002 ワンルーム

「んあ?」

 目が覚めると、俺は何もない部屋にいた。

 といっても、先ほどの白い空間とは違い、マンションの一室といった感じだ。

「ここはどこだ?」

 部屋の見渡せば、ドアが一つ、蛇口しかないキッチンらしき流し台。玄関と思われる場所には青い魔法陣があった。

 そして、広々としたガラス窓からは、どこまでも続く草原が広がっている。

「まじでどこだよ!?」

 どうやら俺は、およそ六畳ほどのワンルームに転送されてきたらしい。

 何故ワンルーム? という疑問も思い浮かんだが、現状確認のために室内を調べることにした。

 まず初めに、唯一あるドアを開けば、そこには洋式トイレが鎮座している。ちなみに風呂場は無い。

 続いて六畳間に戻ると、流し台に近づき蛇口をひねる。

「あれ?」

 しかし、蛇口をひねったところで水は出てこなかった。

 どうしたものかと悩んでいると、不意に蛇口の上部に半透明なウインドウが出現する。
「うぉ!?」

 思わず驚きの声を上げつつ、俺は突然現れたウインドウを確認してみる。

 _____________________

 蛇口を利用するにはチャージが必要です。

 1チャージ
 ・10秒
 ・1メニー

 チャージ数を入力してください。

 _____________________

 どうやら、蛇口を利用するにはメニ―というお金を支払う必要があるようだ。

 しかし現状、俺はメニ―とやらを持っていない。そもそも、見るからに電子マネーのように見える。

 当然、電子マネーを使うための端末などもあるわけ……あった。

 いつの間にか、ポケットにスマホらしきものが入っていた。もちろん、俺はこのスマホを見たことは無い。

 スマホの電源を入れてみると、いくつかアプリが表示される。その中には、茶色い袋にお金のマークが描かれたアイコンがあった。

 おそらくこれだろうとアプリを立ち上げてみると、『3,000マニー』と残金が表示される。

 無一文ではなかったことに安堵しつつ、試しに支払うという項目をタップすると、バーコードのようなものが表示された。

 続けて蛇口の方に現れたウインドウに触れると、同じくタッチパネルのように反応したのでチャージ数を1と入力すると、何やら小さな魔法陣が現れる。

 これにスマホを近づければいいのか?

 とりあえずそうなのだろうとスマホのバーコードを魔法陣にかざすと、ピコンッという軽快な効果音が鳴った。

 残高を確認すれば2.999マニーとなっていたので、問題なく支払いが完了したようだ。

 蛇口をひねれば、先ほど出なかったのが嘘のように水が流れ出し、頭上にはウインドウの代わりに残り時間がカウントされている。

 流石にもったいないので、軽く喉を潤すと、蛇口を閉めておく。

 とりあえず、水があればしばらくは生きていけそうだ。

 そう安堵しつつ、次に目を向けるのは窓の外。草原以外何もない広々とした光景だ。

 窓を開ければ、青々とした空から心地よい風が頬を撫でた。

 暑くもなく、寒くもない。丁度よい春の陽気といった感じだろうか。

 そんなことを思いつつ、おもむろに外に手を伸ばそうとすると、30cmほどのところで見えない壁に阻まれた。

「は?」

 どうやら、窓から出て草原に行くことは叶わないらしい。

 俺は軽く溜息を吐くと、窓を閉めて最後に残された玄関の魔法陣へと目を向ける。

 玄関は四角形をしており、その奥にドアの代わりなのか、同じく四角形の床に青い魔法陣があった。

 以前と違うのは、青い魔法陣が光っていないことだろう。

 とりあえず、あの青い魔法陣に乗ってどこかに飛ばされるしか選択肢は無いんだろうな。
 現状、この部屋には水しか得られるものはなく、それも有料だ。もしかしたら、この部屋の家賃とかも取られるのかもしれない。

 そう考えると、どうにかしてお金を稼ぐ必要が出てくる。

 何があるかわからないし、準備はした方がいいよな。まぁ準備と言っても、持っているのはスマホくらいだけど。

 そう思い、唯一の持ち物であるスマホで何ができるのかある程度確認しておく。

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 ……いろいろ便利なのはわかったが、現状何かできるわけでもないようだ。

 そうして、残すところは身だしなみになるが、服装は白いシャツに茶色のズボンとシンプルなもので、室内にもかかわらず茶色いブーツを履いているが、新品のようにきれいなので、今の状況も加味してそこは気にしないことにした。

 そういえばこの服装はあの白い空間のときから身に着けてはいるが、俺の普段着じゃない気がするんだよな。

 なんだかモブのような、又はゲームの初期装備感がある服装だ。

 この部屋に来る前にも思ったことだが、俺には今までどのような生活を送っていたとか、家族構成や友人関係に至るまでの記憶が欠落している。

 自分の名前や知識だけが残っているだけに、人為的なものを感じざるを得ない。

 まあ、今記憶をどうこう言っても仕方がないか。

 そうして、とりあえず準備が整った俺は、青い魔法陣に足を踏み入れる。

 すると、今度はそのまま転送されるということはなく、目の前にはウインドウが現れた。

 _____________________

 ・チュートリアル
 ・クエスト
 ・バトル
 ・ショップ
 ・移動

 _____________________

 ウインドウにはいくつか項目が表示されるが、その中でも最上部に表示されたチュートリアルに視線がいく。

 これは……チュートリアルを選んだ方が無難だろうな。

 逆にそれ以外を最初に選ぶという選択枠は無い。

 そう考えた俺は、チュートリアルの項目をタップした。すると、一瞬青い魔法陣が光ったかと思えば、俺は既に別の場所に移動していた。


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