視界に広がるのは、窓の外から見えた光景と酷似した何もない草原地帯と、一人の少女……。
少女!?
ぱっと見十代半ばの少女は、ポロシャツにホットパンツ、キャップ帽とすべて白で統一されており、黒いショートヘアーと特徴的な紅い瞳をした美少女だった。
思わず自分以外の人間と初遭遇に対して驚いてしまう。
それ見た少女と言えば、ニコニコ笑みを浮かべて近づいてくる。
「いらっしゃいませ! 私はナビゲーターのナビ子! これから簡単なチュートリアルを説明するよ!」
「え?」
ナビ子と名乗る少女の高いテンションに、俺は若干たじろいだ。
「チュートリアルは一回しか受けられないから、ちゃんと聞かなきゃだめだぞッ!」
「……はぁ」
子供を叱るように人差し指を立てる少女に、俺は生返事をする。
なんなんだこの子は? というか、チュートリアルといい、この世界はやはりゲームの世界なのだろうか?
俺がそう思考を始めると、それを見越したかのようにナビ子が口を開く。
「ああ、そうそう、最初に言っておくけれど、この世界はゲームのようであって、ゲームじゃないから、そのことは肝に銘じておいてねッ!」
「それはどういう……」
思わず訊き返すが、それ以上詳しいことを話す気はないようで、ナビ子が改めてチュートリアルを始める。
「ではでわッ、最初のチュートリアルを始めるよ! いでよスライム!」
その瞬間、地面に魔法陣が浮かび上がったかと思えば、そこには青いジュエル状の何かが現れた。
「これを倒せってことか?」
「そうそう、はい、これでぶち殺してねッ!」
「え?」
ナビ子はニコニコしながら、どこからともなく棍棒を取り出して手渡してきた。
「習うより慣れよってね。スライムには打撃が良く効くよ! 中心の核をよく狙ってねッ! 」
どうやら、やるしかないようだ。
俺は初めて見るスライムの前に対峙した。思ったよりも、心は落ち着いている。むしろ、どこかワクワクとした高揚感すらあった。
「くらえッ!」
棍棒を振り上げ、掛け声と共にスライムに叩きつける。それは上手く命中し、スライムの青いゲルを周囲に飛び散らかす。
「うんうん、いいねいいね! 結構みんな最初は尻込みするんだけれど、君はためらうことが無いようだねッ!」
ナビ子が俺を絶賛して拍手をする。そうしている間に、スライムの核を砕くことができたのか、スライムは光の粒子となって消え去る。
そして、そこには小さく透明な白い石が転がった。
「おめでとう! スライムを倒せたようだねッ! 魔物を倒すと、あんな風に消えてドロップアイテムを落とすんだよ!」
「なるほど……」
俺はナビ子にそう答えながら、案外楽勝だったと、心のどこかで思ってしまった。
しかしそれもつかの間、状況は一変する。
「それじゃあ次のチュートリアルでは、一度死を体験してもらうよッ! いでよ! クリスタルドラゴン!」
「……へ?」
その瞬間、俺の目の前には家のように大きなドラゴンが出現した。
その体は青く透明なクリスタルに覆われた神々しい見た目をしている。瞳は鋭く、紅い宝石のようにも見えた。
「でわでわ、殺られちゃいなーッ!」
「う、嘘だろッ!!?」
世界がスローモーションに感じた。走馬灯だろうか、ガチャガチャを回した光景や、蛇口から水を出す光景が思い浮かぶ。
……俺の走馬灯……これしかないのか……。
どこか悟りを開いたかのように、俺は目の前の現実よりも、走馬灯に流れる記憶が少ないことに対してどこか寂しさを感じていた。
そんな中、クリスタルドラゴンの口が大きく開かれ、何かが吐き出された。
いわゆるブレスというものだろうか、地面に針山のような鋭いクリスタルを乱立させながら、俺に向けてものすごいスピードで迫ってくる。
短い人生だったな……。
時間にして一瞬の出来事だった。ブレスに飲み込まれた俺は、体中から鋭いクリスタルを生やしたかと思えば、毒のように体を侵食され、瞬く間にクリスタルの彫刻になり果てた。
≪スキル『クリスタルブレス』をラーニングしました≫
意識が完全に消える瞬間、最後に何かが聞こえたような気がしたが、最早それを確かめることはできないだろう……。
完。
コメントを残す