弟くん収穫祭の初日は、あれ以降何事もなく終わった。
そして深夜の時間帯も誰か来ることが無く、現在は二日目の朝9時である。
平和だが、これで終わりだとは思えない。
いつシスターモンスターが来てもいいように、俺たちは待機している。
ちなみに、昨日ロリ―ちゃんが掘った穴や一部を破壊した第1プレートであるが、そのままにしていた。
理由としては、そもそも補修などできないし、時間をかけて土をかけたところで一瞬で掘り返されてしまう。
また、補修作業中にシスターモンスターが来たら一巻の終わりだ。
秘密基地に籠っている意味がなくなってしまう。
そういうことで、ロリ―ちゃんが掘った穴や第1プレートはそのままという訳である。
「凛也君、また来たわ……それも、一人ではなさそうよ」
「マジかよ……」
鬱実の指さすモニターの一つには、何やら人影が写っている。
よく見れば、先頭にはロリ―ちゃんがおり、その後ろに大勢のシスターモンスターが見えていた。
ぱっと見だが、全部で20人~30人はいるように見える。
しかもそれぞれシャベルやつるはしを持っており、やる気満々だ。
『ふふふ、ロリ―ちゃんが帰ってきたわよ! たくさん仲間も連れてきたんだから! これで、あんたもお終いね!』
高らかにそう言って残虐そうな笑みを浮かべるロリ―ちゃん。
『すごい! 本当に何かある!』
『これって地下に家があるのかな?』
『どんなお兄ちゃんがいるんだろう?』
『たのしみー』
対して、集まったシスターモンスター達はまるでピクニック気分のようだった。
『あんたたち! それじゃあ、やるわよ!』
『はーい!』
『しょうがないにゃぁ』
『お兄ちゃんを発掘ダー!』
『弟くん待っていてね』
そして、シスターモンスター達が穴を掘り始め、プレートを破壊し始める。
これは流石に不味くないか? ロリ―ちゃん一人ならどうにかなったけど、約30人も集まればどうにかなってしまう気がした。
「不味いわね。もしかしたら、破られるかもしれないわ」
「――ッそれは本当にヤバいな」
いつもふざけている鬱実が、今回ばかりは誰が見ても分かるような焦りを見せている。
「ど、どうしましょう……」
「そ、そうだ。裏口みたいのはないんですか?」
夢香ちゃんも焦り、瑠理香ちゃんは裏口が無いか鬱実に訊いた。
確かに、裏口のようなものがあれば、もしものときは脱出することができる。
「ごめんなさい……裏口はないわ」
「そんな……」
「うそでしょ……」
しかし、残念ながらこの秘密基地に裏口は無いようだった。
つまり、逃げ道は無い。
全てのプレートを破壊されれば、この秘密基地に侵入されるのも時間の問題だ。
「くっ、突破されないことを祈るしかないな」
「そうね……」
『あははっ! やっぱりパワー系がいると早いわね! 昨日の作業が嘘のようだわ!』
『兄貴に会うためなら頑張るぜッ!』
『ふんっ、引きこもりの愚弟をさっさと引きずりだしてやる!』
俺たちが落ち込んでいる間にも、シスターモンスター達の作業は順調に進む。
また穴が広がったことで、プレートを破壊しようとしているシスターモンスターをモニターから確認できるようになった。
比較的身長の高いシスターモンスターが中心であり、つるはしを振り下ろす速度が尋常ではない。
ロリ―ちゃんの言っていたパワー系というシスターモンスター達だろう。
「なんだよパワー系って……」
「あれでは、あっという間に……」
「どうしよう……」
残り二日間も耐えられるのか不安になってくる。
だがそれでも、俺たちにできるのは見守ることだけだ。
そうして時間が過ぎていき、気が付けば二日目が終わっていた。
プレートは既に何枚も破壊されており、残りは少なそうである。
どう考えても、三日目中に突破されるのは目に見えていた。
ははっ、やっぱり最後はこうなるのかよ。
一時は、お兄ちゃん保護法で希望が見えていた。
