019 第一の試練『千の矢』

 試練が決定されると、少しして俺を含めたパーティメンバーは、見知らぬ荒野に転移していた。周囲には山と大小さまざまな岩が転がっている。

 そして上空には、大きな文字でカウントダウンが開始されており、十秒後には試練が始まるようだった。

「とにかくみんな武器を構えろ!」
「わ、わかったんだな!」
「了解したさね!」
「うぇ!?」

 俺の掛け声に反応し、それぞれが武器をアイテムポケットから取り出す。奥平と姫紀は初期装備の棍棒を構え、キャサリンは鉄の長剣と鉄の盾を装備した。

 あの二人は早々にやられそうだな。キャサリンもビキニアーマーというのを考えると危ないかもしれない。

 俺は腰に装備していた二本のナイフを両手に取り、もしもの時はできるだけ一人でもやり過ごせるように今から身構えておく。

 そうして、あっという間に十秒のカウントダウンは過ぎ、試練がスタートした。

 ――来る!

 始まると同時に、俺に向けてどこからともなく一本の矢が飛んできた。

 速度はそれほど早くは無い! 避けられる!

 飛んできた矢を俺は余裕をもって回避することに成功する。

「ぶひぃ!?」
「なっ!?」
「あぁ……」
「チッ! それくらい避けないでどうするさね!」

 しかし、奥平は俺と同時期に迫っていた矢を眉間に受けてしまい、早々に脱落して光の粒子となって消え去った。

 くそ、予想通りとはいえ、開始三秒も経たないうちにやられるのかよ!

「あ、あんたはそこの岩陰に隠れな! あたしゃが守ってやるさね!」
「で、でも……」
「早くおしッ!」
「ひゃっ!? はい!」

 キャサリンは姫紀に避けるのは無理だと考えたのか、岩と岩の隙間に移動させ、その隙間を防ぐように仁王立ちをする。

 何か考えがあるのか? 無策で守るだけなら悪手だぞ。

 俺はキャサリンの行動にそうは思うものの、メンバーの中で一番幼い姫紀を守ること自体に否定的な気持ちは無かった。

 そうしている間にも、矢は次々に飛んでくる。

「ふんッ! その程度の威力じゃ、あたしゃのビキニアーマーは突破できないさね!」
「まじか……」
「す、すごい!」

 なんと、ビキニアーマーに覆われていない素肌が矢を弾いた。矢が当たり突き刺さると思われたが、まるで鋼鉄の如く硬質の音を立てるだけで、キャサリン自体は無傷のようだ。

 あのビキニアーマー。もしかしなくてもガチャガチャから出た装備なんだろうな。

 最初はふざけた装備だと思っていたが、想像以上の性能に俺は驚愕きょうがくした。

 しかし、だからと言って試練が甘くなったわけではない。むしろ時間と共に速度や威力、同時に出現する矢の数が増えているようだ。

「聖なる光りよ! 僕の仲間を守って!」
「これは……」
「あんた、そんなことができたんだね!」

 先ほどまで岩の陰に隠れるだけだった姫紀が両手を組んで祈り、何かを発動させた。

 すると姫紀は身体から淡い光を発し、俺とキャサリンにもその光が体に纏う。

 今更発動したということは、何か条件があったのか? 体に変化は見られないし、どんな効果があるんだ?

 そう思いつつ迫る矢を避けようとした時だった。矢が不自然に弾かれ、地に落ちる。

 なるほど。この光はバリアーという訳か。

 これなら万が一被弾しても、そうそう死ぬことは無いだろう。

 姫紀の隠れた力に心の中で称賛を送ると、俺は矢の回避に専念し、時々パリィのスキルで矢を逸らし、或いは弾いてやり過ごす。

 パリィは逸らすことに補正がかかることに加え、タイミングがばっちり合えば、弾くこともできる。俺にとって使い勝手の良いスキルだ。

 _________________________________________

 名称:パリィ
 CP:10
【説明】
 タイミングよく発動することで攻撃などを逸らし、状況によっては弾くことも可能とする。

 _________________________________________

 それから問題なく全員が矢をやり過ごすこと五分、それは起きた。

「ぶひぃ……ひどい目にあったんだなぁ」
「え?」
「お、おばけッ!」
「あ、あんた……どうして!?」

 それは、先ほど脱落したはずの奥平だった。身体は半透明であり、矢がそのまま体を通り過ぎているのを見れば、姫紀の言った通り幽霊そのものだ。

「ぶひぃ!? 痛いんだなぁ!?」

 しかし、五秒経つと体が透明じゃなくなり、矢が次々に突き刺さる。

「ぶひゃぁ!!?」

 そして、奥平は再び死亡して消え去った。

「な、何だったんだ……」
「あの男、生き返る固有スキルでも持っているのかね?」
「い、痛そうでした……」

 奥平が復活したのは十中八九固有スキルだと思うが、今のを見る限り、生き返ったところでまた死ぬだろう。

 何回生き返れるかは不明だったが、仮に生き返れるとしても、この状況で奥平が役に立つ可能性は低い。

 奥平の巨体じゃ、キャサリンが守り切るのは無理だし、そもそも姫紀を守ることで精いっぱいに見える。

 つまり、奥平が再び生き返ったとしても、やれて一度きりの肉の盾くらいだろう。

 俺は早々に奥平について考えを決めると、再び回避に専念する。

 この試練、内容は千の矢と単純だが、だからこそ難しい。クリアーより先に、体力が尽きるかもしれない。

 迫る矢も最初は一本だったが、今では複数本が別々の方向から迫ってきている。

 くっ、俺はまだ持つが、キャサリンがまずそうだ。

 ただでさえ姫紀を守りながらであるため、体力の消耗が激しい。

「こ、これは少々厳しいさね」

 見れば体の一部が血で滲んでいた。いつの間にか矢の威力は、ビキニアーマーの防御力を突破するほどまで高まっている。キャサリンが脱落すのも時間の問題だった。

 キャサリンが脱落すれば、姫紀もそれに続くだろう。現状、飛んでくる矢がメンバーに分散しているが、俺一人に集中した場合、回避し続けることは難しい。

 試練クリアーは不可能。そう考えた時だった。

「聖なる光りよ! 矢を防ぐ結界を作って!」

 姫紀の祈りの言葉によって、ドーム状の光が展開される。それによって矢が次々と弾かれていった。

 どうやら、このドームの中では矢が出現することは無さそうだ。

「す、すごい力だな」
「あ、あんたやるじゃないか! 今回のMVPさね!」
「……」

 俺とキャサリンが姫紀に称賛の声をかけるが、深く集中しているのか返事をせず祈り続けている。

「この力を使うには、相当集中力が必要なようだな」
「だとすれば、声をかけるのはまずいさね」

 この光の結界がどれほど続くかは分からないが、今の内に休憩をしておく。

「田中さん、この状況を打破する方法は無いか?」
「ないね。それとあたしゃのことはキャサリンでいいさね。こっちもあんたのことはルインって呼ぶよ」
「わかった。そうなると、体力の続く限り頑張るしかなさそうだな」
「そうなるさね」

 思えば、今日でこの世界二日目。そう簡単に多くの手段を持っている方がおかしかった。
 そう考えると、姫紀がいなかったら危なかったな。

 ラーニングできなかったが、強力な固有スキルだ。

 俺が姫紀の固有スキルについて意識を回していると、唐突に矢の弾く音が止む。

「終わったのかい?」
「……いや、これはまずいかもしれない。上を見てくれ」
「これは流石に……あたしゃは無理だよ」

 遥か上空に、数百の矢が並んでいた。


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