時間が来ると、俺は先ほどのスタジアムではなく、テーブルや向かい合わせのソファー、壁掛けの巨大モニターなどが設置されている待合室にいた。
ここは……。
周囲を見れば、俺と同じように現れたプレイヤーらしき人物が三人いる。
まずは左に見えるのは、おどおどして落ち着きのない十代前半の少女。黒く長い髪の前髪がパッツン、姫カットが特徴的だ。装備は初期装備の白いシャツに茶色のズボンとブーツだけ。
次に俺の正面にはオークのような三十代前半と思わしき男。でっぷりとした体型におよそ百八十センチの身長をしており、なぜかこちらを見てハアハアと息を荒くしている。装備は同じく初期であり、唯一黒縁丸眼鏡が印象的だ。
最後に右側に見えるのは……。
「なんだい? この装備、ビキニアーマーがそんなに珍しいのかい?」
赤いビキニアーマーを身に着けた四十代後半の中年女性だった。お団子ヘアーをしており、腹部の肉が段になっているのか、下に履いているであろうビキニアーマーが目視できない。
「ぶ、ぶひぃ!? 短期間で二回もルインたんに会えたと思ったら、こんなビキニアーマーはあんまりだぁ!!」
「あ゛? なんか文句あるのかい?」
「ぶひぃい! なんでもないんだなぁ!!」
俺は男と中年女性のやりとりを見つつ、男の言葉に違和感を覚える。
短期間で二回? どこかで会ったか? ……あ、もしかしてチャラ男と命斗の決闘の時にいたかもしれないな。
あんな口調の男がいたと、俺はそのことを思い出した。
『プレイヤーの諸君! 注目! これより第一回イベント、4444を始めるぞ! ガハハ!!』
『さてさて、今から詳しい説明をするからよく聴いてねっ! 』
すると突然、巨大モニターにベントとナビ子が映し出された。
「そこの二人、今は話をよく聴いた方がいい」
「あんたの言う通りさね」
「ぶひぃ、流石ルインたん。わかったよ」
一度しか言われない可能性があると思い、二人によく聴くようにそう促した。
『まず初めに、同じ部屋にいるプレイヤーは今回のイベントの仲間になる。パーティを組んでリーダーを決めるんだぞ! がはは!』
『リーダはこのイベントで様々な決定権を有するからねッ! 誰をリーダーにするかよく話し合うんだよ?』
『自己紹介も兼ねて十五分やろう! さっそいくリーダーを決めてパーティを作るんだ!』
『ちなみに、十五分を過ぎてリーダーが決めていなかったらこっちで勝手に決めちゃうからねッ!』
ベントとナビ子は説明を一旦終えると、二人が楽しそうに手を振るのを最後に巨大モニターの画面が消えた。
「パーティにリーダーねぇ……まずは自己紹介でもするべきさね。あたしゃぁ田中キャサリン。見ての通りの戦士さね」
田中……キャサリン? 黒髪黒目でどう見ても顔は日本人にしか見えないが……ハーフか何か?
俺が中年の女性、キャサリンの自己紹介にそんなことを思っていると、向かい側にいた男が笑い出す。
「キャ、キャサリン、ぶひゃひゃひゃ!」
「あ゛?」
「ひぎぃ!? ご、ゴホン。僕ちんの名前は奥平邦夫っていうんだな! 僕ちんは二つの意味で魔法使いなんだなぁ!」
「二つの意味?」
奥平の名乗りに、今までおどおどしつつ会話に参加していなかった少女が、首をかしげて疑問の声を出した。
「むふふ、おじょうちゃん、男は三十歳まであるものを守り通すと、魔法使いになれるのだな」
「そ、そうなんだ。 僕もちゃんとした魔法使いになりたい。 何を守ればいいの?」
ん? 何かニュアンスの違う言い方だな。
「ぶひゅ? おじょうちゃん、残念だけど、この方法は男だけしかダメなんだなぁ」
「うん。 だから男の子の僕なら大丈夫なはずだけど……」
「ぶひ? お、男の娘?」
「あんた、男だったのかい?」
なんだか見たことのある光景が目の前に広がっていた。
「う、うん。僕、こんな見た目だけど、男の子だよ? 名前は竜宮院姫紀って女の子っぽいけど……あと、補助系の魔法? ができると思います」
少女、いや少年は、両手の人差し指どうしを胸の前で合わせながらどこか恥ずかしそうにそう言った。
「ぶひゅひゅ。この子も男の娘! しかもかわいい! ものすごい奇跡なんだなぁ!」
「そうかい。あたしゃぁてっきり女の子かと思ってたよ」
女に間違えられるのか、共感を覚えるな。
そうして、三人の自己紹介が終わったこともあり、続いて俺も名乗ることにした。
「じゃあ、最後に俺の自己紹介だが、名前は清城瑠院。ナイフ二本を使った接近戦が得意だ。ちなみにだが、俺の性別も男だ」
「え!? 僕と同じ?」
「僕ちんはルインたんのこと知っていたんだなぁ!」
「あ、あんたも男なのかい!? ということは、あたしゃの逆ハーレムってことになるのかねぇ」
それぞれ俺の性別に反応しつつも、こうして無事に自己紹介を終えた。
◆
「さて、それで、誰がリーダーをやるんだ?」
時間も限られていることもあり、俺は早々に話を切り出した。
「ぼ、僕はリーダーなんてできません!」
「あたしゃも興味ないさね」
姫紀とキャサリンはリーダーを辞退するようだ。俺も特にリーダーをやりたいとは思わない。
つまり消去法で言えば、リーダーは奥平になるのだろうか。それはそれで不安だと思った。案の定、奥平は豚のような笑い声を上げる。
「ぶ、ぶひゅひゅ! 二人はリーダーをする気がないんだよね? なら、僕ちんはルインたんをリーダーに推薦するんだなぁ!」
「なッ!?」
いきなりこいつは何を言い出すんだ!?