この秘密基地があれば、きっと生き残れる。
そんな希望に満ちていた。
三人への返事をどうするかなど、俺の危機意識はまるでない。
これまでどうにかなっていただけに、俺はシスターモンスターをどこか甘く見ていたのだ。
その結果が、これである。
『もうすぐ会えるからね! このロリ―ちゃんに目をつけられたのが運の尽きよ!』
『お兄ちゃん!、お兄ちゃん!、お兄ちゃん!』
『弟くん!、弟くん!、弟くん!』
シスターモンスターは楽しそうに破壊を続けていた。
諦める様子はどこにもない。
そして、とうとう天井から破壊音が聞こえてきた。
「もう、無理そうだな……」
「そんな……」
「うぅ……」
夢香ちゃんは絶望した顔になり、瑠理香ちゃんは涙を流す。
二人とも、もう助からないことを理解しているのだろう。
「……」
あれだけ騒がしい鬱実も、終始無言だ。
これは、本当に終わったかもしれない。
バッドエンドだ。
ゾンビものの映画でも、バッドエンドはよくある。
現実世界の一般人である俺たちが、こうした終わり方をしてしまうのも必然なのだろう。
もっとあれをしておけばよかった。これをしておけばよかったと、つい考えてしまう。
最後なら、最後なりに言った方がいいよな。
「三人とも、聞いてくれ」
俺がそう言うと、三人の視線が俺に向いた。
「こんなことになってしまったが、最後に言っておく。俺は、三人のことを愛している。死んでも、愛し続けることを誓う。はは、もっと早く言えばよかったな。ごめん」
「凛也先輩……」
「凛也お兄ちゃん……」
俺の言葉を聞いて、夢香ちゃんと瑠理香ちゃんが俺に近づき、ゆっくりと抱きつく。
当然、俺も二人を抱きしめた。
「本当に、遅すぎますよ……でも、うれしいです」
「うん。最後にこんな幸せなら、怖くないよ」
涙を流して微笑む二人につられて、俺も笑みを浮かべて涙を流す。
本当に、どうしてこうなったんだろうな……。
俺たち三人がそんな心情でいると、反応の無かった鬱実がようやく動き出した。
「ふ、ふふふ。勝った。最後に勝ったわ。これで、あたしが女王よ」
「は?」
何を言っているんだ? とうとう本当におかしくなったのか?
俺は一瞬、鬱実が何を言っているのか理解できなかった。
それは二人も同様のようだ。
「時間がないわ。三人とも、ついて来て」
「ちょっ! どういうことだよ!」
鬱実はそれだけ言うと、秘密基地の奥へと歩き出す。
くっ、今はついて行くしかないか。
どういうことか分からないが、俺たちは鬱実の後を追いかけた。
辿り着いたのは鬱実の部屋であり、既に壁には見慣れない扉がある。
「なんだよこれ……」
「もしかして、裏口でしょうか?」
「えっ、でも無いって言ってたような……」
突然現れた扉に、俺たちは動揺した。
「大丈夫よ。ついて来て」
鬱実はそう言うと、扉を開いて先へと進んでいく。
「と、とにかく今は鬱実について行こう」
「そ、そうですね」
「うん」
何が何だか分からない状況の中、俺たちは扉の奥に進む。
壁は全面鉄のようなもので覆われており、ところどころ青い光が走っている。
まるで、SFの世界に入り込んでしまったようだった。
「こんなところがあったのか」
「凄いです。でも、なんで今まで教えてくれなかったのでしょう?」
「何だか、るり不安になってきました」
鬱実の行動はこれまでもおかしかったが、これは次元が違う。
この先に何が待っているのか、俺たちが不安になるのも仕方がなかった。
そうして長い廊下がしばらく続き、巨大な部屋に出る。
「まじ、かよ……」
「これって、夢ですか?」
「ほぇぇ……」
俺たちは目の前の光景に驚き、夢ではないかと疑ってしまう。
なぜならば、そこには巨大な宇宙船と思われる物体が存在していたからだった。
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