした威圧のスキルは、まるで蛇に睨まれた蛙のように、スモールモンキーたちを委縮させて動けなくする。

 予想通り、雑魚戦には有利そうだな。

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 名称:威圧
 CP:5
【説明】
 対象に恐怖を与えて委縮させる。
 実力差があるほど効果を発揮する。

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 動きの鈍くなったスモールモンキーを、俺は草刈り感覚で倒していく。

 悪くは無いが、やはり楽しくはないな。

 試練では使いそうにはなかったクリーンのスキルと入れ替えて装着していたが、この威圧もこういう場面以外ではあまり役に立ちそうにないと、俺は思った。

 雑魚を甚振るときには便利そうだが、それだけだな。そもそも、雑魚を恐怖させるのは威圧のスキルが無くても出来そうだし、他によさそうなスキルをラーニングしたら入れ替えるか。

 そうして、スモールモンキーたちの殲滅を俺たちは終えた。

「楽勝だったさね。姫紀、あんたいい仕事したね」
「姫紀たんのスキルは反則なんだなぁ」
「えへへ」

 二人に褒められて、姫紀は嬉しそうに照れていた。今回助かったのは事実なので、俺も一声かけておく。

「前より発動が早くなっていたし、助かった。次も頼む」
「は、はい! 僕頑張ります!」

 ひとしきり姫紀への賛辞が終わると、次のステージに進むための魔法陣が現れる。

「ぶひゅひゅ、到頭僕ちんが選ぶ番が来たんだな! ここは僕ちんの直感が青と言っているんだな!」

 奥平は大げさなジェスチャーをしながら、青い魔法陣を指さしてそう言った。俺たちはそれにそこまで反応せずに、青い魔法陣へと移動する。

「ほら、あんたも何時までもそうしてないで、さっさと来るさね」
「ぶひゅぅ、反応が薄くて僕ちんさみしい」

 そして、俺たちは次のステージへと転移した。


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