奥平の発言に、思わず俺は驚愕する。
「ここにいるルインたんは、強い二人の男性プレイヤーに言い寄られ、貢がせた上に決闘までさせたんだなぁ! その手腕はまさに小悪魔的で熟練の姫プレイヤー! ぎゅふふ、きっとリーダとしての資質も高いと僕は睨んでいるんだなぁ!」
「す、すごい……」
「あんた、やるじゃなさね! あたしゃの若いころを思い出すよ!」
……何を言っているんだこいつは?
俺は驚きのあまり声が出なかった。
あの決闘騒動は偶然の出来事だ。決して、俺が計画して行ったものではない。
「ぼ、僕はルインさんがリーダーに賛成です!」
「あたしゃも構わないさね」
「ぎゅふふ! ささ、ルインたん。さっそくパーティを作ってほしいんだなぁ!」
「……はぁ」
俺は重い溜息を吐くと、最早この流れで反論するのも面倒だと思い、パーティリーダーを引き受けることにした。
パーティか。確かスマホから結成できたはずだよな。
やれやれと思いつつスマホを出現させると、数あるアプリからパーティを選択した。
パーティのアプリには、結成と参加があり、結成を選択することで自動的にリーダーになる。
そしてメンバーの迎え入れ、或いは参加する方法は、リーダー側、参加者側共通であり、フレンドからの申請、バーコードの読み込み、近くにいるプレイヤーから探すと三パターンとなっていた。
今回はパーティ結成する前提であったため、即座に三人から参加申請が届き、もちろん許可をする。
「よ、よろしくお願いいたします!」
「前衛はあたしゃに任せな!」
「ぶひゅひゅ。男の娘が二人もいるパーティ。僕ちんも運が回ってきたんだなぁ!」
こうして、無事にパーティが結成された。
見た目は固有スキルに関係ないが、何故だか不安だ……。
俺は理由のない不安を覚えていると、少しして巨大モニターの電源が付く。
『プレイヤーの諸君! 無事にパーティは組めたかぁ? ここで揉めてるようじゃ先が思いやられるぞ! がはは!』
『さてさて、時間もないし、次の説明を始めるよッ!』
時間が来たことにより、ベントとナビ子のイベント説明が再開された。
『まずはそもそも、この4444のイベントは、四人組のパーティ四チームが四つの試練を超え、合計四試合のトーナメントで争うというものだ!
『イベントで重要なのは、前半の試練で手に入るEPを集めることだよッ!』
『EPは後半のトーナメント戦で重要になるほか、今回のイベントで手に入る商品交換ポイントでもあるからな! 考えて使わないと、優勝しても報酬が渋くなるぞ! がはは!』
そんな風にベントとナビ子がマイク片手に交互に説明をする。
つまり、試練とやらでEPを多く集め、トーナメントではEPをできるだけ節約するのが理想という訳か。
『さてさて、一気に情報を詰め込むと覚えきれないよね? だからここからは前半の試練について解説するよッ!』
『そういうわけだ! 後半の説明は試練を突破した後ってことだな! がはは!』
そうして、前半の試練について説明を受けた。主に試練では、以下のことが重要のようだ。
・試練は四回行われる。
・試練はパーティリーダーの専用アプリでランダムに決定される。
・EPは試練を突破することでもらえる他、モンスター討伐や特定の条件で加算される。
・早く試練を突破した順番にEPが与えられ、一位500EP、二位300EP、三位100EP、四位0EPとなっている。
・EPはパーティリーダーが管理する。
・試練中は他のパーティと遭遇することは無い。
・試練の途中で死亡した場合、基本的に待機室に帰還する。
・特定の試練では全滅、或いは失敗時にペナルティがある。
・三組目が試練を突破した際には、その一時間後に四組目が試練の途中であっても、突破扱いになり試練を強制終了させられる。
『それでは試練についての説明は以上だ! 気になることがあるかもしれないが、そこはまぁ、頑張れ! がはは!』
『あはは、最後は精神論なんてひどいねッ! けれど、全て説明されもつまらないでしょ? 細かいところは各自の判断でどうにかしてねッ!』
『それじゃあ準備はいいか? 第一回イベント、4444スタートだ! 幸運を祈る! がはは!』
説明が終わると、ベントが正面を指さしてスタートを宣言した。
このイベント、狙うは一位しかないな! トーナメントが今から楽しみだ!
「わわっ!? 始まっちゃいましたよ! 足を引っ張らないように頑張ります!」
「狙うは一位しかないさね!」
「僕ちんルインたんと姫紀たんのために頑張る!」
パーティメンバーの面々もそれぞれの思いを口に出し、やる気を出す。
「よし、それじゃあ始めるぞ!」
俺はスマホにこのイベント用に追加されたアプリを起動すると、巨大モニターがそれに連動して画面を移す。
アプリ画面には、スロットマシンのように目まぐるしく回っており、その下には『ストップ』の文字がある。
ランダムとはこういう意味か。責任重大だな。
俺は緊張しながらも、アプリに表示された『ストップ』をタップした。それにより、徐々に回転はゆっくりになっていき、そして動きを止める。
「第一の試練『千の矢』?」
アプリと巨大モニターには、試練の名称と共に説明文が示されていた。
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第一の試練『千の矢』
迫りくる千の矢をやり過ごそう!
やり過ごした数だけEPが一点加算されるぞ!
この試練は全滅してもクリアー扱いだ!
全てやり過ごしたら追加報酬がもらえるよ!
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文章はふざけているが、その試練の難易度は非常に高そうだった。
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