014 契約冒険者について

 契約冒険者? なんだそれは?

 そのような制度があるという話は、盗賊の男からは訊いていなかった。

「ああ、僕の契約冒険者になれば、依頼の紹介をしてあげるし、ランクの昇給審査も通りやすくなるよ。他にも、メリットはたくさんあるんだ」

 そこだけの部分を切り取れば、好条件だということは理解できる。だが、こういうのには裏があるのがつきものだ。

「デメリットと、そちらにはどんな利があるのか教えてください」
「はは、そう簡単には頷かないか。うん。分かった訊かれたからには、もちろん教えよう」

 その言い方だと、訊かれなければ教えなかったということか。

 やはり裏があったのだと、俺は警戒をあらわにした。

「そんな警戒しないでくれ。ちゃんと説明するから。じゃあ、まずデメリットだけれど――」

 俺は契約冒険者になるデメリットと、それによってもたらすルチアーノの利について説明を受けた。内容は、概ね以下の通りだ。

【契約冒険者になるデメリット】
 ・冒険者ギルドで何が用があるときは、ルチアーノがいる場合はルチアーノを通して処理をすること。
 ・緊急を要する依頼の場合、理由が無ければ必ず受けなければいけない。
 ・担当職員がいる町などから完全に離れる場合、契約を破棄せねばならない。
 ・契約を破棄するには、担当職員の同意か、二年以上の契約日数、又は違約金の支払いが生じる。(その職員が所属しているギルドマスター、副ギルドマスターどちらかの同意でも可能)

【ルチアーノの利益】
 ・緊急性がある依頼を処理することができる。
 ・契約冒険者が有名になればそれが成果になって出世しやすくなる。

「なんだかとても面倒ですね……」

 特に契約の破棄についてが面倒だった。目の前のルチアーノに契約の破棄を拒否されれば、それだけ町に縛られるか、違約金を支払うことになる。

「いやいや待ってくれ。元々G級は登録した町以外では依頼を受けられないし、メリットだって中々のものなんだよ。それに、こちらにもデメリットが無いわけじゃないからね。とりあえず、メリットについてもう一度よく聞いてくれ」
「はぁ」

 ルチアーノに説得されて、俺は契約冒険者になるメリットについて、詳しく訊いてみることにした。そしてそのルチアーノから訊いた契約冒険者のメリットについては、次の通りだ。

【契約冒険者になるメリット】
 ・良い依頼を優先的に回してもらえる。
 ・ランクアップの時に審査が優遇される。
 ・冒険者ギルドから一定金額を借りることができる。
 ・怪我をした場合、いくらか冒険者ギルドから支援金を受け取れる。
 ・ギルドと提携している店から割引を受けられる。
 ・必要であれば他の冒険者から、パーティメンバーを探してもらうことができる。

 思ったよりメリットが大きいな。これなら、他の冒険者もこぞって契約冒険者になるんじゃないのか? いや、でも雰囲気からそう簡単になれるものではなく、数にも限りがありそうだ。

 ルチアーノにもデメリットがあると言っていたことを思い出し、それが関係しているのではないかと、俺は推測をした。

 まあ、契約冒険者が優遇されていることは理解したが、何故俺に進めるんだ? 模擬戦の結果がそれだけよかったのだろうか。

 気になったので、俺はその点についても訊いてみることにした。

「何で俺を契約冒険者を勧めるのですか?」

 俺がそう質問をすると、ルチアーノはニヤリと笑いながらも、あっさりその理由を教えてくれる。

「うん。それは君に可能性を感じたからさ。見た限り、君の戦闘能力はC級以上B級未満だね。ガイラスはあれでも元B級冒険者なんだ。それだけの戦闘能力を持つ存在は、ほとんど契約冒険者になってしまっていてね。あと現段階ではG級だけれど、高ランクにアップすればそれだけ僕の評価につながる。特に、一番最初に契約した職員というのは、契約破棄後も評価されるものなんだ。つまり僕にとって、君は大きな宝石の原石という訳さ」

 ルチアーノは饒舌に、契約冒険者へと勧めた理由を述べた。

 なるほど。だがそこまで将来性を感じているということは、契約破棄に同意し無さそうだな。

 しばらくこの町に滞在するつもりだが、永遠ではない。町を去るときに面倒な手間になるようであれば、契約冒険者になる気は起きなかった。

「ま、待ってくれ! よし、わかった。契約破棄の同意は事前にしておいたことにしようじゃないか。それでどうだい? そうすれば、いつでも契約破棄が可能だよ!」

 俺があまり乗り気でないのを感づいたのか、ルチアーノが妥協案を提示してくる。

 それなら、別に構わないか。

 冒険者ギルドで用がある場合、ルチアーノに対応してもらうのは、別にデメリットだとは思わなかった。となると、実質デメリットは緊急を要する依頼の場合、理由が無ければ必ず受けなければいけない。という内容だけになる。

「分かりました。契約冒険者になります」
「おお! ありがとう!」

 そうして俺は契約冒険者になることを同意した。それからルチアーノが個室を出て契約書を取ってくると、それに記入をする。

 内容は問題なく読めるし、書けるな。

 異世界人の称号スキルである『言語理解』が上手く発動しているのか、見たこともない文字を読むことができる上に、書くことも可能になっている事実に俺は驚愕しつつも、無事に契約書を書き終える。

 特に、問題は無さそうだな。契約内容にイカサマもなさそうだ。

 それを確認すると、ついでに出されていた冒険者登録書についても記入をする。そして出来上がった冒険者証はこの通りになった。

 _______________

 冒険者ランク:G級
 所属:エバレス支部
 担当:ルチアーノ

 名前:ミカゲ
 種族:人族
 年齢:15
 性別:男

 特技:剣

 _______________

 冒険者ギルドの登録歴が当然なかった俺は、直ぐに冒険者証を発行してもらえた。登録料は大銀貨一枚の10,000アロであり、無ければ借りることもできたが、俺はもちろん即金で支払っている。登録に限りだが、借り入れは契約冒険者じゃなくても適応されるらしい。
 ちなみに、名前に苗字がない理由だが、この大陸では苗字を持つのは特権階級や一部の者だけらしいので、記入することはなかった。

 懐は寂しくなったが、借金はできるだけ避けたい。安全だと分かっていても拒否反応がでるしな。

 元の世界では、貧しい探索者が少しの借金から雪だるま式に増えていき、最後には奴隷のようにダンジョンへと通い続けている姿を、俺は何度も見てきた。

 飢えかけても借金だけはするな。これは探索者なら誰でも知っている言葉だ。

 そういった理由から、俺は冒険者ギルドの登録費を借りることはしなかった。

「これで、君も冒険者の仲間入りだ。 G級の依頼はF級とかぶることが多いから、普通は中々依頼が取れないけれど、そこはもちろん僕がサポートするよ。 どうだい? 早速何か依頼を受けるかな?」

 登録が完了すると、ルチアーノが嬉しそうに訊いてくる。

 そうだな。まだ日も高いし金銭も心もとないから、何か依頼でも受けるか。

「はい、よろしくお願いいたします」
「了解だ! それと、丁寧な口調はいらないよ。冒険者相手にその口調だと舐められるから気をつけてな」
「あ、ああ、わかった」

 そこは元の世界とは違うのか。口調が汚いと、教養のない奴として馬鹿にされたし、探索者は企業の専属になるのがゴールと言われていたからな。

 ルチアーノの言葉になるほどと思いながら、依頼を受けるためにカウンターまで戻ることになった。


目次に戻る▶▶

ブックマーク
0

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA